第254話 ハイロリvs4英雄
決勝戦が行なわれている間も人の流れは止まらなかった。しかしその流れはぴたりと止んでいる。住人達の注目を集めていたのは決勝戦ではない。グランドチャンピオンの闘い。かつて星を守り切った英雄達の闘いを再びその目に焼き付けたいと思っていたからである。
銀の門がゆっくりと開き始める。それと同時に住人達の歓声が一斉に大気を震わせた。門が開くにつれて人影がひとり、またひとりと浮かび上がってくる。4人の姿が映し出されると静かに4つの足音がコロシアムへと響いた。
傷も癒え、体力も元に戻ったハイロリ。精神力は消耗していたが目に迷いはなかった。舞台の中央でぶつかる5人の視線。だだ漏れだった殺気の姿はない。嵐の前の静けさともいえるような穏やかな邂逅である。
彼らは言葉を交わすことはなかった。言葉はいらない。ただ眼前の敵を潰すだけである。デキウスも空気を読み取ったのか流暢だった言葉は見る影もない。そして静かにデキウスは開始の合図を告げた。
それと同時にハイロリからマナの波動が放出される。4人は一斉に後方へと距離をとる。4英雄それぞれへ後方から4人のハイロリが襲いかかっていた。4人のマナは暴力的に上昇し、その対応は鮮やかなものである。
一瞬にしてすべてを斬り裂き、一瞬にしてすべてを粉砕し、一瞬にしてすべてを打ち抜き、一瞬にしてすべてを薙ぎ倒した。
「はん············舐められたもんだね···全力できな?ハイロリ」
懐から出したキセル。煙を吐き出しながらフーカは殺気を込めて言葉を放つ。軽く笑みを浮かべるハイロリ。決勝戦以上のマナを纏う。しかしマナの大きさでは舞台上で1番劣っている。ハイロリの姿が4人に増えた。そして一斉に目の前の敵へと襲いかかった。
四者四様。それぞれが激しく撃ち合っている。観客席は静まり返っていた。再び4英雄が全力で闘う姿に心が震わされている。それと同時に互角の攻防を繰り広げている相手の存在に息を呑んでしまっていた。
しかしハイロリからすれば互角というわけではない。劣勢。鼻から滴り落ちる血液がそれを物語っていた。通常以上の負荷がかかった状態。苦痛ともいえるような頭痛を感じているはずなのに一切表情を変えることはない。
4英雄達は現状維持さえしていればよかった。撃ち合いを続ければ続けるほどハイロリが消耗し勝手に潰れていく。そして一時的とはいえ、4人全員を相手取り互角に渡り合っていることに驚愕している。仮にソロでやり合っていたとしたら劣勢に追い込まれていたのは自分達だっただろうと戦慄すら覚えていた。しかしながらハイロリにこれ以上の策はない。自分達の勝敗は揺るぎないものであったはずだった···。
「「「「っ!!」」」」
4英雄達が吹き飛ばされる。その原因は単純であった。ハイロリの力が自分達の力を上回ったからである。4英雄達は驚愕の表情へと変わった。苦悶、鬼気迫るといった表情となったハイロリ。鼻だけでなく目や耳からも血が流れ出ていた。限界を超えた命唱状態。ハイロリは休む暇もなく4英雄へと一気に襲いかかる。
劣勢に回った4英雄達。被弾しながらもなんとかハイロリの攻撃を耐えていた。先ほど以上の負荷がかかった状態ならば耐えればそれが必然的に勝ちとなる。紡がれる攻防。4英雄達に疑念が走った。ハイロリの力が一向に衰える気配がない。むしろダメージの蓄積で負け筋まで見えてきている。
ハイロリの状態は現実世界ではレッドシグナル。限界を超えているのはまごう事なき真実。しかし精神力でそれを凌駕しているだけに過ぎない。
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決勝戦が終わった頃、復活したアリスは舞台上のハイロリへと駆け寄っていた。
「ご主人様···」
「···どうしたアリス?」
「皆んなで話し合った結論を伝えますね?」
「今···なのか?後からでもいいか?」
