表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国家に恋愛を否定されたINTJの私とESFPの彼。それでも私は、この恋を選ぶ  作者: 本咲 サクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/27

第3判定:歪なプリズムと、不確実な変数

 放課後の中庭。

 そこは、適性局が推奨する「交流推奨ペア」たちが、穏やかに談笑する場所だ。


 対称性に整えられた並木道、等間隔に配置されたベンチ。すべてが計算され、秩序に満ちている。


     ◇


 (……なぜ、私はここに来ているのか)


 講義が終わってから、私は自分の行動を何度もシミュレートした。

 無視して帰宅するのが最適解。

 彼との接触を継続するのは、リスク管理の観点から見て明白な「誤り」だ。


 なのに、足は止まらなかった。

 「予測できないものを見せる」という彼の言葉が、論理の壁に空いた小さな風穴のように、私の好奇心を刺激し続けていたから。


 「──こっちこっち!」


 中庭の隅。大きな時計塔の影に、彼はいた。

 芝生に直接座り込むという、品位を欠く

 ──しかし彼らしいスタイルで。


 「……5分遅刻です。移動効率を考えれば、もっと早く着くはずでしたが」


 「あはは、それくらいは許してよ。来るかどうか分かんなかったしさ」


 ユウは立ち上がり、制服のズボンを無造作に払った。


 私は彼から一定の距離──心理的境界線パーソナルスペース──を保ち、本題を切り出す。


 「それで。私に見せるという『予測できないもの』とは何ですか。」


 「俺が見せたかったのはさ、これ」


 ユウがポケットから取り出したのは、古びた、小さな、不格好な「石」だった。


 いや、よく見るとそれは、ガラスの破片が熱で溶け合い、歪な形に固まったようなものだ。


 「……ただの廃棄物ですね。価値はありません」


 「そう言うと思った。でもさ、これ、光にかざすとさ」


 彼がそれを、時計塔の隙間から漏れる夕日にかざした。


 その瞬間。


 「……!」


 歪なガラスを透過した光が、複雑に屈折し、私の足元の芝生に「虹」を描いた。


 それは、この完璧に管理された中庭のどこにも存在しない、不規則で、鮮やかで、計算不能な色彩の散らばり。


 「綺麗だろ? ゴミ捨て場で見つけたんだ。今のシステムじゃ、形が歪んでるから『不良品』。でも、この光り方は、完璧なレンズには出せない」


 「それは……」


 言葉を返そうとする。

 分類する。説明する。分解する。


 だが、適切な言語化が、遅れる。

 思考が、追いつかない。


 「イオリ」

 彼は私の言葉を遮り、一歩、距離を詰めた。


 夕日のオレンジが、彼の瞳を熱っぽく染めている。


 「君も、これと同じなんじゃないかな」


 「……どういう意味ですか」


 「INTJだからこうしなきゃいけない、正しい答えはこれだ。そうやって自分を削って、完璧な形になろうとしてる。でも、それじゃ見えない光があるんだよ」


 心臓の奥が、ちくりと痛んだ。


 彼の言葉は論理的ではない。統計的な裏付けもない。

 なのに、私のデータベースのどこを探しても、この痛みに対する適切な反論が見つからない。


 「……非合理です」


 ようやく言葉を出す。


 「私は正しい選択をしているはずです。感情に依存する判断は、誤りです」


 「そっか」


 あっさりと受け止める。


 「でも俺は、それでもいいかな」


 「俺なんか、ESFPだから『計画性がない』って言われっぱなしだけど、こうして君を驚かせる計画だけは成功したよ?」


 彼はしてやったり、という顔で笑う。


 その笑顔があまりにも眩しくて、私は思わず視線を逸らした。


 「……驚いてなど、いません」


 「嘘だ。心拍数、上がってるでしょ? 耳が少し赤いよ」


 「っ……!」


 指摘され、さらに熱が上がる。


 私は逃げるように踵を返した。


 「この貸しは、いつか返します。……それと、その石。後で成分分析の結果を送りましょう。それがどれほど無価値なものか、証明するために」


 「あはは! 楽しみにしてるよ、分析家さん!」


 背後で聞こえる彼の笑い声。


    ◇


 私は、夕暮れの中庭を後にしながら、自分に言い聞かせる。


 これは、ノイズだ。

 平穏な日常を乱す、有害なイレギュラー。

 排除しなければならない──。

 

 けれど、私のポケットの中。

 彼から返された古い図書カードに触れる指先は、まだ、かすかに熱を持っていた。


 システムが弾き出した「危険相性」という判定が。

 今、この瞬間だけは、ひどく遠い世界の出来事のように感じられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