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国家に恋愛を否定されたINTJの私とESFPの彼。それでも私は、この恋を選ぶ  作者: 本咲 サクラ


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12/27

第12判定:託されたノイズと、決別のサインカーブ

 その朝、私たちの「秘密の蓄積」は、あまりに唐突に、そして冷徹に臨界点を迎えた。


 昨日、あの踊り場でユウと木苺を分け合い、秘密を誓い合ったことなど、まるで幻だったかのような、完璧すぎるほど整然とした景色。


 「イオリ、おはよう」

 不意に、背後からその声が降ってきた。


 振り向かなくても、心拍センサーが彼を特定する。


 「……おはようございます。ユウ、校内での不用意な接触は控えてください。ログの偽装にも限界があります」


 努めて冷静に、いつもの「正しい私」を演じて返すが、胸の奥では昨日から続く微熱がまだ引いていない。


 「分かってるって。でもさ、これ、見てほしくて」


 ユウは歩きながら、手のひらで何かを転がした。


 「今度は、何ですか?」


 「この間、中庭で会った二人、覚えてる?あの後も何度か話すようになってさ。旧校舎の裏でこれを見つけて、渡してくれたんだ」


 彼の手のひらにあったのは、小さな、色鮮やかな「花の種」だった。


 この学園で育つ植物はすべて遺伝子操作され、特定の季節に、特定の形にしか咲かないよう管理されている。

 だが、その種は、どの管理番号にも該当しない、野良の植物のものだった。


 「管理局に知れれば、即座に焼却処分される対象です」


 「そうだね。でも、これ、どこに咲くか分からないだろ? そういうのって、ワクワクしない?」

 ユウの瞳が、悪戯っぽく私を射抜く。

 

 「イオリ。君の中にも、まだ誰にも見つかってない『種』が眠ってる気がするんだよね」


     ◇


 その時、頭上のスピーカーから、冷徹な合成音声が響き渡った。


 『判定番号705、白石ユウ。適性管理室へ出頭しなさい』

 ──私の隣で、ユウの足が止まった。

 

 周囲の生徒たちの視線が一斉に注がれる。

 それは「正解」から外れた個体への、無機質な検閲の目。


 「……ユウ」


 私の声が震えた。

 心拍数は規定値を遥かに超え、視界の端でサインカーブが激しく乱れている。


 予測はしていた。

 「共犯者」としての道を歩み始めたその時から、いつかこの平穏が壊れることは計算に含まれていたはずだ。

 なのに、演算回路が現実を拒絶して、処理を拒んでいる。


 ユウは、一瞬だけ痛みを堪えるような顔をしたが、すぐにいつもの、捉えどころのない笑みを浮かべた。


 「あはは、やっぱり俺の方が先か。……イオリ、それ、誰にも見せないで持っててくれない?」


 「こんな時に、意味が分かりません!こんな非効率なもの、すぐに廃棄すべきです」


 「いいや、君なら捨てない。だって、君はもう『余白』の意味を知り始めてるから」

 ユウはそれだけ言うと、近づいてきた管理官たちの先導に従い、背を向けて歩き出した。


 彼は一度も振り返らなかった。

 その背中が、管理棟の冷たい扉の向こうへ消えていく。


     ◇


 一人残された廊下で、私はポケットの中の「種」を強く握りしめた。

 

 掌に刺さるような硬い感触。

 それは、システムが最も嫌う不確定要素そのものであり、ユウが私に託した最後の「共犯の証」だった。

 

 今すぐこれをゴミ箱に捨てれば、私は「正しいイオリ」に戻れる。

 蓄積された異常なログを消去し、平穏な日常を再構築できる。


 ……けれど。

 

 冷え切った廊下を歩きながら、私は自分のシステムが激しく鳴らす警告を、はっきりと自分の意思で黙殺した。

 

 「……非合理的、です。」

 呟いた声は、誰にも届かない。


 私は、初めて明確にシステムの提示する「正解」を拒絶し、自分自身の手で「エラー」を守り抜くことを決意していた。

 

 ──この種を育てて、いつか必ず咲かせた花を彼に見せる。

 

 私の物語から「平穏」という変数が消え、代わりに「反逆」という名の不確定要素が、胸の奥で静かに芽吹き始めていた。


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