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国家に恋愛を否定されたINTJの私とESFPの彼。それでも私は、この恋を選ぶ  作者: 本咲 サクラ


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30/31

第30判定:表の顔と、地下の祈り

 推奨相性対象との交際開始届。

 話し合いの後すぐにその申請を出した。


 システムが認める手続きを、システムを欺くために使う。

 画面上で承認通知が届いた時、奇妙な感覚があった。


 その承認が効力を持った最初の朝、さっそく私たちは動いた。


 具体的にすることは三つだけだった。

 登下校の一部を同じ経路にすること、数日に一度図書室で同じ時間を過ごすこと、そして管理官のログに「綾瀬イオリと朝倉の交流記録」が自然な頻度で残るようにすること。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 「今日は図書室に寄る。一時間で終わらせる」

 朝倉が廊下で短く言った。

 朝倉の声には、以前のような険はなかった。

 かといって、会話の内容は、打ち合わせの確認をしているだけの、事務的なもの。


 「分かりました」

 それだけ交わして、私たちは別の方向へ歩いていった。


     ◇


 放課後の図書室は、いつも通り静かだった。

 推奨ペア用の閲覧スペースに並んで座り、それぞれ端末を開いた。

 二人とも画面を見たまま、しばらく話さなかった。


 不意に朝倉が、無言でこちらへ体を寄せた。

 肩が触れるかどうかという距離まで詰めて、私の端末の画面を覗き込む素振りをした。

 管理官の目には、推奨ペアが寄り添って画面を見ている光景に映っているはずだった。


 偽装のための行動だ、と処理しようとした。

 処理しようとしたが、予想より体温が近くて、その判断が一瞬だけ遅れた。

 朝倉は何も言わなかった。こちらも、何も言わなかった。


 しばらくして、朝倉が低い声で言った。

 「……自然に見えているか」

 「問題ありません。推奨ペアの交流記録として、十分なデータが残っています」

 「そうか」


 また沈黙が続いた。

 朝倉の視線は端末に落ちたままだったが、ページが一度も変わっていないことに、私は気づいていた。


 それから、一時間が経過して、私たちは何事もなかったように席を立ち、それぞれ帰宅した。


     ◇


 その夜、地下ピットへ向かった。

 懐中電灯の光を細く絞って土の表面を確認すると、葉は十枚になっていた。

 花芽は、まだ硬いままだ。

 メンテナンスまで、あと二日。


 しゃがみ込んで、小さな芽をしばらく見つめた。

 ここに来るたびに何かを言葉にしようとするのだが、今夜は何も出てこなかった。

 ただ、この狭くて暗い空間だけが、今の私には息のできる場所だった。


 廊下で遠くにユウの姿を見かけるたびに、その両脇に管理官の影がある。

 ユウは前を向いたまま歩いていて、こちらを見なかった。

 見ないようにしているのか、本当に気づいていないのか、今の私には判別できない。

 花芽は硬いままで、時間だけが着実に削れていく。


     ◇


 翌日の廊下で、朝倉と登校経路が重なった。

 並んで歩くのは、まだ数度目だった。


 しばらく無言で歩いていると、朝倉が前を向いたまま口を開いた。

 「花の状態は」


 計画の進捗確認としては、このタイミングで聞く必要のない問いだった。

 私はそれに気づいたが、何も言わなかった。


 「葉が十枚。花芽はまだ開いていません」

 「……そうか」

 それ以上、何も言わなかった。


 廊下の角を曲がるところで、二人の経路が分かれた。

 朝倉は左へ。

 私は右へ。

 振り返らないまま、それぞれ歩いていった。


     ◇


 その夜も、地下ピットへ向かった。

 懐中電灯の光の中で、花芽の先端がわずかに色づいているのが見えた。

 昨日までの硬い緑から、ほんのわずかだけ、別の色を帯び始めていた。


 管理されていない、名前のない色。

 それは、エラーのようで、祈りのようでもある。


 ユウが最初にこの花の存在を見つけた時、どんな顔をしていたのだろうと、ふと思った。

 あの時の声の弾み方だけは、今も正確に思い出せる。


 メンテナンスまで、あと一日。

 その一日という時間に、花が間に合うかどうかだけが、今の私には分からなかった。

 懐中電灯の光の中で、小さな色づきはただそこにあった。

 暗くて狭い空間で、誰にも管理されないまま、着実に何かへ向かっていた。


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