第2判定:再会と、計算外のノイズ
第三学区中央校。
この国における「エリート」の養成所だ。
高い塀に囲まれた敷地内には、効率化を極めた最新鋭の設備が並んでいる。
行き交う生徒たちは皆、胸元に自分の人格類型を示すバッジを付けていた。
私の胸にあるのは、濃紺。
【INTJ:建築家】
この色は少ない。
ゆえに、周囲からは「優秀だが近寄りがたい存在」として扱われる。
それは私にとって、最もコストパフォーマンスの良い環境だった。
◇
分析科の講義室へ向かう廊下で、私は一度立ち止まる。
判定から一週間。
あの非合理的な少年、白石ユウの言葉が、バグのように脳内でリフレインしていた。
──『会いたくなるかもよ?』
根拠のない予測。
再現性のない発言。
私は手元の端末を操作し、自分に言い聞かせるように思考を整理する。
第一に、この校舎は人格類型ごとに活動区域が分離されている。
第二に、分析科の私と、ESFPである白石ユウの接触確率は極めて低い。
算出値は、0.03%未満。
会うはずがない。
会うべきでもない。
そう結論づけて歩き出した、その時だった。
「──おーい! イオリ!」
静寂を裂く声。
分析棟には不釣り合いな、明るすぎるトーン。
振り返りたくなかった。
だが、無視をすればさらに大きな声で呼ばれることは、論理的に予測できた。
私は溜息を一つ吐き、機械的な動作で後ろを向く。
「……なぜ、ここに」
そこにいたのは、白石ユウだった。
太陽みたいに、迷いのない笑顔。
胸元には、鮮やかな黄色のバッジ。
【ESFP:エンターテイナー】
「やっぱここだった! いやー、迷ったわ。ここ迷路みたいでさ」
「……ここは分析科専用棟です。他専攻の生徒が立ち入るには、特別な許可か、あるいはよほどの正当な理由が必要です」
「理由ならあるよ」
即答だった。
「イオリを探してた」
理解できない。
その理由は、制度上、無効だ。
なのに心臓が、わずかに乱れる。
「……それは正当な理由ではありません。私たちは“危険相性”に指定されています。接触は制限対象です」
「そうなんだ」
あっさりと頷く。
理解していないわけではない。
ただ、重みを感じていない。
「でもさ、これ」
差し出されたのは、一枚のカード。
私が判定日に落としたであろう、古い図書カードだった。
電子化された今の時代には不要な、ただの「思い出」という名の非合理的な遺物。
「……あ」
「名前書いてあったからさ。すぐ渡した方がいいかなって」
非合理的だと思った。
今の時代、図書カードの代替手段はいくらでもある。
それでも。
「……ありがとうございます」
受け取る。
その時、指先が触れた。
ほんの一瞬。
なのに、妙に熱が残る。
不具合のような感覚だった。
「用件は済みましたね。なら──」
「ねえ」
遮られる。
「放課後、中庭来てよ」
「断ります」
「面白いもの、見せてあげるから。INTJの君が、絶対に『予測できない』やつ」
彼は悪戯っぽく笑い、風のように去っていった。
◇
残されたのは、私と、彼から返されたカード。
そして、静寂を取り戻したはずなのに、うるさいほど脈動する自分の鼓動。
──予測、できない?
その言葉は、私にとって最大の挑発だった。
あらゆる事象をパターン化し、最適解を導き出してきた私への。
「……馬鹿げている」
行く必要はない。
そう判断しながらも、私はすでに、放課後までのスケジュールを再構築し始めていた。
「彼が何を企んでいるのかを分析するため」という、自分でも苦しい言い訳をデータフォルダの隅に隠して。
国家が否定し、論理が拒絶する。
それなのに、私の計算式は、彼という「変数」をどうしても除外できずにいた。




