第23判定:特定と、感情という名の動機
朝倉の行動を、三日間観察した。
授業中の視線の方向。
移動経路。
端末の操作タイミング。
記録し、照合し、パターンを抽出する。
それはINTJにとって、最も得意とする作業のはずだった。
けれど今回だけは、データを積み上げるたびに、胸の奥が重くなった。
◇
一日目。
朝倉は、ユウが廊下を通る時間帯に、必ず視線を向けていた。
ユウではなく、ユウの後ろについている管理官に。
その視線には、満足のような色があった。
私はその観察結果を端末に打ち込みながら、一つの感情を認識した。
不快だ。
データとして処理しようとして、できなかった。
◇
二日目。
私は朝倉の端末操作のタイミングを記録した。
授業中、講師が板書をしている時間帯に、朝倉は短時間だけ別の画面を開く。
角度から推測すると、学園の内部連絡フォームだ。
一般生徒でも、「規律違反の報告」という名目でアクセスできる窓口。
私はその事実を、静かに記録した。
◇
三日目。
決定的な場面を、目撃した。
放課後の廊下。
朝倉が、管理棟の入口付近で、適性管理官と短く言葉を交わしていた。
内容は聞こえない。
けれど、管理官が頷き、朝倉が踵を返す。
その背中には、任務を終えた人間の、静かな充足感があった。
【確信:朝倉が、密告者である】
私の演算が、答えを弾き出した。
◇
その夜、私は自室で端末に向かっていた。
三日間の観察記録。
朝倉の行動パターン。
管理棟への接触。
全てを整理すると、一つの構図が浮かぶ。
朝倉は、私とユウの接触を目撃し、規律違反として報告した。
動機は、推測の域を出ない。
けれど、最初に私の接触をいち早く指摘してきたあの目が、今になって別の意味を帯びる。
「検品」の視線、と思っていた。
違ったのかもしれない。
「……感情、ですか」
私は呟いた。
合理性のない動機。
データに残らない衝動。
システムに忠実な人間が、感情で動いた結果、ユウが追い詰められている。
私の演算回路が、その皮肉を処理しようとして、止まった。
◇
翌朝。
私は佐伯先輩に報告した。
「朝倉です」
先輩は、何も言わなかった。
ただ、わずかに目を伏せた。
それが肯定だと、私には分かった。
「……どうするつもり?」
先輩が、静かに聞いた。
「分かりません」
即答だった。
「朝倉を責めることは、合理的ではありません。システムに従った行動の結果として、誰かが傷つく。……それは、このシステムそのものの問題です」
先輩は、少しだけ目を細めた。
「……成長したのね、綾瀬イオリ」
「いいえ」
私は首を振った。
「ユウに、教わっただけです」
◇
その夜、地下ピットで芽を確認した。
葉は、八枚になっていた。
私はしばらく、その小さな緑を見つめた。
朝倉が感情で動いたように、私も感情で動いている。
違いは、何か。
私の感情は、誰かを傷つけているか。
「……まだ、分かりません」
答えは、出なかった。
けれど、問い続けることを、やめたくなかった。
地下の芽が、八枚目の葉を静かに広げている。
花が咲く日が、近づいている。




