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忘れられる前に、最後の願いを。  作者: 寿 明結未(ことぶき・あゆみ)
付喪神ーお琴と清さんー

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第19話 甘いって、そんなに悪いこと?

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 骨董店に着いてみると、やはりそこにいた付喪神たちの多くが俺に集まってきた。

 けれど、彼らからはあまり良い印象を受けなかった。

 こちらを利用して、ただ守ってもらおうという気持ちが透けて見えすぎていたのだ。

 そういう付喪神のために命をかける気には、どうしてもなれなかった。


 申し訳なかったが、店をあとにした。


 ――いい出会いがあるかどうかは、結局は運次第だ。

 お琴との出会いも、清さんとの出会いも、運命のようなものだったのだろう。


『皆さん、悪い付喪神ではないんですが……』

『本当に助けて欲しいという感じではなかったのじゃ』

『本当に助けて欲しい付喪神の方が珍しいのかも知れんな』

「どうだろうなぁ。こればかりは出会わないと分からない事だと思うぞ」


 実際、出会ってしまえば――手を伸ばさずにはいられなくなる。

 お琴の時も、清さんの時も、そうだった。

 たぶん俺は、まだ〝助けるべき付喪神〟に出会っていないだけなのだと思う。


 でも、もし出会ってしまったら――そのときは、きっと全力で手を貸すだろう。

 それだけは、自分でもよくわかっていた。


(それでも、見捨てたら後悔するんだろうな……俺は)


 家に帰ると、誰もいなかった。

 帰り道で買ったアイスを、お琴と清さんに手渡して、一緒にガリガリと食べた。

 夏の終わりはすぐそこまで来ていたけれど、まだまだ暑い日は続く。

 十月になれば、さすがに涼しくなるだろうか?


 ……ふと春のことを思い出す。

 お琴と出会い、そのあと清さんとも出会って……。

 高校に入ってからというもの、ずいぶん濃い日々を過ごしているような気がする。

 ――特に、お鈴との出来事は、自分の中でも大きな意味を持っていた。


(それにしても……だ)


 ……今ごろ、あの兄妹は仲良くしているだろう。

 でも、この先また、あの兄妹のような付喪神と家族のような人たちに出会えるとは限らない。


「俺は出来れば……地獄にはおとしたくないな」

『主……それは甘いですぞ』

『でも、その甘さも光一らしいというべきかのう! おかげで、私もこうしておるわけじゃしな!』

『僕もお琴に一票です』

『お主ら……』


 呆れかえるヒイラギに「俺は甘ちゃんだからな」と言って、アイスをかじる。


(たしかに、甘いと言われても仕方がないのかもしれない)


 けれど、本当に地獄に落とさなきゃならないような相手って、そんなに多いものなのだろうか。


(……できれば、そんな相手には会いたくない)


 ――前にヒイラギから聞いた話がある。

 人の姿を保っている付喪神というのは、実はけっこう珍しいのだという。

 それだけ、自分が付喪神であることを受け入れて、おとなしく生きている者が多いということらしい。


 でも、ヒイラギはこうも言っていた。

 ――人の姿のまま、鬼(・)の(・)面(・)を(・)か(・)ぶ(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)付(・)喪(・)神(・)に(・)は(・)注(・)意(・)し(・)ろ(・)。

 ……それはとても危険な存在だという。


 鬼(・)に(・)お(・)ち(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)付(・)喪(・)神(・)も(・)い(・)る(・)。

 ヒイラギは言った――。

『鬼に堕ちた者は、目の奥に〝赤い灯り〟を宿す』と。

 初めて聞かされた時、胸の奥がぎゅっと苦しくなった。


 鬼になるほどに、何かを妬んだり、恨んだりしなければならなかったなんて、あまりにも辛いことだ。

 ……堕ちた者たちは、もう助けることはできないと言われた。

 俺の〝黄泉送り〟では、天の国へ導くことはできないと。


 だからこそ、そんな付喪神とは出会わないことを、心から願いたかった。


「まぁ、ひとりでも縁が結ばれて、いい方向に進めていける付喪神と出会えたら、大事にしたいなと思うよ」

『やれやれ、我が主は相変わらず甘い』

「ははは」


 笑ってごまかしつつ、アイスをかじる。

 体が冷えてきたころ、部屋に戻って、明日から始まる学校の準備を始めた。


 夏休みの間に少し背が伸びて、大きめに作ってもらった制服が丁度良くなっていた。


「よし、明日からの高校には着ていけるな」

『むう、我々はお留守番なのだろう?』

『我だけは主についていくがな?』

『ヒイラギずるいぞ! 私だってついていきたいのに!』

『護衛の特権である!』

『きい!』

「たまには外に連れて行くから、それで機嫌を治してくれ」


 ヒイラギと喧嘩を始めたお琴をなだめると、ふくれっ面で「ちゃんと外に連れて行くのだぞ? オレンジジュースを忘れてはならんぞ?」と言ってきた。

 もちろん、それは約束することにした。


(学校帰りに、時々お琴と清さんの分のジュースを買って帰るのも悪くない)


「しかし、学校か……。頑張って肝試しだけは断らないとな」

『当たり前だ。ただでさえ特殊なのに、これ以上なにか起きては、たまらんぞ』

『僕もそう思います。もし肝試しに参加するというのなら、主治医としてついていきますが……』

「皆が過保護すぎる……」

『それだけ光一が心配ということじゃ!』


 最後にお琴に言われ、俺は苦笑いしながら「ありがたいことだな」と答えた。

 そのあと始業式の準備を進め、夕飯と風呂をすませて、少し早めに布団に入った。


 ……でも、どうにも眠れなかった。


 おそらく肝試しのことが頭に残っているのだろう。

 ――けれど、それだけじゃない気もする。

 この力を手にしてからというもの、何かが敏感になっている気がしていた。


『眠れませんか?』

「清さん。ああ、何かゾワゾワするというか、ザワザワするというか」

『何かの前触れかもしれませんね……。今後、要観察です』

「主治医がいると助かるよ」


 素直な気持ちを伝えると、清さんはニッコリ笑っていた。


 ……でも本当に、明日の学校がちょっと怖い。

 ゾワゾワ、ザワザワ。


 何事もなければいい――そう願いながら、俺は無理やり目を閉じた。


 そして翌朝、学校では――。

楽しんでいただけていたらいいんですが……(;´Д`)


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