第253話 剣者
「···っは!上等っ!!精霊憑依火っ!!」
「もぉ〜···ドMになるのはベッドの上だけなんですけどっ!?」
「「「「「斬り進めばいいだけです」」」」」
「···ふ〜ん?♪」
4者4様。それぞれの戦闘が始まっていく。まず4人の連携は止めた。誰から切り崩すか考えようとしたその時である。
「···は?」
ハイロリの口から思わず声が漏れる。大きな誤算であった。あろうことか最初の接敵で分身を消滅させた者が現れる。その者はゆっくりと男の本体へと歩みを進めていく。
「おいおい···どうなってんだよ?そんなに鋭いなんて初めて知ったぞ?」
「···あはっ♪」
両腕をだらんと下げた状態で微笑むカーチャ。その両の手には不規則に輝くマナの刃。
「今まで剣なんて使ってこなかったから初お披露目だよ〜」
「···?初めて剣を使ったのか?」
「そうだよ?魔法が綺麗で好きだから魔法しか使ってなかったの。それにバンって血が飛ぶし」
「···もしかしなくても魔法より剣の方が強い?」
「ん〜···たぶん?一応イーちゃんから言われたスキルは剣者だったし?なんか体が勝手に動くんだよ?」
「剣聖だと···?それは異世界に初めて行った時に言われたことなのか?」
「うん♪でも魔法がいいって魔法の練習してたんだよ?」
ハイロリのすべての計算が狂った瞬間であった。警戒レベルを最大まで高める男。そして決断する。静かに命唱を負担のない限界まで高めていた。それを受け、カーチャは狂気的な笑みを浮かべながら命唱を重ねる。
1歩ずつカーチャが距離を詰めていく。観客席ではアヤネが身を乗り出すように立っている。カーチャの姿が消えると同時にハイロリの体は2つに斬り裂かれた。傷口は勢いよく燃えてゆく。
「···はやい···」
アヤネが思わず声を漏らした。自分の振る剣速よりも明らかに上だったからである。ハイロリの体が数センチ離れた時であった。
ボンッ!!
男の体は爆散し、カーチャにマナの波動が襲いかかる。それと同時に男の肉片が血を纏った刃となって舞台上を走った。
こともなげにカーチャはそれを一振りで薙ぎ払う。しかし残りの3人は分身との攻撃を同時に捌き切れずに被弾していた。そして男が一瞬思考に時間を割いたその時である。
隙を見つけたと言わんばかりにすべての分身が消え失せた。カーチャの援護によって自由となった3人。一切のタイムラグもなく行動へと移す。しかし男も即座に反応した。
「「鏖殺冥月流···壱の型···死閃」」
花子を体内に召喚すると同時に調和状態となった花ロリ。爆発的な力の上昇とともに振るわれる剣閃。ダメージこそないものの咄嗟に対応を迫られた4人の勢いは止まる。そして花ロリも一息つく。めまぐるしい攻防の中で息を飲む時間が生まれ、観客のボルテージも一気に上昇していった。
「やろう···オレには温存してやがったな!」
「ハイロリ君も調和が使えるとはね···これは恐れ入った···」
「完全に余裕がなかったようには見えない···つまりまだあいつは力を隠している?」
「花ちゃん羨ましい···」
花ロリの姿がぶれる。舞台上には花ロリが9人いた。
「「じゃあ···次は妾と3Pじゃの?みんな好きじゃろ?」」
1人がダメなら2人。彼女達を嘲笑うかのように力技で攻め立てる。当然のことながら彼女達は一気に劣勢に立たされることとなった。
「そんなんで止められるかな?カラスさん」
「「そんなに欲しがりならもっとくれてやる」」
「えぇ〜っ!!ずるくない?」
カーチャにまだ余力がありそうだったので本体も攻撃を加える。刃が振るわれると同時にさらに分身が増え、余裕がなくなっていくカーチャ。気づけば5人に囲まれている。
「···あいつ何人まで増えるんだ?」
「しかも力は本体と互角···えぐいね」
