第26話 涙の怨念……花魁の大椿太夫の願い
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森田と向かった小林の家は――とても大きく立派な日本家屋だった。
大きな蔵も三つもあり、大商家だったのがうかがえる。
(なんとも……映画に出てきそうだな……いろんな意味で)
正に、〝そんな雰囲気のするお屋敷〟だった。
だが、確かに何かが住み着いている。
それを嫌というほど感じたのは、小林の家に入ってすぐだった。
ゾワッとする感覚。
だがゾワリとはしたが、嫌な気はしない……。
むしろ、長いあいだ誰にも届かなかった悲鳴を聞かされたような。
そんな気分だった。
――人間しかいないはずの屋敷に、人間以外の何かがいる。
ヒイラギは身体を膨らませて警戒態勢に入った。
住み込みで働いているというお手伝いさんに案内されて向かったのは、小林の部屋。
入ると、元気そうな小林がいてホッとする。
しばらく歓談して、学校にはしばらくいけないことを教えてくれて……。
帰りに、花魁の絵を見せてほしいと頼むと、一階にあるとある部屋に案内された。
そこには花魁の絵しか飾っていない特別な部屋らしい。
「何代か前の爺様が、この部屋に物を置くなって言って、それを守ってるんだ」
「へぇ……」
「花魁の絵しか飾ってないけど、驚くなよ?」
「その花魁の絵が見てみたいんだよ」
「ははは、俺も入るのは久々だからなぁ……」
(確かにこれだけ大きいお屋敷だと、入らない部屋も多そうだ)
そう言って案内された襖を開けた途端、とんでもない冷気が漂ってきた。
確かに――〝いる〟。
それを嫌でも感じる冷気だった。
小林達は気づいていないようで、中にすんなり入っていく。
俺は気をつけつつ一歩ずつ進み、目の前にある大きな絵を見て息を呑んだ。
そこには――〝大椿太夫の全身図〟があった。
金を積んで作らせたであろう絵はあまりにも立派で美しく、小次郎さんがいかに大椿太夫を愛していたのかわかる代物だった。
「大椿太夫。何代か前の爺様が嫁にするはずだった花魁らしい」
「ははは! 改めて見ると凄いな!」
「あ、ああ……凄いな……」
「かなり金を積んで身請けまであと一歩って所で破談になったって聞いてる。太夫になるくらいだから凄い人だったんだろうなぁ」
小林が自慢げに語る。
その瞬間、絵の目が俺を見た。
いや、二人は気づいていない。
だが確かに目が動いて俺を見ているのだ。
『お前さんから……小次郎様の気配を、やけに強う感じるのでありんす』
「!」
『小次郎様に……っ、小次郎様に……逢わせてくだしゃんせ……! お願いでありんす……どうか……どうか逢わせてくだしゃんせぇ!』
(悲痛な嘆き声……)
途端、絵から怨念が飛び出し俺の肩に手をおいてふわりと降り立つ。
ゾワリとはしたが嫌な気はしない……。
涙を流し、愛した男に会いたいという願いを感じる……。
悪い怨念ではないのかもしれない。
だが姿にノイズが入って……まだ安定していないのかもしれないな。
すると――森田がこんなことを言い出した。
「そういえば学校の怪異事件、今少しバズってんだよね」
「学校の怪異事件はあれ程学校側も出すなって言ってただろう?」
「匿名だから学校側かもわからないって。でもいい感じにバズっててさ」
「お前……そういうとこあるよな」
「人間なんて所詮承認欲求の塊だろ? バズると気持ちがいいぞ~」
「はぁ……。他人の不幸でバズっても仕方ねーだろ」
「馬鹿だな。最低発言かもしれないけど、人の不幸は蜜の味っていうんだぜ」
森田の発言に小林が注意しているが、森田は悪いとは思っていないようだ。
――こいつ、こんなに承認欲求の塊だったか?
確かに学校の事は外に出すなとは、学校側から注意を受けていたが……。
「秋口でも怪異って人気高いんだなーって思ったよ」
「怪異に秋も冬もないだろう」
「確かに言えてるな!」
「でもたくさんの生徒が襲われたんだ……。発言は控えたほうが……」
俺も注意をすると、森田は少しムスッとしていたがすぐに機嫌を直した。
「お前たちもバズりたいんだろ~~?」
「いや、俺はそもそもそういうのはしてない」
「俺も見ないな。正直あんまり精神面に良くないって聞くし」
「確かに色んなフェイク情報とか出回ってるし、あっちこっちで炎上してるけど、おれはそういうのを見てゲラゲラ笑ってるタイプなんだよ」
「「はぁ……」」
「森田、お前いつか痛い目に遭うからな」
小林の注意に森田はケラケラと笑い、あまり聞いていないらしい。
友人の注意は真摯に聞くべきだと思うんだが……まぁ森田だしな。
だが、少しだけ違和感だけは感じた。
(……森田、何かいつもと違う気もするが、気のせいか? ――いや、今日の森田の〝軽さ〟は、どこか引っかかる)
「さて、小林の元気な顔も見られたし帰るか」
「それもそうだな」
「暫くしたらまた学校に行けると思うけど、なんか悪いな」
「今度からは柳原も小林の家にプリント渡せに行けるな!」
「あ、ああ、そうだな」
「助かる!」
こうして俺と森田は小林の家を後にし、家路へと就く中……分かれ道で森田と別れて歩き出すと――。
「大椿太夫……で間違いありませんね?」
俺に憑いてきてしまった浮世絵の大椿太夫に声を掛けると、小さく頷いた。
「貴女の簪に付喪神がついて、その付喪神が我が家にいます。恐らく貴女が俺についてきたのは、その付喪神の気配もあったんでしょう」
『付喪神が憑くほどの長い刻……わっちはほんに、長う……小次郎様とは離れておりんしたのですなぁ……』
「貴女の身体が安定するまでは小次郎さんと会わせる事は出来ないかもしれません」
『この、わっちの身体を……ざらざらと走る、この感じ……』
「ん?」
『なにかに魂を、ほんの少し……食われた後やと思うておりんす』
「食われた?」
だが――あの時一緒にいたのは小林と森田だけだ。
おかしな行動をしたものは誰もいない。
(それなのに、食われるって……。胸がざわつく……嫌な予感しかしない)
『つまみ食いのようなものだろう。だが鬼の気配も何もなかったが……』
「ヒイラギもそう感じるよな?」
『不思議なものでありんす……。すぐに安定もしんしょうから、その折にはぜひ……小次郎様に』
「分かった。暫くは俺ではなく簪を依り代にしておいてくれ」
もしかしたら、長い年月の間に、小林の家に鬼が来たことがあったのかもしれない。
あれだけ大きい家だ。
大人数の人間の中にいる場合もあったかもしれない……。
流石に今日食われるということだけはないだろう。
小林も森田も普通だった。
もし食われたとしたら、小林についていた鬼のが反応したのかもしれないしな。
憶測でしかないが……。
――だが、事態はそう上手く行くだろうか?
希望的観測だったが、果たして……。
楽しんでいただけていたらいいんですが……(;´Д`)
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