第17話 黄泉送りの力
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月城神社へ向かう道の途中、やっぱり清さんは緊張でガチガチになっていた。
無理もない。
――これから会うのは、神格を持つ付喪神。
……そこらの存在ではない。
緊張するなという方が無理だ。
それでも清さんは、何度も深呼吸しながら、一歩ずつしっかりと歩を進めていた。
ヒイラギには先に訪問のあいさつを頼んでおいた。
『私も最初はあんなにガチガチだったじゃろうか』
「お琴はもっと酷かったよ」
『ははは……。でも気合を入れないとですね。僕は光一さんの力を使うための主治医になるのですから』
「いや、俺そんなに力を使うつもりはないぞ? 寿命減っちゃうからね?」
何度も伝えたんだけど、二人は――。
『でも困ってる付喪神は放っておけないでしょう?』
と言ってきた。
それには、さすがに俺も反論できなかった……。
……きっと、困ってる付喪神を見かけたら、助けるだろう。
それに、お琴が神格化するためにも。
心残りを抱えている付喪神たちを導いていく必要がある。
――だからこそ、俺だって真剣にならざるを得ないのだ。
そんな話をしながら、ようやく月城神社にたどり着いた。
神社の狛犬の前には、すでに暁様と宵様がお待ちになっていた。
軽くあいさつをして、俺たちはふたりの言葉を静かに待った。
『光一、良くぞ来たのう。新たな付喪神の仲間も増えたと、ヒイラギから報告を受けておるぞ』
『医者を志す付喪神か……。本当の医者は難しいだろうが、光一が力を使うたびに献身的に看護をしてくれる者がいるのは心強い』
「あ、そこでも俺は力を使う前提なんですね」
『清とかいったな? 今後とも光一を頼むぞ』
『有難きお言葉、誠心誠意、つとめさせていただきます。時に光一さん。僕、医学書を読みたいので、西洋の文献も集めてもいいでしょうか?』
『医学オタクでもあるまいし……清は勤勉じゃな。私は絵本で十分じゃ』
「……いや、お前絶対、医学オタクだろ」
――こうして、医学オタク……もとい、清さんが俺のそばで暮らすことが決まった。
そして、初めて力を使ったことについて、俺は千手観音様にお礼を伝えた。
すると、戸の向こうから「リィン……」と鈴のような音が響いて。
それ以上お姿が現れることはなかった。
――まあ、当然か。
千手観音様は、そんなに簡単にお会いできるお方じゃないのだから。
「ところで、俺の力は、一体どのようなものなのでしょうか? お鈴、怨霊となった者は、ちゃんと待っている兄の元に送り届けることが出来ましたが」
『お前の持つ力は〝黄泉送り〟という力だ。天・地獄・人の三界をまたぐ、特別な異能。それは生者が触れてはならない境界越えの力――。死んだ者、穢れたモノを黄泉へといざなう力を持っている』
『その力は、今回の怨霊を天に戻したように、時に天の国へ。しかし、救いようのないものは地獄へと落とすことができよう』
「それが、俺の持つ力……〝黄泉送り〟」
俺は、自分の額にある珠に手を添えながら、その言葉を静かに口にした。
……どうやら俺の力は、かなり特別なものらしい。
下手をすれば、俺自身も境界の外側へ引きずられかねない――。
そんな気配のする力だった。
『今回の怨霊……お鈴は運が良かった。だから天の国へと昇ることが出来た。だが、付喪神の中には、どうやっても悪霊化して災いを招く者もいる。そういう者達は迷いなく地獄へと落とすことが大事じゃぞ』
つまり、場合によっては、俺が誰かを地獄へ送らなければならない時もあるってことだ。
できれば、そんなことはしたくないけど……そうしなきゃいけない場面も、きっと出てくるんだろうな。
すると、今度はお琴が質問をした。
『力を使うと寿命が減ると聞いた。いかほど寿命が縮むのじゃろうか?』
『確かに、主治医としても聞いておきたい所です』
『それもそうだな。一度力を使うたびに、一時間の寿命が削られるといった所か』
「その程度……だったんですか?」
(いやいや、全部俺の寿命前提で話すのやめてもらえません?)
もっと長い時間を削られるのかと思っていたから、正直ホッとした。
数年分なんて言われたら、将来がとんでもないことになるところだった。
『しかし、体への疲労の蓄積はすさまじい。どれ、早々寝込まずとも済むように、力を注いでやろう』
『この力は〝癒やしの力〟……。身に着けてこそ発揮する力じゃからのう。清とか言ったな? そなたにその力を授ける。光一が倒れたら、かの者の〝眼鏡〟をつけてやれば、高熱で寝込むほど倒れたりはしないだろう』
『医者として、患者が苦しまずに済むのでしたら、それほど嬉しいことはありません。よろしくお願いします』
こうして、清さんの本体である眼鏡には暁様と宵様の力が注がれ、俺が倒れても大事に至らないようにしてくれた。
完全に無傷というわけにはいかないけれど、これで少しは安心できる。
『しかし、最初に助けた付喪神が、光一の元に留まるとは……』
『予想外なことは、人生において幾つも起こることじゃのう』
「ははは……」
『しかし、しっかりと導けておるのは事実。お琴の徳は積まれたことじゃろう』
「お琴の徳は積まれたんですか?」
『お琴は、この清が壊れかけの頃、献身的に直そうとしておったじゃろう?』
「はい」
『それもまた、大事なのじゃよ』
宵様の言葉に、俺もお琴もうなずいた。
その後、宵様は俺に懐中時計を貸して欲しいと言い、手に取ってから力を注いでくださった。
『……随分と酷使した様子じゃの』
「申し訳ありません」
『なに、この懐中時計もまた、自分の役割が出来て喜んでいることだろう』
懐中時計の爺様はもういないけれど、今もこうして誰かのためになれている。
きっと、お琴にとっても嬉しいことだと思う。
「でも、早々お会いすることは出来ないとはいえ、千手観音様には直接お礼を言いたかったです」
『また時が来ればお会いになるだろう』
「だといいですが」
かくして清さんの紹介も無事に終わり、俺たちは家へ帰ることになった。
清さんはまだまだ勉強をしたいらしく、当分は暁様や宵様のもとには行かないようだ。
「しかし、黄泉送りか……。地獄におくることが少ないといいけどな」
『付喪神の中には災いを引き起こすものも少なくありませんからね』
『お鈴のような者も多いじゃろうな……』
「お鈴……いまごろ宗司さんと一緒に仲良くしているといいな……」
小さく俺が呟く。
みんなも『そうじゃのう……』と頷き、心から願ったのだった――。
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