↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れられる前に、最後の願いを。  作者: 寿 明結未(ことぶき・あゆみ)
付喪神ーお琴と清さんー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/43

第11話 呪いの赤い手毬②

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 そして翌朝。

 ヒイラギが玄関を確かめてくれたが、手毬はまだそこにあったという。


 このままでは、玄関から外に出て神社へ行くのは危険すぎる。

 即座に判断した俺は、カバンだけを手にして裏口からこっそり外に出た。

 痛む腕を押さえながら、走って月城神社を目指す。


 鳥居をくぐった瞬間、空からふたりの姿が降ってきた。


『光一! どうしたのだ!?』

『……痛々しい、強い呪いを掛けられておる』

「俺の不注意で呪いを受けてしまい、どうしていいか分からなくて相談に来たんです。……ヒイラギには、家を守ってもらっています」


 そう告げると、とにかく階段を上がり二人の依り代である狛犬に寄りかかる。

 俺の息は切れ切れで、何とか月城神社へ辿り着いた感じだ。

 そして俺は、昨日起きたことや、今家にいる清さんのことを話した。


 腕をまくって見せると、昨日より赤黒くなった小さな手形がいくつも浮かんでいた。

 まるで必死にしがみつくかのように……。

 助(・)け(・)を(・)求(・)め(・)る(・)か(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)……。


 すると宵様(よいさま)が神社の裏手に湧く清水を持ってきて、何度も俺の腕にかけてくれた。

 赤黒かった手形は、だんだん普通の打ち身のような赤さへと変わっていく。


『清水じゃ、これで少しは楽になろう』

「申し訳ありません」

『だが、ここまで強い呪いを受けて動けているとは驚きだ。やはり血の濃さが関係しておるのだろう』


 俺の祖父母は、昔からこの神社と深い関わりがあった。

 実は祖母が、この月城神社を管理する家の娘だったのだ。

 つまり、俺は神主家系の血を引いているということになる。

 祖父母は若い頃、神社のお祭りで知り合い結婚したという縁があったし、神社で式も挙げたらしい。

 今回その血の力が、俺の身を守ってくれているのだという。

 小さい頃、祭りの日にだけ巫女服を着ていた祖母の背中を思い出した。


『呪いが完全に消えるまでは、神社で清めておいたほうが良い。だが……今、お琴と清をあの家から出すのは危険じゃのう』

『かと言って光一だけをここに残すわけにもいかん』

「だとしたら、毎日ここに通います。ヒイラギにはあの二人を守ってもらわないと……」


 だが、すぐに暁様(あかつきさま)にたしなめられた。

 俺が再び狙われる危険がある以上、簡単には動けない。

 けれど――手毬をあのままにしておくわけにはいかない。


「怨霊になったら、もう元には戻れないんですか?」


 俺の問いに、暁様と宵様は静かにうなずいた。

 お鈴の怨霊は、もう元には戻れないのだと知らされて俺は思わずため息をついた。


 (――あんな酷い死に方をしたんだ)


