第20話 夏の終わりと、旧校舎での肝試しで――
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――夏休みが明けて、高校での新学期が始まった。
「肝試し委員会」と名乗る生徒たちがやってきたが――。
俺は深く頭を下げて、不参加の意思を伝えた。
「悪いが、俺は怖いのは苦手なんだ。なんと言われようとも参加はしない」
「ビビりかよ」
「それは森谷も言われた。とにかく、俺は怖いのは苦手なんだ。苦手だと言っている人間を無理やり参加させようって言う馬鹿な委員会じゃないとは思いたいが?」
「……わかったよ」
「あと一人なんだけどなぁ」
彼らが去っていくのを見送りながら、そっと息を吐いた。
肩の上にとまっているヒイラギも、辺りをじっと見回している。
学校には、思ったよりも多くの付喪神がいる。
音楽室の古いピアノ、化学室の標本や実験道具――。
いろいろなものに魂が宿っているようだった。
彼らは俺を見ると……まるで手を伸ばすように両手を広げてくる。
それは「助けて」と言っているというよりも、「さみしい」と伝えているように思えた。ずっと誰にも気づかれず、暗い場所に置かれ続けたからかもしれない。
「ごめんな、君たちを助けることはできないんだ」
そうつぶやくと、付喪神たちはぽろぽろと涙を流しながら、静かに去っていった。
申し訳なさはあったけれど、学校の備品を勝手に持ち出すわけにはいかない。
それでも――せめてもの気持ちとして、別れ際に飴玉をそっと手渡していた。
ほんのひとときでも、甘い幸せを感じてもらえたらと思ったのだ。
(俺に学校の備品の付喪神は救えない……。せめて甘いもので癒やされてほしい……)
飴玉を手に去っていく付喪神の一人は、振り向くと嬉しげに手を振ってきた。
思わず手を振りそうになったのを止め、微笑んでやると嬉しそうだった。
『主はトコトン甘い……』
「恩を売っておくのも良いかなと思ったんだけどな」
『あのような小さな付喪神に恩を売っても、何の得にもならんだろうに』
「それに、甘いものを食べたら幸せになる。ヒイラギだってナッツを食べたら幸せだろう?」
ヒイラギは『ぐぬぬ……』と黙りこみ、俺は笑いながら廊下を歩いた。
――肝試しを断れただけでも、今日は上出来だ。
俺が参加しなければ、きっと何も起こらない……そう信じたい。
もはや自分がトラブルを呼ぶ存在のようにも思えるが、それで誰かが守られるなら、それでいい。
時々ポケットに飴玉を忍ばせて、付喪神たちが来た時に、そっと渡せれば……。
それでいいと思っていた。
「肝試しは旧校舎の渡り廊下からか」
ふと思い出す。
学校の本校舎と旧校舎は、一階の渡り廊下でつながっている。
でも、あそこはガラの悪い生徒たちがたむろしている場所で、普段から避けている。
――普通の生徒なら、あまり近寄らない。
(そんな場所から肝試しが始まるとは、なんとも無謀だな……)
「これ以上の面倒ごとは御免だしな」
『肝試し等、厄介事の臭いしかしないからな。主は賢明な判断をしたと思う』
「ははは、そうだといいな!」
夏休み明けの旧校舎への肝試しまで日にちはある。
俺はそれまで、関わらず、立ち寄らず……静かに過ごそうと決意した。
◇◇◇◇
それからの日常は、お琴と清さんとの生活は順風満帆で――。
学校帰りにたまに、二人にジュースを買って帰る日もあった。
特に清さんは炭酸が好きだったようで、とても喜んでくれる。
『この、しゅわしゅわする感覚がたまりませんね』
『私は嫌いじゃ……炭酸は舌がびりびりする……』
「お琴は、子ども舌だからな。仕方ない仕方ない」
『子どもではないぞ!? 炭酸くらい……炭酸くら……い……』
ギラリと目を光らせ、清さんの炭酸飲料を狙うお琴を清さんから引っぺはがし、オレンジジュースを手渡すと目を輝かせて飲んでいる。