「···勝負はもう決したな。まずあいつに勝つには個々で実力が上回っていることが必須···」
「···緻密なイメージが必要だからダメージを与えたら使えなくなるさね。追い込めば弱くなる···でもそれまでがなかなか骨が折れそうかな···」
4英雄の言葉通り4人にどんどん傷が増えていく。このまま勝敗が決まるかに思えたその時···待ったをかけるものが現れる。
「「「「「···フルパワーでいきます!!ご覚悟をっ!!」」」」」
アリスの力がハイロリ以上に変わった。即座に分身を5体追加して攻め立てるも時間稼ぎにすらならない。
「···おいっ!?誰があれを教えたっ!?フーカかっ!?」
「あたしが教えるわけないだろうがっ!?」
「···アデルソンも違いそうだし···これは自力で辿り着いちゃった感じかな···?」
「···できることならこれだけは覚えて欲しくなかったが······復活できる場合に限り有効打にはなるか···」
「んな問題じゃねぇだろうがよっ!?アステラはあれが原因で死んだんだぞっ!?」
「天才の血を受け継いじまったようさね···まぁ命を賭けてでもハイロリにぶつかりたいんだろうね···あとで叱らないといけないねアリス」
「まぁ···死ぬことはないから後でフーカとリヒテルに任せるとして······やっぱり個の力で上回ってれば関係ないようだね」
「ハイロリよ···果たしてお前は手を隠したまま耐え切れるのかな」
それはかつて星が攻め込まれた際にアステラが敵を退けた力であった。自身と獣魔達の生命力を消費して莫大な力を得る禁断の技。無論···生命力が無くなれば全員死ぬ。
巨大な力の出現によって盤面はハイロリの劣勢に傾いていく。しかしハイロリが凌ぎ切れば再びその盤面は裏返る。闘いの勝敗はこれからの攻防に委ねられていた。
迫り来るアリスの連撃により、ハイロリの余裕は消えていく。カーチャを抑えていた分身もその攻撃によって消滅。2人がかりで攻め立てられるハイロリ。他の手を出すことすら許してもらえない。四肢を斬られは再生し、時にはハイロリファントムで距離をとる。
ただただ必死に喰らいつくことしかできない。そこへ分身を突破したチャーリーとレナも迫ってくる。万事休すかと思われたその時ハイロリの力が爆発的に上昇した。それは先日のリヒテル以上の力である。ハイロリが温存することをやめ、負担を覚悟した瞬間であった。
「···はんっ···やっぱムカつく野郎だな」
「やるねぇ···おそらくノーリスクではないんだろうけど僕らより強い」
「あの状態から分身がくると脅威だな」
「·········やっぱりそうこなくっちゃね···にしししっ!」
徐々に···ほんの僅かずつである。ハイロリが劣勢を押し返していく。生死の狭間の攻防に慣れてしまっている男の本領発揮といったところなのであろうか。このぐらいの劣勢は日常茶飯事。清十郎の攻撃を耐え凌ぐという修行の成果が如実に現れていた。
押しているのに決め切れないことで焦りが4人に生まれてくる。特にアリスは自身の限界が近いことを悟っているが故、顕著であった。しかしながら焦りが何も生まないことを知っている。
だがついにその時がやってくる。
アリスが体勢を崩す。その瞬間をハイロリは見逃さない。瞬時に分身を生み出し他の3人の攻撃を弾く。そしてアリスの体を斬り裂いた。
そこからは一瞬である。分身をさらに生み出し3人の体を跡形も無く消滅させた。息を切らしながら佇む男。そして男の口から大量の血が吐き出される。膝をつく男の姿。
「激戦を制したのはハイロリだぁぁぁぁっ!!」
デキウスの勝者の宣言を聞き終えると会場が震えるほどの歓声に包まれた。
息を整える暇もなく、静かに男は立ち上がる。そしてハイロリソードを観客席に掲げた。その刃の向く先には4英雄の姿。男の目からは殺気がこれでもかというほど漏れている。




