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国家に恋愛を否定されたINTJの私とESFPの彼。それでも私は、この恋を選ぶ  作者: 本咲 サクラ


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25/27

第25判定:二つの瀬戸際と、残された時間

 花芽を確認してから、三日が経過した。


 私は毎夜、地下ピットへ向かいながら、一つの計算を繰り返していた。

 花が咲くまで、あとどのくらいか。

 環境データから推測すると、早ければ十日。

 遅くとも、二週間以内。


 咲かせるなら、咲かせ切りなさい。

 佐伯先輩の言葉が、ずっと頭から離れない。


     ◇


 その朝、佐伯先輩から声をかけてきた。

 これまでは、私の方から探していた。

 先輩の方から来るのは、珍しい。


 「……綾瀬イオリ。今日、時間を取りなさい」

 抑揚のない声だった。

 けれど、その目に、いつもと違う色があった。

 「……何かありましたか」

 「放課後、屋上へ」

 それだけ言って、先輩は歩き去った。


     ◇


 放課後。

 屋上の扉が、音もなく開いた。

 夕暮れの風が、制服の裾を揺らす。

 佐伯先輩は、いつもの場所に立っていた。

 フェンスから少し離れた場所。

 街を見下ろす位置。


 「……来たわね」

 「はい」

 私は先輩の隣に並んだ。

 しばらく、二人とも黙ったまま、街を見ていた。

 先輩が口を開いたのは、照明が街に灯り始めた頃だった。


 「白石ユウの適性スコア、限界値まであと三ポイントよ」


 私の心拍数が、跳ねた。

 「それは……」

 「再審査の自動トリガーまで、二週間を切った。このペースで低下が続けば、早ければ十日以内に再審査が始まる」

 十日。

 私は、その数字を静かに飲み込んだ。


 沈黙が続いた。

 夕暮れの光が、フェンスの向こうの街を橙色に染めている。

 私は、その景色を見たまま口を開いた。

 「……先輩に、打ち明けていいですか」


 先輩は答えない。

 それを「いいえ」とは受け取らず、私は続けた。

 「地下ピットで、花を育てています」

 「花を、……そうなのね」

 「ユウが連行される前に、私に託した種です。システムの死角で、センサーにダミーデータを流し込んで、ずっと育ててきました」

 「今、どういう状態?」

 「花芽が一つついています。早ければ十日以内に咲きます」

 「そう」


 先輩は、街から視線を外し、自分の手元を見た。

 「……よく、ここまで育てたのね」

 その声は、いつもより少しだけ、柔らかかった。

 どこか、懐かしむような色があった。


 「一つ、伝えなければならないことがある」

 先輩が、再び街を見ながら言った。

 「地下ピットの環境センサー、来週、定期メンテナンスが入る」


 私の指先が、冷えた。

 「……それは」

 「メンテナンス業者が入れば、ダミーデータの偽装が解除される可能性がある。あなたが仕込んだプログラムは、外部からのアクセスには対応していないはずよ」

 「……いつですか」

 「七日後」

 七日。

 花が咲くまで、十日以上かかるかもしれない。

 メンテナンスは、七日後。

 「……間に合いません」

 私は、その事実を静かに認識した。

 「ええ」

 先輩は、頷いた。


 「……先輩は、どうすればいいと思いますか」

 私は、初めて先輩に「答え」を求めた。

 これまでは、常に自分で計算してきた。

 でも今は、変数が多すぎて、最適解が出ない。


 先輩は、少しだけ間を置いた。

 「……私なら、花が咲く前に、見せる」

 「リスクが高すぎます。監視下で、七日以内に」

 「ええ、高い」

 先輩は頷いた。

 「でも、咲かせ切れないまま終わるより、いい」

 その言葉は、静かに、けれど確実に、私の胸に刺さった。

 かつて、先輩が「途中で手放した」と言っていた言葉が、今になって別の重さを持って響く。


 「……先輩は」

 「私の話はいいわ」

 遮られた。

 先輩は、フェンスの向こうの街に視線を向けた。

 「あなたは、どうするの、綾瀬イオリ」


 私は、答えなかった。

 答えられなかった。


 七日以内。

 監視下で、管理官二人の目をかいくぐって、ユウに花を見せる。

 成功確率は、計算するまでもなく、低い。

 けれど。

 「……咲かせ切ります」

 私は、フェンスの向こうを見たまま言った。


 「根拠は」

 「ありません」

 即答だった。

 「ただ、そう決めました」


 先輩は、それ以上何も言わなかった。


     ◇


 一人残された屋上で、私は夕暮れの街を見下ろした。


 七日。

 ユウのスコアの限界まで、十日。

 花が咲くまで、十日から二週間。

 全ての変数が、同じ方向を向いて、収束しようとしている。


 私は、ポケットの中のガラスの破片を握りしめた。

 指先に、確かな重さがある。


 「……計算を、開始します」

 誰もいない屋上で、私は呟いた。


 覚悟だけを胸に、最後の作戦を組み立て始めた。


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