「ダメです。次の試合···全力のお姉ちゃんに勝てたらお姉ちゃんをお嫁さんにすることを認めます」
「······そうか···わかった···伝えてくれてありがとう」
ハイロリとアリスは満面の笑みを浮かべていた。
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フーカを手に入れるという思いを強く持ち、命を賭して闘っているハイロリ。元々強靭な精神力を持っていたハイロリ。そこへ愛情も加わり、力が減衰することなどあり得るはずもなかった。
負けの見えてきた状況に、4英雄達の表情も変わる。限界を超えた命唱状態になり苦痛に耐えていた。力の大きさはそれでも五分。ハイロリのように死の瀬戸際を歩くような命唱を維持することは普通ならばあり得ない。一時的ならば可能である。しかし短時間で仕留めることができるほど今のハイロリは柔な相手ではない。
再び互角の攻防が始まる。先に力尽きた方の負け。圧倒的な力のぶつかり合いに固唾を飲んで見守る住人達。この光景には見覚えがあった。かつて魔王と呼ばれた者がふらっとやってきた時である。その当時はアステラも健在だった。5英雄がその魔王に喰らい付いていた姿そのもの。魔王清十郎。ハイロリは限界を超えて闘っているという違いはあれど、住人達には清十郎とハイロリの姿が重なって見えていた。
攻防の音が続くこと数十分···ついに膠着が崩れる。動きの鈍った4英雄。その隙を見逃さないハイロリ。リヒテルに対してパリィを決め一瞬にして斬り刻む。一度闘っていたからこその一撃。ハイロリに情報を与えていたことが致命打につながった。
1人分手の空いたハイロリがアデルソンへと襲いかかる。1人の対処で互角。それが増えたとなれば結果は見えていた。最後まで粘りを見せるがアデルソンは数的不利になす術もなく敗れる。
すぐさまラルカスの元へ襲いかかる2人のハイロリ。接近に気づいたラルカスの判断は早かった。普通に闘っても敗れるだけ···ハイロリと同様にラルカスから流れ落ちる血が増える。一時的な極限状態。目の前のハイロリへと全力の一撃を叩きつけた。
力の上がったラルカス。再び力関係はハイロリが劣勢へとなる。咄嗟に受け止めようとしたが両の手にあったハイロリシールドは吹き飛ばされ、そのまま肉片へと変わるハイロリ。
体勢の崩れたラルカスへ2人のハイロリがそのまま斬りかかる。地面から巨大な槌を引き抜き、無理矢理前方のハイロリへと振るった。木っ端微塵に消滅するハイロリの姿。ラルカスの口角が密かに上がる。後方から斬り刻まれるラルカス。
勝ち切るのは不可能と見て数を減らすことに全力を出していた。その作戦は功を奏している。消耗したハイロリはもはや新たにハイロリゲンガーを使える余力など残っていない。ハイロリファントムはこの闘いで1回も使えていない。限界を超えた状態ではハイロリファントムという離れ技を使用することができないのである。
もはや気力のみで闘っているハイロリ。舞台上はハイロリ2人とフーカの3名しか残っていない。フーカは横目に散っていた仲間を見やる。口元には笑みを浮かべていた。ハイロリと2人きりの殺し合い。それはまるでこの時を待っていたというかのような笑みであった。
接近するもう1人のハイロリの姿。挟撃の格好になった舞台上。ハイロリがフーカの懐へと飛び込んだその時、ハイロリに強烈な悪寒が走る。本体は咄嗟にバックステップ。血飛沫を上げながら飛び退くハイロリの姿。鮮やかな回し蹴り。そのまま斬り込んだハイロリの体は2つに切断されていた。
カーンと甲高い音が鳴る。2つに分かれたハイロリの頭上へと振るわれたキセル。灰を落とすかのような仕草。遅れてその体は重力で押し潰されたかのように原型の消えたハイロリ。静かにハイロリへと振り返るフーカ。
抉りとられた腹を抑えながら膝をつくハイロリと血の滴る美しい笑顔を浮かべたフーカの視線が交差する。
「さぁ···これからが本番さね···勝つのはあたしだっ!!」




