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明石悠は慌てます。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
その発言を無視したのか? それとも聞こえなかったのか? 日向隊員はギターをジャーン!と弾き始めました。けど、明石悠はフリーズしたまま。日向隊員は唖然。
「ええ~?・・・」
日向隊員はパッと右の掌で6つの弦を押さえ、
「なんで歌わないのよ!?」
「だ、だって、どこで歌いだせばいいのかわからなくって・・・」
日向隊員は思いました。この人、音楽センス0だわ・・・ 日向隊員はちょっと心細くなりましたが、再びギターを弾く体勢に。
「じゃ、今度は歌が始まるところで私がはい!て言うから、ちゃんと歌ってよ!」
「ええ?・・・」
ジャーン! 日向隊員は再びギターをかき鳴らし始めました。そして・・・
「はい!」
と合図。けど、明石悠は反応しません。日向隊員はギターを弾く手を止め、呆れ顔に。
「もう・・・ なんで歌わないのよ!」
「だ、だって・・・」
「今度はちゃんと歌ってよね!」
というと、日向隊員はまたもやギターをかき鳴らし始めました。再び、
「はい!」
と合図。明石悠は今度は必至です。眼を閉じてそのタイミングを捉えました。そして・・・
今度はちゃんと歌い始めました。それを聴いて日向隊員は一安心。笑みを浮かべました。
「ふ、やっとタイミングを掴んだか・・・」
曲が進んで行きます。ギターを弾きながら日向隊員は思いました。
「う~ん、やっぱそれほどじゃないか?・・・」
どうやら明石悠は日向隊員が期待したほどの歌唱力じゃなかったようです。けど、日向隊員はどうしても明石悠をヴォーカリストとして使いたいようです。
明石悠は曲を歌い終えました。
「あは」
照れ笑いか? 明石悠の顔はちょっと赤くなってます。けど、日向隊員は納得してません。いや、わざと納得してない顔を見せたようです。
「ダメね、こりゃあ・・・」
それを聞いて明石悠はがっくし。
「ええ?・・・」
「歌に魂が籠ってないよ!」
明石悠はしょぼ~んとしてしまいました。
「もっともっと歌に魂を込めてよ!」
と言うと、日向隊員は再びギターを弾く体勢に。
「行くよ!」
明石悠はびっくり。
「え、また?」
「私が納得するまで、何回でも歌わすよ!」
明石悠は呆気にとられてます。日向隊員はそれに気づき、
「嫌なの?」
と強めに質問。明石悠は慌てて、
「う、歌いますよ!」
と反応。日向隊員は薄っすらと笑みを浮かべると、
「ふふ。じゃ、行くよ!」
日向隊員はギターを弾き始めました。
「はい!」
この合図とともに、明石悠は再び歌い始めました。明石悠は歌いながら思いました。
「もっと・・・ もっと歌に魂を込めないと、日向さんに棄てられちゃうよ・・・」
明石悠が今頼りになる人は日向隊員だけ。だからちゃんと歌わないといけないのです。
ギターを弾きながら明石悠の歌声を聴いてる日向隊員は思いました。
「ふふ、さっきより魂が籠ってる。これなら使えるかも? いやいや、まだ足りないかな?・・・」
日向隊員は考えました。どうすれば黒部すみれのように歌えるのか?
黒部すみれ・・・ 日向隊員は初めて彼女と会ったとき、彼女の感情は希薄でした。脳に障害があったからです。感情が希薄だったからこそ、歌に魂が籠ってたんじゃないか?
ジャーン! 曲が終わりました。明石悠は満足してます。笑顔で日向隊員を見て、
「ねぇ、どうだった!? 今度はよかったでしょ?」
が、日向隊員はまたもや厳しい顔。
「まだまだ」
「ええ~?・・・」
明石悠は自信があったので、またもやがっくし。日向隊員。
「いい、今度は何も考えないで歌って。魂を込めることだけに集中して、歌に!」
明石悠は考え込みました。




