第18話 付喪神と歩く、夏の終わり
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それからしばらくして、夏休みも終わりが近づいていた。
俺は必死になって宿題を終わらせながら、ふと考える。
清さんはもう「家族」と呼んでもいいのかもしれない。
清さんは、お琴に絵本を読んでくれていて、勉強もだいぶはかどっている。
チリンチリン……と風鈴の音が響く季節も、そろそろ終わりだ。
とはいえ九月はまだ暑い日が続くから、風鈴の出番も少しは残っていそうだけれど。
「宿題が終わったら、また骨董店にでもいってみようかな……」
『あそこは付喪神の宝庫ですからね』
「違いない」
骨董店は、まさに付喪神だらけの世界だ。
その中に本当に助けを求めている付喪神がいれば、また一緒に暮らすことになるかもしれない。
……できれば、もう居座られるのは避けたいけど、そればかりは運次第だ。
俺の力――〝黄泉送り〟は、心のエネルギーをかなり消耗するようだ。
頻繁に何度も使えるものではないということは、体でわかった。
(正直、もうあんな倒れ方は二度としたくない。でも――見捨てるのも性に合わないんだよな)
……この力が元に戻ったら、また骨董店に行こう。
そう思っていたそのとき――。
『主の護衛は任せてくれ』
「無論ヒイラギに任せるよ。でも、鞄を買い直さないといけないなと思ってるんだ」
『鞄をか?』
「ああ、爺様とお琴はポケットに入るけど、清さんは入らないだろう? 手ごろなカバンを購入しようと思ってな。それに清さんを守るための眼鏡ケースも欲しいし」
『そこまでして頂いて、ありがとうございます』
『それなら、私もお菊の持っていた箱に入って守られるから良いのう』
「だろう? 勉強の合間にちょっと買ってくるよ」
『お供しよう』
こうして、清さんとお琴には家で留守番をお願いし。
俺はヒイラギと一緒に近くのショッピングセンターへ向かった。
お琴のハーモニカを入れる箱や、清さんの依り代である眼鏡をしまうケースのことを考えると、それなりに大きめのカバンが良いだろうな。
すると、肩にたすき掛けで使える、ちょうどいいサイズのカバンを見つけた。
これなら、目立たずに持ち歩けそうだ。
学校が始まったら持っていくわけにはいかないけど。
「ついでに清さん用の本でも買いに行こうか」
『家庭用の医学書が欲しいと言っていたぞ』
「なんとも……清さんらしいな」
思わず微笑みながら本屋に入り、家庭用の医学書と、お琴用の絵本を一冊買って帰ることにした――が。
「あれ、榊原じゃん」
「おー。夏休み間、全然会わなかったな」
「森田に小林。二人とも色黒になったな」
ショッピングモールでばったり会ったのは、同じクラスのクラスメイトたちだった。
遊ぶ約束をするほどの仲ではないが、話す機会はある……。
そんな距離感が、俺にはちょうど良かった。
「夏休みは熱を出して倒れたりで、あまり遊んでなかったんだ。今になって宿題に追われてる」
「そりゃ災難だったな」
「夏休み明け、学校の旧校舎で肝試ししようぜって話上がってたぜ?」
「学校の旧校舎で肝試し?」
「参加者まだ集まらないらしいけどな」
「俺はパスかな。あまり怖いのは嫌いだ」
「ビビりめ!」
「何とでもいえ」
苦笑いしながら返事をしたが、心の中では「旧校舎で付喪神に遭遇したら大変だ」と思っていた。
築百年の旧校舎は、もう建て替えが決まっている。
老朽化も進んでいるし、仕方のないことだろう。
「まぁ、人数調整の為に榊原を誘うって言ってたから、断る理由でも見つけておけよ」
「うわぁ……面倒だけど断る理由は決めておくよ。ありがとな」
「暑いからあんまムリすんなよ」
「ありがとう」
あの時はまだ、本当に〝冗談半分の企画〟だと思っていた。
カバンと眼鏡ケースを購入して家路につく途中、ヒイラギが突然低く唸った。
どうしたのかと尋ねると――。
『もう随分昔の事で今の人間たちは知らないだろうが、主たちの行っている学校は、元は遊郭なのだ』
「遊郭?」
『旧校舎はその遊郭を利用して作られているとも言われている』
「初めて知ったな。だからなのか? 旧校舎の前を通るときだけ、夏でも背筋がひやりとするんだよ」
『遊郭ゆえに、店が無くなった後は色々持ちだされて売り払われた筈だが、万が一でもナニカ残っていたらと思うと心配だ』
心配そうなヒイラギを撫でながら、俺は言った。
「きっと何も起こらないさ。行くつもりもないし」
ホッとした様子のヒイラギを見て、やっぱり行かない方がいいと改めて思った。
そもそも、俺があんな場所に行ったら……絶対に何かが起こる気がする。
「お化けが出ると有名な旧校舎に行くなんて……自殺行為だろ」
『主のような人間は特にそうだな』
「だから、俺はビビりだからいかないってハッキリ言うさ」
――命が大事だ。
バカにされても、ビビりだと言われても、行かない。絶対にだ。
「そもそも、幽霊が出ると言われている旧校舎で肝試しって……」
『人間とは怖いもの知らずだな』
「愚かとも言うんだよ」
呆れたように呟きながら帰宅した。
新しく買った鞄に、お琴のハーモニカを曾祖母さんの残した箱に入れてしまい、清さんの依り代である眼鏡は眼鏡ケースに入れて、どちらも鞄へ。
懐中時計だけは、胸ポケットに入れることにした。
「よし、これで安全だな」
『これで私達も仲良く光一と出掛けられるという訳じゃな!』
「と言っても、皆の姿は他の人には見えないんだから、俺が合図するまでは口を開かないぞ」
『それは致し方ないですね。この前縁側で僕たちと話してたら、お爺様とお婆様に不思議がられてしまいましたからね』
「ああいうのが何度もあると、俺の家での信用問題に関わる……」
思わずため息をつくと、清さんはくすくす笑いながら言った。
『話をする場合は部屋が一番安全ですね』
――まさにその通り。
でも、たまに祖母が着替えを持って部屋に来るから、そのときは注意が必要だ。
その後、学校で肝試しがあるという話を清さんにすると、彼も驚いたようだった。
『元が遊郭の旧校舎ですか。なんとも地域性を感じるというか時代背景を感じるというか』
『百年前ちょっと前の事だから、覚えている者も少ないだろうな』
『ゆゆゆ、遊郭で勉学に励むとは、けしからんことじゃぞ!』
「安心してくれ。俺は新校舎でしか勉強した事はないし、旧校舎は……なんか怖いんだ」
言葉では説明できないけれど――妙な念を感じてしまう場所だ。
君子危うきに近寄らず、というやつだ。
行かないに限る……。
家に帰ると、すっかり渡すのを忘れていた本を清さんとお琴に手渡した。
二人ともとても喜んでくれた。
――そして。
夏休みがあと数日で終わるというタイミングで、俺たちは骨董店へと向かった。
まだまだ日差しの厳しい中、できれば早めに帰ってアイスでも食べたいと思いながら、うだるような暑さのなか、骨董店に到着した――。
楽しんでいただけていたらいいんですが……(;´Д`)
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