表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国家に恋愛を否定されたINTJの私とESFPの彼。それでも私は、この恋を選ぶ  作者: 本咲 サクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/27

第20判定:回避と、算出できない理由

 ユウが戻ってから、十二日が経過した。


 異変に感じ始めたのは、九日目だった。


 廊下で視線が合うたびに、ユウが先に目を逸らすようになった。


 最初は、監視の目を意識しているのだと思った。

 合理的な判断だ。接触ログを減らすために、視線すら避ける。

 私はそう処理して、端末に向かった。


     ◇


 十日目。


 旧校舎への階段の踊り場付近で、ユウの背中を見かけた。

 管理官が、二歩後ろについている。


 声をかけることはできなかった。

 ただ、ユウは私の存在に気づいていたはずだ。

 それでも、振り返らなかった。

 私は、その場で立ち尽くした。


 【心拍数:108】


 答えの出ない数値を見つめたまま、歩き出した。


     ◇


 十一日目。


 いつもユウが通る時間帯に、廊下を歩いた。


 来なかった。

 経路を変えたのか、時間をずらしたのか。

 どちらにせよ、管理官の動線に合わせた結果だろう。

 私はそう処理した。

 処理した、はずだった。


 夜、地下ピットへ向かう途中、私は自分の足が廊下の真ん中で止まっていることに気づいた。

 懐中電灯を握ったまま、動けない。


 「……なぜ」

 声が、暗い廊下に溶けた。

 答えは、出なかった。


     ◇


 十二日目の朝、私は解析を始めた。


 対象は、ユウではなく、管理官だ。

 過去四日間の巡回記録、移動速度、担当者の交代時刻。

 端末の公開データと、自分の観察ログを照合する。

 一時間後、一つの空白が浮かび上がった。

 午後四時十一分から四時十四分。

 管理官の担当交代が行われる三分間。

 その間だけ、ユウの背後に人間がいなくなる。

 場所は、旧校舎への階段の踊り場。


 「……三分、あれば十分です」

 私は端末を閉じ、立ち上がった。


     ◇


 午後四時十分。


 私は旧校舎への階段の踊り場に向かった。

 ユウはいた。

 壁にもたれて、端末を見ていた。

 管理官は、まだいる。


 私は階段の陰に立ち、時計を確認した。

 四時十一分。

 管理官が踵を返し、廊下の角へ消えた。

 私は歩き出した。

 足音を、できる限り殺して。


 「ユウ」


 ユウが顔を上げた。

 一瞬だけ、何かが翳った。

 「……イオリ、ここは」


 「三分あります。管理官の交代時間を計算しました」

 「……」

 「なぜ避けているんですか」

 即座に問いかけた。


 ユウは答えない。

 いつもなら、すぐに笑う。

 軽い言葉で、距離を詰めてくる。

 なのに今日は、何も言わない。


 「理由を教えてください。データが不足していて、解析できません」

 「イオリ」

 ユウが、静かに言った。

 「今は、離れてて」

 「理由が分からない場合、私は従う根拠を持てません」

 「……根拠なんて、ない」

 ユウは端末を閉じ、私から視線を外した。

 その横顔が、判定室で初めて会った時とも、海辺で笑っていた時とも、違って見えた。

 何かが、削れている。


 「……ユウ」

 「ごめん」

 それだけ言って、ユウは立ち上がった。

 四時十四分。

 廊下の角から、新しい管理官の足音が近づいてくる。

 ユウは振り返らないまま、その足音に向かって歩き出した。


     ◇


 一人残された私は、壁に手をついた。


 【心拍数:129】

 【定義:算出不能】


 「ごめん」という言葉の定義は、いくつかある。

 謝罪。

 遺憾。

 後悔。

 けれど今のユウの「ごめん」は、そのどれとも少し違った。

 まるで、何かを決意した人間の言葉のように聞こえた。


     ◇


 その夜、地下ピットで芽を確認する。

 葉は、今日で五枚になっていた。

 着実に、育っている。


 「……あなたは、どうして育つんですか」

 私は、小さな芽に向かって呟いた。

 当然、答えは返ってこない。


 芽はただ、暗闇の中で、黙って存在している。

 根拠もなく。理由もなく。

 ただ、生きている。


 私は懐中電灯の光を細く絞り、その小さな緑を見つめ続けた。

 ユウの「ごめん」が、まだ耳の奥に残っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