お琴にはそのくらいが、ちょうどいい。
「お琴はオレンジジュースや、リンゴジュースでちょうどいいんだよ」
『確かに美味じゃからのう! 私はこっちでいいぞ!』
『ふふふ』
『やれやれ、付喪神のために時折供物を与える主に、なんと言えばいいのやら』
清さんは嬉しそうに炭酸飲料を飲み、ヒイラギからは呆れられたけど、俺たちの距離はこれくらいがいいんだ。
まるで本当に「家族」みたいで……さ。
それから数日経った――残暑厳しい九月。
外からはセミの声がまだ響き渡り、風だってまだまだ生ぬるい。
部屋の風鈴が、チリンチリンと音を立てて、涼しさを演出していた。
(今日は旧校舎での肝試しか……。何事もないといいんだけどな)
一抹の不安が胸を生ぬるい風のように撫で上げるように去っていく……。
本当に……何事もなければいいが……。
その夜、今年は花火をしなかったからと、祖母が沢山の花火を買ってきてくれた。
「お風呂上がったのに、また風呂に入るのは遠慮したいな」
「私も買ったはいいけど、足が悪くて出来ないわね」
「なら、俺がしてきていいかな?」
祖父母にお願いして沢山の花火をもらい、庭で付喪神のみんなと花火をすることになった。
ヒイラギは煙が苦手らしいけど、縁側で見守ってくれているようだ。
『今の時代の花火とは、勢いがあって鮮やかですね!』
『私はちょっと怖いぞ……』
「ほら、お琴、一緒にしよう」
花火の勢いに怖がるお琴と一緒に花火をすれば、お琴は色鮮やかな花火を見てびっくりしていたけれど、慣れると楽しげだ。
沢山の花火で遊び、最後に残った〝線香花火〟で締めくくっていると――。
『私たちは、光一と出会えて幸せだな』
『ええ、ここまでしていただけるなんて……この上ない果報者です』
「二人とも大袈裟だな」
『元は壊れかけの道具なんですよ。いつ捨てられてもおかしくない、ボロボロの道具』
『普通の人なら、そのまま捨ててしまうのじゃろうな……』
『でも、光一さんはその僕たちに、ここまでしてくださる。感謝しかありませんよ』
「二人とも……」
思わず二人を見ると、幸せそうな顔で――。
『ありがとうございます』と、言ってくれた。
俺だって、この力がなかったら……どうなっていたか分からない。
ゴミだと思って、捨ててしまう命もあったかもしれない。
でも、貰った力のお陰で、本当に助けるべき相手を、間違えない術を身につけた。
(お琴や、清さんのように)
けど、助けられない付喪神もいた。
〝爺様〟だけは、俺にはどうすることもできなかった。
そのことだけは、俺の中にしまっておこうと思う。
「こっちこそ、出会ってくれて……ありがとう」
優しく微笑み、最後の線香花火が落ちる頃――俺たちの花火は終わった。
最後に俺は風呂に入って、みんなで部屋と一緒に眠りについた――。
夏の終わりの始まりの頃だった。
――だが、翌日学校に行くと……。
「え? 今、なんて……」
「だから! 昨日大人数の怪我人が出て……」
「旧校舎の……肝試しでか?」
「そうだよ……」
「みんな、変な化け物に襲われたって言って錯乱状態だったみたいだ」
「変な……化け物」
ゾワゾワする。
ザワザワする。
これは何かの危険信号なんじゃないだろうか?
――でも、何に対する危険信号なんだ?
『微かに……鬼の香りがする』
「え?」
『気をつけろ主……もしかしたら生徒に紛れているかもしれん』
その言葉に、背筋が一気に凍るように怖気立った。
この学校の生徒に……鬼が紛れ込んでいる?
だが鬼のお面をつけているとヒイラギは……。
(一体何がどうなってるんだ……)
不安は拭えないまま――俺はその日の授業を受けることになる。
ここで第一章完結です!
続けて第二章に移ります(`・ω・´)ゞ
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