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国家に恋愛を否定されたINTJの私とESFPの彼。それでも私は、この恋を選ぶ  作者: 本咲 サクラ


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13/27

第13判定:偽装された「余白」、地下の揺りかご

 白石ユウが管理室へ連行されてから、四十八時間が経過した。


 学園のデータベースから彼の登校記録は消え、まるで最初から存在しなかったかのように、日常は平然と「最適化」されている。


 彼について言及する生徒は一人もいない。それがこの世界の正しいマナーだからだ。

 ……けれど、私の掌には、まだあの種の硬い感触が残っている。


 「……計算を開始します」


 私は自室の端末を叩き、学園のインフラ構造図を脳内に展開した。


 この学園のあらゆる場所には環境センサーが配置されている。土壌の湿度、養分、二酸化炭素濃度に至るまで、適性外の植物が芽吹く余地はない。

 ただ一箇所、監視の網が極端に薄くなる「死角」を除いては。


     ◇


 深夜。


 私は寮の備品保管庫の奥、旧式の配管が剥き出しになった地下ピットにいた。

 ここは、適正化の過程で切り捨てられた「旧世代の配管」が複雑に入り組んでいる。


 私は、配管からわずかに漏れ出る結露水と、排気ダクトから漏れる微かな暖気が交差するポイントを特定した。


 「環境偽装プログラム、実行」


 私物の端末をメインサーバーに接続し、この区画のセンサーに「異常なし」のダミーデータを流し込む。


 心臓が、警告音のような速さで跳ねる。

 私が今していることは、学園に対する明白な反逆だ。


 持ち込んだ小さなカプセルに、適性局指定の肥料を「化学実験のサンプル」として偽造し、地下の僅かな土壌に混ぜ込んだ。

 そして、その中心に──彼から託された種を、そっと埋める。


 「……非効率極まりない。成功確率は、三パーセント以下ですか」


 自分でも呆れるような低確率。

 それでも、私は暗闇の中で種を隠すように、土を被せた。


 ユウが言っていた「余白」。

 それは、システムが無視し、切り捨てた場所にこそ宿るのだと、今の私には理解できた。


     ◇


 翌日。


 学園の廊下を歩く私の背後から、規則正しい、けれど重苦しい軍靴の響きが近づいてきた。


 「判定番号302、綾瀬イオリ」


 振り返ると、そこにいたのは一人の女子生徒だった。

 胸には特級管理官候補を示す「ゴールドバッジ」。


 「……何か、私に用でしょうか。佐伯先輩」


 彼女は、感情を完全に排した瞳で私を見つめ、淡々と告げた。

 「白石ユウの是正措置、一次判定が下りたわ。……今回は、記憶の再調整は見送られた」


 ──え?


 驚愕を抑えようとしたが、バイタルログが跳ねるのを防げなかった。


 「それは、彼の適性スコアに回復の見込みがあると判断された、ということでしょうか」


 「いいえ。ESFPの特性上、強制介入は対象者の感情振幅を限界まで増幅させる。適性スコアが全崩壊するリスクがある、と判断されただけよ。……過去に、同じ判断を誤った事例が一件ある。それ以来、このタイプへの介入は極めて慎重になっているの。要するに、暫定的な保留」


 人格を壊される一歩手前で、彼は踏みとどまった。

 けれど、それは「自由」とは程遠い。

 彼はこれからも、システムという巨大な顕微鏡の下で、異物として生かされ続けるのだ。


 「……そうですか。不確定要素が排除されなかったことは、不合理に感じます」


 私は、嘘の言葉を吐き出した。

 脳内では、地下に埋めた種の生存シミュレーションが延々と繰り返されている。


 「ええ、不合理ね。……でも、不思議。あなたのバイタルログに、微かな安堵の波形が混じっている。まるで、計算外の結果を喜んでいる時のように」

 佐伯先輩が、冷徹な視線で私を射抜く。


 「……気のせいです。私は、常に最適解を求めて行動しています」


 「そう。ならいいけれど。……明日、抜き打ちの個人用ロッカー査察があるわ。もし彼から何かを託されているなら、今のうちに処理しておくことね」

 彼女はそれだけ言い残し、立ち去った。


 忠告か、それとも罠か。


 けれど、私は確信していた。


 地下ピットの暗闇の中。

 誰にも見つからない、けれど確実に存在する「余白」の中で。

 私のシステムを壊したあの種が、ゆっくりと、けれど力強く、最初の鼓動を始めようとしていることを。


 いつか彼が、監視の目を掻き潜ってここに戻ってくるその日まで。

 私は、この「エラー」を守り抜かなければならない。


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