第12話 呪いの赤い手毬③
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家に帰る頃には、もう日が暮れていた。
俺は覚悟を決めて、玄関から家の中へ入ろうと通りを歩く。
すると――闇の中、家の明かりをじっと見つめて立っている少女の姿があった。
……お鈴だ。
「お鈴」
俺が声をかけると、お鈴はびくっと肩をふるわせ――。
初めて出会ったときと同じような、血だらけの姿でこちらを見つめ返してきた。
「ここはお前の家じゃないよ」
『でもお兄ちゃんが』
お鈴は家の中を指差して、そう言った。
でも、俺はゆっくりと首を横に振った。
小さな子どもに、こういう話を伝えるのはきっと難しい。
でも――それでも、俺はちゃんと向き合おうと決めたんだ。
「お前が帰るべき場所は、宗司さんの所だろう?」
俺の言葉に、お鈴はぽろぽろと涙をこぼしながら、姿を消した。
赤い手毬の中に、すうっと吸い込まれるように。
その日からだった。
手毬は家の周りをぐるぐると回るようになった。
きっと、どこかから中に入れないか探しているんだろう。
でもヒイラギの力で、家の中には入れないでいる。
夜になると、窓が風でガタガタと揺れ、「入れて入れて」と叫ぶ声が響いてくるようになった。
清さんはつらそうにしていた。
それでも、必死で堪えていた。
今ここでお鈴を家に入れてしまえば、清さんもお琴もどうなるか分からないからだ。
お琴もお鈴のことが気になって、「家に入れてあげられないの?」と聞いてきた。
でもヒイラギにたしなめられてからは、ただ静かに、ぐるぐると家のまわりを回る赤い手毬を見つめていた。
だがお鈴の瘴気は……どんどん強くなっていった。
庭に植えていた野菜や花は、少しずつ枯れていった。
祖父母には手毬が見えていないようで、なぜ枯れたのか不思議そうにしていた。
『瘴気が強くなっている……我の力でも、どこまで抑えられるか……』
「そうか……」
――あれから何度も、お鈴に話しかけた。
でも、もう俺の言葉は届かなくなっていた。
そして――夏休みの半ば、事件は起きた。
俺は疲れがたまっていたのか、昼まで寝てしまっていた。
目を覚ますと、清さんはいたけれど、お琴の姿が見えない。
「お琴は?」
『ずっと家の中にいるのは気が滅入るといって庭に』
その時だった。
『お琴ちゃ~ん、遊びましょ~~!』
聞こえてきた声に俺も清さんも顔色を変え、すぐさま部屋を飛び出して中庭へ走った。
……庭の奥。
そこには瘴気のせいで少しだけ入り込めるようになった場所に――。
お鈴が立っていた。
赤い手毬を手に持って。
『お琴ちゃん、一緒に遊ぼう?』
『嫌じゃ! ここはお主の家ではない!』
『私これ以上この中に入れないの、だからこっちに来て遊ぼう?』
『嫌じゃ!!』
お琴が必死に叫んだ瞬間――お鈴が一歩、足を踏み出した。
二人の間に、ヒイラギがふわりと舞い降り、お琴をかばうように立ちはだかった。
『~~邪魔しないで!!』
『早急に立ち去れ!!』
ヒイラギの体から放たれたまばゆい光が、お鈴のいた場所を清めていく。
お鈴は、そのまま外へと吹き飛ばされた。
『お鈴!』
――思わず清さんが叫ぶ。
飛び出そうとした腕を俺がつかむと、清さんは苦しげな表情を浮かべて、お鈴から目をそらした。
『何で? 何で何で何で!? お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなのになんでお琴ちゃんとずっと一緒にいるの!? お兄ちゃんはやっぱり鬼なんだ! 人殺しの医者なんだ!』
「お鈴それは違う!」
俺が叫ぶと――。
『黙れ! 黙れ!! お前が私からお兄ちゃんを奪った癖に……ずっと一緒にいられると思ったのに!! 私からお兄ちゃんを奪い去って連れて行って……私だけが家に入れない……。お家に入れて……お家に入れてよぉ!!』
お鈴が叫んだ瞬間、お琴めがけてどす黒い風のようなものが飛んできた。
俺はとっさにお琴を引き寄せ、庇うように抱きしめる。
お鈴は「畜生……畜生……」とつぶやきながら、姿を消していった。
『今のは穢れ……』
「お琴大丈夫か!?」
俺はお琴の体をくまなく調べた。
幸い、穢れはついていないようだった。
胸をなでおろしたとき、また手毬が「コロコロ」と音を立てて家のまわりを回り始めた。
どうしたらいいのか――俺は頭を抱えた。
加護を授かってから何度もお鈴を説得してきた。
……でも効果はなかった。
それどころか、お琴まで危険にさらしてしまった。
『光一さん、お琴さん……僕のせいで申し訳ありませんっ!』
「清さんが謝ることじゃ……」
『お鈴を一人にしなければこんなことにはならなかったのに……僕のせいだ』
両手で顔を覆いながら、その場に崩れる清さん。
そんな彼に、ヒイラギは冷たい口調で言い放った。
『清とて、お鈴が怨霊となっていることに気づかず過ごしていたのだろう。今そのことを悔やんでも仕方ない』
「ヒイラギ……」
『だが我の力を持ってしても、家を守りきるには限界がある……早急に手を付けねば大変なことになってしまう』
――わかってる。
それができれば、こんなに悩んではいない。
でも、助ける方法がまだ見つかっていない。
清さんとお琴を危険にさらさずに何とかする方法――。
いくら考えても、良い案は思いつかなかった。
とりあえずみんなで家に入る。
玄関の空気だけ、じっとりと湿っているような気がした。
そして俺たちが自分の部屋に戻ろうとしたときだった。
お琴が、なにか言いたげに俺のもとへ来て、ぎゅっと抱きついてきた。
「どうしたお琴? さっきは怖い目にあったからな……」
『違うのじゃ光一』
「ん?」
『お鈴は……自分が死んだことに気づいておらぬのではないか?』
――お琴の言葉に、俺たちは目を見開いた。
お琴は少しうつむいたまま、さらに強く俺にしがみついてきた。
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