第16話 清さんの希望と願いと
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お鈴を宗司さんのところへ送り出した夜から、俺は高い熱を出した。
生まれて初めて授かった力を使ったのだから、当たり前の反動かもしれない。
――でも、そんな苦しさも悔いはなかった。
むしろ「使ってよかった」と心から思えた。
あの力は、使うべきときにこそ使うものなんだ。
きっと、あの兄妹はもう、手をつないで一緒に歩いていける。
清らかな天の国へ、真っ直ぐ進んでいけるだろう。
……だから俺には後悔なんて、ひとつもなかった。
『光一、本当に大丈夫か……? 苦しくはないか?』
『精神的な疲れと、肉体的な疲れが重なったせいでしょう。あとは、千手観音様から授かった力の反動でしょうね。こんなに強く出るなんて、思ってもいませんでした』
『神様の力を借りたのだ。普通の人間が無事ですむはずがなかろう。だが主の血は、ちと特別らしいのぅ……〝この程度〟で済んでいるのだから』
『特別……』
小さくつぶやいた清さんに、お琴さんがハッとしたような顔をした。
なにか思い出したのだろうか?
そう思いながら、俺は清さんが冷やしたタオルで、額を冷やしていた――。
『光一の曾祖母ちゃんである、お菊もな、神主の家系の人だったのじゃ』
『神主の家系? 確かおばあさんもですよね? でも光一くんくらいになると、もう血がずいぶん薄くなってるんじゃないんですか?』
『いや、それが違うんじゃ。光一はの、先祖返りのようにして、力が強くなったのじゃよ』
「先祖返り……?」
『だからこそ、あの力が使えたのじゃ。でなければ、千手観音様の力など使えるはずがない』
思いがけない話にちょっと驚いたけど、俺はそっと目を閉じた。
少しでも体を休めないと、祖父母に心配をかけてしまう。
後悔はしていないけど、心配だけはあまりかけたくなかった。
――それに、清さんのこともまだ残ってる。
お鈴さんの件での心残りは、もうなくなったんだろうか?
だとしたら、俺はちゃんと導けたってことになる。
それを知るためにも早く元気になって、清さんから直接話を聞かないと。
――それから三日後。
清さんが毎日一生懸命看病してくれたおかげで、ようやく熱が下がって、体の痛みも少しましになった。
そこで俺は清さんを呼んで、話をすることにした。
「清さん。お鈴が無事に宗司さんと一緒に行けたことで、安心したか?」
『はい。お鈴のことは、僕にとっても心残りでした。無事に、本当の兄である宗司さんと一緒に行けたことを、心から嬉しく思っています』
「そうか……。え? 他にも心残りが?」
『はい! やっぱり、勉強って楽しいんですよ! 宗司さんは、ずっとお医者さんになりたがってましたし、僕はもう医者にはなれませんが、近いことならできるかもって。光一さんが力を使ったとき、僕が看病できたらいいなって、思ってます!』
「え!?」
思わぬ将来の夢を語りだした清さんに、俺はびっくりして、口がぽかんと開いたままになった。
「俺、そんなに力を使うつもりはないぞ!? 寿命、けっこう削れるからな!?」
『それ、今の人は〝フラグ〟って言うんですよね?』
「いやいや? いやいや? まてまて?」
『いいではないか。清が医学を学べば、幸之助たちも苦労せんし、清なら寝ずとも問題ないからのう!』
『はい! 眠らずとも、貴方のために頑張りますよ!』
清さんがとびきりの笑顔で言うから、思わず俺は顔がひきつりそうになった。
と、とにかく一旦落ち着こう……。
やっと、お鈴のことが落ち着いたんだ。
でも、まさか清さんが「俺のそばにいたい派」になるなんて……。
まったく予想してなかった。
「ん――。そうか、清さんは俺のそばにいたい派になっちゃったか」
『いけませんか?』
「悪くはない……かも。心強いしな?」
『ですよね!』
『私としても、光一が力を使って倒れても安心じゃ! よかったよかった!』
「だから、そんなに簡単に力使うもんじゃないってば!」
思わずもう一度ツッコミを入れて、俺は大きくため息をついた。
これは、一度、暁様と宵様に相談してみたほうがいいな。
それによって、今後どうするかも決めなきゃいけない。
その前に……千手観音様に、お礼を伝えに行かなくちゃ。
「今からやること、いっぱいだな」
夏休みのうちに、月城神社に行って、ちゃんと話をしなくちゃいけない。
暁様と宵様は、いったいなんて言うだろう……。
考えただけで、なんだか頭が痛くなる。
「あ……。おでこにある珠と模様って、どうなった?」
『変化はないぞ? とても美しい、不思議な色の珠じゃ。そしてその珠を守るように、蓮の花が咲いとる。綺麗じゃぞ!』
「そうか……」
『お若いですし、あと一日休めば、ほぼ完全に回復するでしょう』
「清さん……ありがとな」
お礼を言うと、清さんはにっこりと笑ってうなずいた。
付喪神は服装も自由に選べるけど、清さんは今やすっかり昔の町医者みたいな姿になっている。
きっとこれからは、その姿が〝いつもの姿〟になるんだろうな。
祖父母も俺の熱が下がって、あとは体の痛みだけと聞いて、ようやく安心してくれた。
まさか庭で倒れていたのには、かなり驚いたらしいけど。
理由を聞かれたけど、祖母が「たぶん熱中症じゃないかしらねぇ」なんて言ってくれたおかげで、なんとかごまかせた。
こうして――お鈴の事件の最後は、何も知らない祖父母の間では、「俺が熱中症で倒れた事件」として落ち着いたらしい。
まったく……やれやれだ。
とにかく、明日には暁様と宵様に会うため、月城神社に行かなきゃな。
気を引きしめていこう――。
「――よし。行くか、月城神社」
そう呟くと、不思議と体が軽くなった気がした。
お鈴の物語はこれにて終わりです。
第二章に突入した際には、是非お楽しみに!!
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