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国家に恋愛を否定されたINTJの私とESFPの彼。それでも私は、この恋を選ぶ  作者: 本咲 サクラ


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第29判定:設計図と、歪な共犯

 朝倉が話しかけてきたのは、翌朝だった。


 講義が始まる前の教室。

 私が端末を開いて今日の行動ログを確認していると、前の席の椅子が引かれる音がした。

 朝倉が逆向きに座り、こちらを見ていた。


 「答えが出た」

 前置きのない言葉だった。


 「聞きます」

 「システムに従うことが正しくても、それが誰かを追い詰めることがある。お前に言われた時、その意味が分からなかった。頭では理解できても、自分の行動に当てはめることができなかった。今はできる」

 そして、一度だけ目を伏せ、続けた。

 「それと——俺が密告したのは、義務感だけじゃなかった」

 感情を排しているはずの声が、その一点だけ、ひび割れたように歪んだ。

 三日間ぐるぐると同じ場所を回っていた人間が、ようやく一歩を踏み出したのだと感じた。


 「分かりました。では、話します」


     ◇


 放課後、佐伯先輩を交えて三人で集まったのは、旧校舎の屋上だった。

 先輩の権限で扉が開き、三人は外へ出た。


 どんよりと曇った空が、街の輪郭を灰色に沈めている。

 フェンスの向こうに広がる学園の景色も、今日は光を失ったように平板に見えた。

 風だけが、変わらずここを吹き抜けていく。


 「ここなら、カメラの死角よ。時間は限られているけれど」


 私は、計画の現状を二人に説明した。

 管理官の交代時間を使ってユウに近づく経路は検討したが、管理官が物理的についている以上、交代時間だけでは根本的な解決にならなかった。

 カメラの死角と地下ピットからの搬出経路は確保できている。

 ただ、最も根本的な問題が残っていた。

 「私がユウのそばにいる理由を、システムに対して正当化できない。接触禁止の相手に近づく理由として、システムが認めるものを洗い出しました。緊急の安全確認、適性試験の補助、推奨ペアとしての公認交流——どれも、私とユウの間には適用できない。現時点では、有効な手段が見つかっていません」


 朝倉が曇り空を一度だけ仰いで、それから口を開いた。

 「今、推奨ペアとしての公認交流と言ったな」

 「はい。ただ私とユウは危険相性なので、適用できません」

 「俺とお前は、どうだ」


 私は、その問いの意味を一瞬だけ測った。

 「INTJとINTPは、推奨相性に含まれます」

 「なら、システム上は公認の交流ができる。俺とお前が交際しているように見せれば、お前の交際相手は俺だとシステムが認識する。そうなれば、お前がユウと接触しても危険相性対象との深度交流という疑いが消える。管理官の目線も、自然とこちらに向く」


 朝倉は私を見た。

 値踏みでも敵意でもない、何かを確かめるように。

 「偽装だ。本物である必要はない。ただ、システムの目から見てそう映ればいい。これが今出せる中で最も成功確率が高い方法だと思う。使えるか」


 その提案の重さを、私はしばらく測っていた。

 朝倉が感情からではなく論理として組み立てた上でこの案を持ってきたことは、言葉の組み立て方から分かった。

 自分では出せなかった手段が、そこにあった。


 「……使えます。ただ、朝倉にとってのリスクも正直に言います。偽装が発覚した場合、あなたのスコアにも直接影響します。システムへの虚偽申告は、報告義務違反より重い」

 「分かっている」

 「それでも、という話ですか」

 「だから提案した」

 短い返答だったが、その言葉の裏に三日分の重さがあることは、もう分かった。


 「一つだけ聞く」と朝倉は言った。

 「これは、白石のためだけか」

 「ユウのためです。それと、自分のためでもあります。どちらが欠けても、私はこの計画を立てていなかった」


 朝倉は何も言わなかった。

 ただ、小さく頷いた。


     ◇


 佐伯先輩が、それまで黙って聞いていた口を再び開いた。

 「三人全員が、失うものを理解した上で動いている。確認するけれど、それでいいのね」


 誰も答えなかった。答える必要がなかった。


 「一つ、情報がある」と先輩は続けた。

 「地下ピットのメンテナンスの影響で、図書室の旧い区画の電子ロックが、メンテナンス当日から数日間不安定になる。改修工事で繋がった電力系統の問題よ。学園側も把握しているけれど、対応が後回しになっている」


 風が屋上を吹き抜けた。

 佐伯先輩と二人で立った時と同じ場所なのに、今日は空の色も、ここに立つ人間も、抱えているものも、何もかもが違っていた。


 「自然な誤作動が起きる可能性がある区画ということですか」

 「ええ。誰かが操作した痕跡は残らない。私にできるのは、当日ユウをその区画へ誘導する経路指示を書き換えることだけ。あとはあなたたち次第よ」


 先輩はフェンスの向こうの街に視線を向けたまま言った。

 「メンテナンスまで三日。花が咲くかどうかは、まだ分からない。咲かなかった場合の判断は、明後日改めてしなさい。それまでは、予定通り動く」


 偽装交際で目を欺き、システムの不具合を利用して、ユウと閉じ込められる偶然を装う。

 すべてのピースが嵌まった。


 「……方針は決まりました。設計を詰めましょう」


 三人の影が、曇り空の下で並んで伸びていた。


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