 できることなら……救ってやりたい。

 でも……それはもう叶わないことなのかもしれない。

 ――そう思うと、自然と肩が落ちた。


『だが、楽にしてやることはできる』

「楽に……ですか?」


 少しでも希望があるのなら、と身を乗り出す俺に、暁様は重たい言葉を告げた。


『……地獄に堕とすということだ』

「地獄……」

『怨霊となった者は、天国には行けぬ。この世からあの世へ送り届けることはできても、それが行き着く先は地獄しかないのだ』

「生きていても地獄だったのに……さらに地獄に堕とすっていうんですか!?」


 思わず叫ぶと、暁様と宵様は苦しげな顔をした。


「それしか救いがないなんて、酷すぎる……っ!」


 ――呟いて歯を食いしばり、助けられない絶望に両手で顔を覆った。

 ふたりはそっと寄り添ってくれたけれど……。

 堪らえようとしても……涙は止まらなかった。


「……他に方法は無いんですかっ!?」


 絞り出すように問うと、神社の戸が「リィン……」と音を立てて開いた。

 暁様と宵様がすぐに頭を下げる。

 風もないのに木々が揺れ、圧迫とも違う……清らかな何かを感じた。

 ――そこに立っていたのは、柔らかく優しい光をまとった〝御方〟だった。


「……千手観音……様?」


 俺が口にすると、その御方は穏やかな笑みを浮かべて近づいてきた。

 本来、神社で千手観音様を祀ることはほとんどない。

 けれど、この地域では古くから信仰が残っていた。


『……話は聞かせてもらいましたよ。光一は、自分に呪いを掛けた相手にまで心を痛めている様子……私も手を貸しましょう』

『千手観音様、それらは我らの仕事です』


 暁様が反論したが、観音様は静かに首を振り、俺の腕に手をかざした。

 すると、そこにあった手形がゆっくりと、まるで洗い流されるように消えていった。


『苦しんでいる者を救うのが私の役目……。光一、貴方の優しさに応えましょう』


 その声を聞いた途端、一筋の涙が溢れ、俺の心の奥にあった……たったひとつの願いが、自然とこぼれ出た。


「……どうすれば……お(・)鈴(・)を(・)救(・)え(・)ま(・)す(・)か(・)?」


 観音様は優しく微笑んで、俺の額にそっと手を当てた。

 ――瞬間、温かい何かが体の中へ流れ込んできたような、不思議な感覚がした。


『私が貴方に授けたのは、“邪を清き道へと導く僅かな力”……使い方は貴方次第です』

『額に手を当ててご覧なさい』


 言われるままに額に手を当てると、小さな玉のようなものに触れた感覚があった。


『それは普通の人間には見えぬ宝珠。貴方が優しい心を忘れない限り、消えない“良心”』

「俺の……良心?」

『呪い子を想うほど、貴方の心はとても清らかで優しい……助けてあげなさい。それでも、もし助けられなかった存在がいるのなら……私が導いて差し上げましょう』


「そんなっ! やり方も分からないのに!」


 言い終えると、観音様の姿は「リィン……」という音とともに消えていった。

 暁様と宵様は驚いたように俺を見ていた。


 俺も気になって、ポケットから小さな鏡を取り出し、額を映してみる。

 そこには、宝珠のまわりを飾るように、蓮の花(はすのはな)のような模様が刻まれていた。


「……蓮の花?」

『本当に光一には驚かされるばかりだ』

『だが、その力を多く使いすぎれば……光一、お(・)前(・)の(・)寿(・)命(・)を(・)削(・)る(・)こ(・)と(・)に(・)な(・)る(・)』

「え!?」


 ――つまり、それは、諸刃の剣なのかもしれない。

 使い方は身体が知っているのだろうか……?

 でも、今の俺では分からない。


(俺の命と引き換えにしか届かない祈りも、きっとこの世にはあるんだろう)


 けれど、もし俺の得た力で誰かを守れるのなら――俺は、使いたいと思った。

 俺の腕に残っていた無数の小さな手形は、「助けて」と訴えていたのだと思う。


「暁様、宵様……心配ありがとうございます。でもそれでも俺は……地獄に行くために生きてきたような子供を救ってやりたい」


(せめて、兄の宗司さんのもとへ、送り届けてやりたい)


 二人は呆れたように笑いながらも、どこか嬉しげに、俺のことを見つめていた。


『とんだお人好しよのう?』

『ああ、それゆえに……強いのかもしれん』

「強い……ですか?」

『想いの強さは時に祈りとなる。清き道となる。ゆえに……お琴も清も、お主に救われているのだろうな……』


 ――そうでありたいと願うことは、きっと悪いことではないだろう……。

 そうであったなら、俺はどれだけ果報者か……。

 二人に、いや、三人に大事にされているのかもよく分かる。

 だからこそ、俺は諦めきれないんだ。


(お鈴を必ず助けてみせる……)


「俺は必ずお鈴を助けてみせます……。やり方はまだ分からないけど」

『困った時はいつでも来るといい』

「はい!」


 こうして俺は二人にお礼を言って頭を下げ、一路家に戻ることにした。

 きっとまだ玄関にはお鈴の手毬があるだろう。

 まずはお鈴に大正時代でなく、今を見てもらえたらいいが……。

 ――その願いは、果たして届くのだろうか。


(今度は、俺の方から話をしに行く番だ)


 空は既に、夕焼けが迫る時間になりかけていた……。

第一章の盛り上がりに突入です!


面白いと感じたり、応援したい! と思われたら

ポチッとお気持ちを押して頂けると嬉しいですm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。