第21話 学校での怪異と……花魁の付喪神
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ヒイラギが警戒する中、俺は授業を受けることになった。
この学校のどこかに……鬼がいる。
小さな付喪神たちは、今日に限ってほとんど見ることはなかった。
それが正に……異変を物語っていた。
――いつもの学校が重苦しい。
朝の朝礼で、昨日の肝試しで、大怪我人が大量に出たという話が飛び出した。
警察も旧校舎を調べているらしい。
最初は外部犯かとも言われたが――どうも違う。
(人死にが出なかっただけ、マシなのかもな……)
ある意味それは、奇跡的なことだろう。
犯人は鬼の面を被った生徒だったらしい。
……しかも、刃物で切られたはずの傷が、爪で裂いたようにしか見えないという。
「怪異だ怪異」
「やべぇ。バズるんじゃね?」
そんなワクワクした声が聞こえる中、なんとも人の不幸は蜜の味とでも言いたげな皆に、俺はため息を知らず知らず吐いていた。
俺だけが、犯人が〝鬼〟というのを知っているからだろう。
(もし本当に何かあっても、俺は黙って見ているしかないのか……?)
――その鬼が学生に紛れているという事実。
いつ学校で悲劇が起きるかもわからない。
その瞬間、ヒイラギの身体がぶわりと膨らんだ。
途端――誰も座っていない椅子が、ガターンと音を立てて倒れたのだ。
騒然とする教室、先生の怯えた「落ち着きなさい」という声。
確かに何かが〝居る〟空気。
……教室の隅だけ空気が冷たい。
背中がぞわっと粟立つ。
その時、夏休みに俺に声をかけた小林に目が行った。
〝異様に疲れた顔をしている〟が、一体何があったのだろうか。
目が虚ろな小林に声をかけようとしたその時――背後から声をかけられた。
『忌々しいな……。お前みたいな奴がいると、とってもやり難い』
「――っ!?」
バッと背後を見たが人の気配はなかった。
だが確かに声はした。
間違いないはずの声だった……。
姿は見えない……。だが確かにソコに居たのだ。
変な汗がじわっと背中を伝う。
警戒を怠らないヒイラギが俺を守るように瞬時に結界を張った。
それだけで緊急信号というのがわかる……っ!
『主、確かにこの教室に鬼はいる!!』
おいおい、誰が鬼なんだよ……勘弁してくれ。
……誰も鬼のお面なんて被ってない。
鬼の付喪神ならば、鬼の面を被っていて然るべきだろうに、誰もお面をつけていなかった。
ならば、生徒に知らない奴がいるのではと見渡したが……妙なざわつきを覚えるだけで、皆知っている顔に見える。
――意味のわからない違和感。
――確かに、鬼がいるという恐怖。
心臓がドクドクと早鐘を打つが、教室に紛れ込んでいる鬼が誰かわからない。
ヒイラギは教室の隅で耳を立てていた。
『巧妙に隠れている……我でも探せない』
「そうか」
『我は結界で主を助けることはできるが、弟のように怪異を見分ける力はそこまで強くはないのだ……すまない主』
「弟? そんな話、初めて聞いたんだけど」
そうぼんやり考えつつも、皆が各自椅子に着席する頃、俺はもう一度小林を見た。
その時……ぼんやりとだが、小林の顔に鬼の面が……見えた気がした。
思わず目を開く。
だが一瞬のことで、俺の見間違いかもしれない……。
「小林……?」
『何か異変を感知したのか?』
「……確か、小林って昨日の肝試しに参加してたよな」
そう思い授業を受けていたが、小林は一限目が終わる頃、気分が優れないと帰ってしまった。
だが教室にはまだ鬼の気配は残っていた。
まるで鬼の瘴気にあてられるかのように、また一人、また一人と早退者が出る。
その時、ふと俺に声を掛けてきたのは――森田だった。
「なんか、クラスがおっかねぇな」
「え? ああ……そうだな」
「朝突然誰もいない椅子が倒れたのもそうだけど、一体何が起きようってんだろうな」
「さて、何が起きようとしてるんだろうな……」
「小林も昨日から様子が変だし、な――んか学校自体が辛気臭いっていうかさ」
「辛気臭いか……」
「学校を襲った怪異! 生徒を次々と襲い、見えない何かは生徒を襲う! これバズると思わね?」
「俺はそういうのはやらないからな。興味がないんだ。それより、人の不幸を使うのはどうかと思うぞ」
「承認欲求のないやつだな。俺は一度でいいからバズってみたいんだけどな」
欲深いというべきかなんというべきか。
森田はこの異様な空気の中でも平然としていた。
それが返って安堵するというべきか……森田らしいというべきか。
その様子に安堵感すら覚えた。
だが教室ではまた一人……と早退者が出てくる。
――これでは授業も成り立たない。
半数を割ったところで、仕方なく先生は生徒に帰るよう指示を出した。
そうなると、昼休み前だが学校を後にするしかない。
「なぁ柳原、旧校舎行ってみねぇ?」
「俺は遠慮する。家に帰るよ」
「えー……一人で行くのも怖いんだよ」
「昨日の事件があったんだから、大人しく家に帰ることをオススメするぞ」
「あー確かになぁ……。あの事件がなければ旧校舎行ってみたかったけど、しゃーない。帰るわ」
「気を付けてな」
そういうと森田は鞄を持って帰っていった。
その途中、クラスの影がふっと揺れた気がした。
見えないのに、確かに〝いる〟。
背筋がじわりと冷えて、気持ち悪さだけが肌に残った……。
確かにいるというのに姿がわからない恐怖というのは……ストレスが凄いな。
背中のどこかを、冷たい爪でなぞられているみたいだ――。
ヒイラギが震えている……。
『主……これはただの付喪神ではない』
(鬼は特別ってことか)
俺のポケットには爺様が入っている。
暁様と宵様のお力で、懐中時計の爺様を持っている時は付喪神が見える筈なんだ。
それなのに……こいつでも見えないって何だよ……。
そんなことを考えつつヒイラギと共に帰っていると――。
旧校舎から誰かが俺を見てる気がして顔を上げた。
(姿は……見えないな。だが呼ばれている?)
だが、光に反射して見えないだけで、誰かに呼ばれているような気がする。
それも〝旧校舎から〟だ。
胸の奥がざわつく……行かねばならないと本能が告げている。
「ヒイラギ、旧校舎から誰かに呼ばれてる気がする」
『主! 旧校舎は危険だ!』
「すぐ戻る。確かめるだけだ」
『あ、主!!』
俺は走り出すと靴を履いて旧校舎へと向かう。
ヒイラギも続けて俺に合わせて飛んで結界を張ってくれる。
それだけでありがたい……。
警察は既に帰っていて、俺は立入禁止のロープをくぐって中に入る。
埃が日差しに当てられてキラキラと輝き、その中を呼ばれた方へと進んでいく。
粉埃のにおいが、妙に濃い。
「……頼む、鬼だけは勘弁してくれ……」
『主、落ち着け。結界は張っている』
内心は俺だって鬼が怖い。だが呼ばれているのに無視はできない。
音無き声が聞こえる気がした。
そして、その声に導かれて向かった先にいたのは――。
――色の褪せた花魁道中の着物に……冷えた夜の灯りみたいな瞳。
人の「遊女」の姿をした付喪神だった……。
『……お待ちしておりましたえ?』
シャラン……とかすかな簪の音がする。
そう、切なげに微笑んだ花魁の付喪神は、俺に向かい歩み始めた――。
第二章突入です!
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