第27話 大椿太夫の情念
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――こうして家に帰り、皆に大椿太夫を紹介すると――。
姉妹のように似た姿の桔梗さんと大椿さんは涙を流して語り合っていた。
『あちきら、よう似ておりんしたやろ?』
『……ほんに。これほどまでに、よう似た子がおりんすとは……』
――そっと触れ、確かめるように微笑む二人。
確かに大椿太夫と桔梗さんはよく似た姉妹のように見える。
ヒイラギから〝持ち主に付喪神は似る〟と聞いていたが、こうして見ると圧巻だ。
するとお琴が――。
『太夫はんは、よう艶やかでありんすなぁ!』
『子どもに褒められるやなんて……よう久方ぶりでありんすなぁ』
お琴の言葉に、怨念としての念ではなく……。
もっと清らかな魂にシフトしていくような感覚を受けた。
だが、この世界では清らかな魂で居続けることは難しいのも知っている。
できるだけ早く小次郎さんに会わせないといけないのだと覚悟した。
が――その前にだ。
「お琴、言葉遣いを桔梗さんから習ったのか?」
『花魁言葉は、なかなか難しくてこれくらいしかいえんのじゃがな!』
「ははは、お前は艶っぽく言わなくとも、ありのままで十分可愛いよ」
そう告げるとお琴は俺の後ろから抱きついてきて嬉しそうだ。
その様子を嬉しげに微笑んで見る他の面々に、思わず苦笑いが溢れる。
『光一様は、こうして付喪神を一人の人間として扱うてくださりんす。きっと……大椿太夫が怨念でありんしても、同じことでしょう』
『ほんに……得難きお人でありんすなぁ』
「はは……。それより、清さん。大椿太夫の命が一部食われたらしいんだ。診てもらっていいか?」
『はい、僕もそれは気になっていました。大椿様。少々見せて頂いて宜しいでしょうか』
こうして、俺の主治医でもある清さんが大椿太夫を検査することになったのだが――眉を寄せ小さく「確かに……」と口にした清さん。
『……まだ身体が安定しておりませんね。魂の光が……ひと欠けだけ奪われています。光が食われたと言うべきでしょうか……。少し休めば戻りますよ』
『魂に傷……それは治るものなのか?』
『軽くなにか濁りが見受けられます。ですが、ここにはヒイラギさんもいますし、何より光一さんがいらっしゃいますから……。魂についた濁りはすぐに消えるでしょう。どうでしょうヒイラギさん』
そう清さんが告げると、ヒイラギは淡く光り大椿太夫の身体もじわりと光る。
俺はすぐに時計を置いてみたが、どうやら時計は付喪神にしか作用しないらしく、秒針は動かなかった。
けれど――。
『……面倒な濁りは、ほとんど感じぬ。だが、わずかな欠片だけが……癒えておらん』
「酷い傷じゃないんだな……良かった。しばらくは休んでもらおう」
『ようござりんしたな、大椿太夫』
『ええ……おおごとにならんで済んで、ほんにようござりんした。まずは、わっちの魂を落ち着けんことには……小次郎様の元へも、胸を張ってよう行けんのでありんす』
(焦らなくていい……太夫さんは長い時間を一人で耐えてきたんだ。だったら今くらい、俺が守らないといけない)
『この様子なら、明日明後日の土日で治るでしょう』
『きよさん……ほんに……かたじけのうて……ござりんす……』
――とりあえず、鍵となる人物は揃った気がする。
後は鬼に形を変えている濁りである小次郎さんと話をつけて、もとに戻って貰えればいいが……。
「……この家に来た付喪神たちは、みんな最初は〝消えかけ〟だった。太夫さんも、ゆっくりでいい。ここなら、きっと落ち着ける」
そう告げることで太夫さんも落ち着き、桔梗さんはそんな太夫さんに寄り添っている。
『あちきが太夫はんにして差し上げられることは……そばにおること、ただそれだけでありんすが……』
『桔梗、それだけで……わっちはどれほど癒やされることか……。どうか……小次郎様のこと、いろいろ教えてくだしなんし』
『あちきに語れることなら、なんでも……お話し申させてもらいんす』
――こうして、桔梗さんと太夫さんは姉妹のように今まであったことを語り始めた。
太夫さんの話を聞いていると、本当に理不尽に振り回された人生だったようで、それでも小次郎を想い、心を保ってきたのが伝わる内容だった……。
その小次郎との破談。
それがどれだけ太夫さんの心を傷つけたかは想像に難くない。
『それでもなお……わっちは小次郎様を捨てきれんのでありんす。あの御方と共に……できることなら、来世でこそ結ばれとうござります……』
涙を流し語る大椿太夫に、誰もがその深い愛に触れた気がした。
裏切られたとも、憎んでいるとも言わない太夫さんの心が、どれだけ清らかなものなのか……。どうしてそこまで保つことができるのか。
『ふふ……怨念でありながら、何ゆえそこまで耐えられるのかと……お聞きになりたいのでありんしょう?』
「え?」
『お顔に……よう出ておりんすよ?』
太夫さんにそう言われどきりとしたけれど、彼女は柔らかく微笑んで口にした。
『死してなお未来を語るなど……可笑しゅうござりんすかえ?』
「いや……。だからこそ、語る未来があっても、いいと俺は思う」
『あの御方を想わなんだ日は……一日としてありんせなんだよ』
「……俺は出来れば、大椿太夫さんと小次郎さん、二人揃って次の未来に繋がることが出来たらいいなと……思っているよ」
……黄泉送りができればきっと。
そう願わずにはいられなかった。
決戦は月曜になるだろう。
……月曜、小次郎さんが〝誰に〟会いに来るのかは、まだ分からない。
ただ、その足音はもう――すぐそこまで来ている。
楽しんでいただけていたらいいんですが……(;´Д`)
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