勇気とは、絶対に逃げないと決意すること。――4
ブラッディーミノタウルスを倒した俺と天原さんは、疲労のあまり肩で息をしていた。
ブラッディーミノタウルスとの戦闘が激しすぎたためか、俺たちはいつの間にか、門の先にきている。
「なんとか倒せたね」
「ええ。ただ、ブラッディーミノタウルスが出現したのがいまだに信じられません」
「そこまで強力なモンスターなの?」
天原さんが「はい」と頭を縦に揺らし、緊張を帯びた顔つきで答えた。
「Cランクダンジョンに現れるはずがありません。ブラッディーミノタウルスは、SSランクダンジョンに生息しているモンスターなのですから」
俺は言葉を失う。
SSランクダンジョンは最難関のダンジョン。その出現率は極めて低く、一年に一度出現するかどうかだ。
ただし、出現した際には厳戒態勢が敷かれる。
国内に二組しかいないSSランクパーティーに攻略が要請され、モンスターが出てきた場合に備え、ゲート付近の住民には避難指示が出される。万が一、ダンジョン内のモンスターが出てきたら、その被害は計り知れないものになるからだ。
すなわち、SSランクダンジョンは天災と変わりない。
そのSSランクダンジョンに生息しているモンスターが、どうしてこんなところに!?
「加えて、気になることがもうひとつあります」
俺がおののくなか、天原さんが頬の汗を拭って続ける。
「勝地くん。急に熱くなったと思いませんか?」
「たしかにそうだね。さっきから息を整えようとしているのに、なかなか収まらないし」
天原さんに答えながら、俺はハッとした。
「そういえば、ドラゴンエンペラーと遭遇したときも、同じように気温が急上昇していたっけ」
「はい。あのときはその理由がわかりませんでしたが、ブラッディーミノタウルスが門の内側から現れたとなると、ひとつの仮説が立てられます」
天原さんが仮説を口にする。
「先ほどまでいた場所がCランクダンジョンで、ここはSSランクダンジョンである可能性です」
天原さんの仮説は非常識甚だしいものだった。これまで、ダンジョン内でランクが変わった事例なんて、ただのひとつもないからだ。
けれど俺は、天原さんの仮説を疑う気にはなれなかった。
SSランクダンジョンに生息しているブラッディーミノタウルスが現れたこと。
門の内側と外側で環境が変わったこと。
そして、ダンジョン内の構造が、以前に探索したときから変化していたこと。
以上の三つを踏まえると、天原さんの仮説は正しいとしか思えないからだ。
「天原さんの言うとおりかもしれない。緊急事態だ」
「ええ。急いでほかのパーティーに連絡しましょう」
天原さんがストレージから通信石版を取り出す。
そのときだった。
開いたときと同様に重々しい音を立てて、門が閉まりはじめたのは。
俺と天原さんはギョッとした。
いけない! このままでは閉じ込められてしまう!
「急いで出よう、天原さん!」
「はい!」
俺と天原さんは慌てて走り出し、門に向かって全力ダッシュする。
門までは三〇メートル……二〇……一〇……。
あと五メートルほどで外に出られるところまできたが、俺と天原さんの全力疾走は徒労に終わり、門はバタンと閉じてしまった。
俺と天原さんは歯噛みする。
いや、まだ閉じ込められたと決まったわけじゃない! 門を開けられる可能性が残っている!
パニックに陥りそうになる頭を理性で鎮め、俺は天原さんに声をかけた。
「天原さん! 門を開けることはできないかな!?」
「やってみましょう」
天原さんが門に両手を当てて、ググッと押し込む。
だが、門はびくともしない。
天原さんが歯を食いしばり、ありったけの力を込めるも、微動だにしなかった。
「っ! 開きません!」
「Sランク探索者の力でも開けられないのか……!」
天原さんが悔しげに顔を歪ませて、俺は拳を握りしめる。
こうなると、頼みの綱は門の外側にいる五組のパーティーだ。
俺と天原さんは五組のパーティーと連絡をとり、事情を伝えた。
この絶望的状況から逃れられるよう、祈りながら。




