第24話 取り憑かれている小林と……濁りの男
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途端――ヒイラギの身体が一気にぶわっと膨らんだ。
目が真剣のように見える……本気で何かを警戒している姿だ!
俺が小林の方を見ると、そこに彼の姿はもうなかった。
だが、本当に一瞬だったが瞳に赤い灯が見えた気がしたんだ……。
桔梗さんの話では、この学校からは出られない濁りだと言っていた。
では、あの鬼になりかけの濁りは、この学校をどうするつもりなのだろうか……。
だとしたら、あの鬼になりかけの依り代を探し、黄泉送りするしかない。
「ヒイラギ、あの鬼の依り代を探すしかない……かもな」
『だが旧校舎はとても広い。依り代を探すだけでも一苦労だろうな』
「確かにそうだな……」
しかも、先生に見つからないように……という縛り付きだ。
難易度の高いミッションみたいで、まるでゲームだよ。
それに、あの簪が落ちていた位置も不自然だった。
教室の端……まるで「見つけてほしい」と置かれていたかのように落ちていた簪。
肝試しに行った生徒が拾って、落とした……? そう考えるしかない。
「とにかく教室に向かおう。何か起きるとしたらその時だ」
『しっかりお守り申す』
ヒイラギの言葉に頷き、俺は教室へと向かう。
その道中もまとわりつく気配と、空気の梅雨時のような重さを感じ……。
秋らしいカラッとした空気は消え失せていた。
皆も不満を口にしつつ歩いている。
空気が重い、息苦しい……。
俺もそんな気持ちで階段を上り、教室へと入っていく。
森田はそんな空気など全く気にした様子はなく。
俯いている小林に「どうしたんだー?」と声をかけていた。
「おはよう森田に、小林」
「お、おはよう柳原」
「小林は気分が優れないのか?」
「そうみたいなんだよ~。ずっと俯いててさ」
「小林、あまり無理はするなよ?」
そう言った瞬間だった。
教室のドアガラスが、外側から割れた。
ひびが花みたいに広がったかと思うと、破片が俺めがけて飛んでくる。
わざと狙ってきたような、鋭い軌道だった。
反射的に身構えた俺を、ヒイラギの結界が守る。
破片は弾かれて床に散らばり、バリン、とパリン、と音が響いた。
「大丈夫か柳原!」
「あ、ああ……。急にガラスが……」
「俺も見てた。どうして外から割れたんだ?」
「わからない。小林は無事か?」
小林を見ると、俺をじっと睨んで眉を寄せていた。
まるで――「忌々しい」とでも言いたげに。
喉から声は出ていない。
取り憑かれている間は、声が出せないのかもしれない。
「お、おい小林? そんなに睨むなよ。柳原が怪我なくて良かったじゃん?」
「……」
「駄目だこりゃ。あの肝試しから小林の情緒が崩れちまってる。本当に何があったんだか……」
「そうだな……」
森田が呆れた様子で語ると、小林はまた俯いてしまった。
だが、これではっきりした。
鬼になりかけの濁りは……俺が邪魔なんだな。
その理由はわからないが、俺から感じる千手観音様の力に関係するのかもしれない。
憶測でしかないが、強い恨みを感じたんだ。
それからの小林は、完全に声が出なくなった。
先生は「ショックな出来事があったのだろう」と気遣ったが、本当の理由とは程遠い。
依り代を探して旧校舎を回っても……どうしても見つからなかった。
「数日かけて探しても見つからないなんて」
『主、そろそろ帰らないと教師の巡回時間がくる』
「やばっ! それもそうだな」
そう言って旧校舎から出た時、ガッと肩を掴まれ旧校舎の壁に打ち付けられた。
(何だ!?)
ヒイラギの結界は張られていたはずだ。
だがそれをすり抜けた!?
目を開くと、赤い灯を宿した男が、すぐ目の前に立っていた。
服装や雰囲気からして、江戸時代の男だ。
『何故邪魔をする』
「何が!」
『何故彼女を連れ帰った』
「彼女……桔梗さんのことか?」
『あのまま共に朽ち果てようと思っていたのに……。あのまま共に壊れてしまおうと思ったのに……。ああ、憎い。憎い、憎い。自分のしでかしたことの罪はとても重い。耐えきれない。消えてしまいたいのに貴様のせいでっ!』
「――っ!」
『わしの血族が憎い、ああ、憎しや……。あの男もいっそ殺してしまいたい』
「小林を……! アンタと小林は血が繋がって……? 殺すなんて、そんなの許さないぞ!!」
『憎しや憎しや……。ああ大椿太夫……』
そう口にした途端、ヒイラギは自分の羽根を引きちぎり男の上に乗せると、男は煙を上げて「ぎゃあああああ!!」と悲鳴を上げて俺から手を離した。
ヒイラギの白い羽根が焼け焦げていく。
それと同時に、男は顔を覆い暗がりに消えていった……。
『主、すまない……。よもや結界が破られるとは』
「いや、あれは結界では意味がない……。だが、何かヒントのようなことを言っていたような気がする」
(〝共に朽ち果てようと思っていた〟〝共に壊れてしまおうと思った〟……これがヒントだ。きっと)
もしかして……依り代は……簪?
あの簪に二つの付喪神がつくことなんてあるのか?
いや、付喪神ではない。
あの男は恐らく……怨霊とはいかないが、死んだ男の霊のようなものだ。
ただ、力が強い。それだけ生前の苦しみが重かったのかもしれない。
死んでなお、桔梗さん……いや、大椿太夫の簪に宿るほどに――。
「桔梗さんに聞くことが出来たな……」
「あれ、まだ帰ってなかったのか?」
「森田」
落とした鞄を拾い、肩にかけていたところで部活帰りの森田と出くわした。
そこから一緒に帰ることになり――思わぬ情報を手に入れる。
それは〝小林の家〟についての情報で。
――そこに……彼女の名前が出てくるとは、思いもしなかった。
楽しんでいただけていたらいいんですが……(;´Д`)
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