第252話 天才
ハイロリはレナの拳をパリィしそのまま横薙ぎにハイロリシールドで叩きつける。しっかりガードはされていたものの、レナは吹き飛ばされ、距離を確保していた。そしてそのまま頭上へ飛び上がる。
「···連結···舞えっ!ハイロリシールド!」
連結したシールドを高速回転させながら頭上の壁へと突っ込んでいく男。そして壁を突き抜けた直後であった。
「なぁに勝手に出てるの?マイベイビーちゃん?」
振り下ろされる踵落とし。シールドの勢いは完全に止められていた。そこへ狙いすましたかのような鋭い突きが迫っている。
「チェックですよ?ご主人様?」
咄嗟にハイロリはハイロリソードでそれをパリィした。
「ですよね?」
アリスはそうくることがわかっていたかのようにいつのまにか持っていた短剣で刺突を繰り出した。それを拳で受け流そうとするハイロリ。
「よそ見はいけないんだよ〜?」
いつのまにか距離を詰めていたカーチャによるゼロ距離からのマナの放出。
「···っは!」
「「「くっ···!」」」
お返しと言わんばかりに笑みを浮かべながらハイロリは全方位へ衝撃波を放つ。チャーリー、アリス、カーチャが勢いよく吹き飛ばされる。その直後、ハイロリは下から寒気を感じた。
「精霊憑依風」
衝撃波を突破し、風切り音とともに燃え上がる風を纏ったレナによる打撃が迫っていた。衝撃波を放ったほんの僅かな硬直でハイロリは出遅れる。かろうじてガードを行なったものの上空へ吹き飛ばされることになった。
大きな音とともに空気を蹴り、レナが追撃にやってくる。しかしいつのまにか舞っていたハイロリソードからのマナの弾丸がレナの行動を阻害していた。回避を強いられ、追撃を仕掛けられないレナ。そこへ再び大きな音が鳴った。
既にハイロリはレナに斬りかかろうとしている。それは人数差を斬り崩す絶好の好機。しかしそれに待ったをかける存在があった。上空から超重力を自身にかけ、光速で降りてくるチャーリー。
その存在に気づくハイロリ。それと同時にアリスがピヨ吉達を召喚するのを確認。カーチャが動いていないことに違和感を覚えるものの、目の前の状況に集中する。
「マイラブなら受け止めてくれるわよね?ふふっ···」
右手に鉤爪、左手に短剣を携え突撃してくるチャーリーに対しハイロリはハイロリシールド2本で対応するつもりのようだ。
「受け止めてやるからどんと来いよ?」
甲高い音ともにチャーリーの勢いのままに2人は地上へ落ちていく。その刹那、ハイロリの感覚に警鐘が鳴っていた。それはアリスの力が恐ろしいほどに上昇したからである。2人が地上へ激突するその時であった。
「「「「「···飛烈刃」」」」」
アリスの放った斬撃はハイロリの体を2つに斬り裂かんとする一撃。瞬時にチャーリーの受けに回していた両手を片手に切り替える。しかしそれと同時に男に先ほどよりも大きな警鐘が鳴った。
「「「「「嵐破閃」」」」」
咄嗟に首を捻り、なんとかアリスの突きを躱わす···しかし警鐘は消えていない。いつのまにか力の増幅したカーチャの存在なのかそれとも羽や尻尾の生えたアリスの存在が警告しているのかハイロリは把握できていなかった。
そして男はあろうことか致命的な間を作ることとなる。視界に入ったアリス。その銀髪に生えるケモ耳···あまりの可愛さに魅入ってしまうという失態を犯す。頭ではわかっているが、視線や意識を外すことはできなかった。いつもと違う姿をしている最愛の女を愛でたいという欲求には抗えない。
「···!!」
僅かに生んだ隙を見逃してくれる女達ではなかった。気づけばハイロリの上半身と下半身が切断されている。
「あはっ♪」
その原因に目を向けた時、それは既に遅かった。カーチャが両手にマナでできた刃を振るった後である。刃を認識した時には既に男の体は細切れ···そしてそのままチャーリーの強烈な一撃が肉片をさらに細かいものへと変えていく。
まるでコントロールを失うことがわかっていたかのようなレナ。ハイロリソードの追撃から抜け、頭上から拳をハイロリだった何かに向かって振るう。抉り取られる舞台。
ハイロリの姿は跡形もなく消し去っていた。静まり返る会場。観客も目の前の光景が信じられない様子である。各支部···特に日本支部の面々は目を見開いていた。しかし4英雄だけは表情を変えることなく見守っている。
「···ったく···改めて外から見ると器用過ぎだろあいつ···闘ってたら気づけたかすら怪しい···だがあの剣技は···」
「遠目から見ても何かしたのかな?っていうふんわりとした違和感しかないからね。でもアリスのあれはアステラの···」
「力技も使うが···やはりあやつの本領はこっちか···ずいぶんと慎重なことだ···まぁそれが功を奏したのは間違いないがな···だが手の内を明かさないと苦戦は免れないぞハイロリよ」
「にしししっ!いいじゃん···楽しくなってきたさね」
舞台上の4人は集中力を極限まで高めている。これで終わったとは思っていない。先日リヒテルとの闘いでもこの男は颯爽と復活してきた···奥の手を見せてまでの奇襲ではあった···しかしこの程度で終わるはずがない···いやまだこの時間が終わって欲しくない···そう思っていた。
パチッ···パチッ···パチッ···
頭上から手を叩く音が鳴る。4人は視線を一斉に向けた。
「素晴らしい···さすがに手強い···」
4人を賞賛するハイロリの姿。ゆっくりと落ちてくる男。
「ふふっ···よく言うわねマイダーリン?あれだけ完璧なタイミングだったのに余裕そうね?」
「いや···?確かにその体は消滅させられたぞ?」
「なるほど···いつのまにか分身と入れ替わっていたのか」
「なぁに···ちょっとハイロリソードに紛れ込んでいただけだ」
「よかった···また斬れるね?今度はしっかり斬り刻んであげるね?」
「···カーチャが剣技を使うとはな···まったく予想外のことを···」
「「「「「まだまだあんなものではありませんよ?それは私もですけどね?ふふっ」」」」」
「···思わず見惚れてしまったぞ···しかし···調和···複数でもいけるとは思わなかったぞ」
アリスが行なった調和。それはピヨ吉、ピヨ子、サリー、うるたん4匹とのものである。ハイロリはノーリスクでそれが可能なのか疑問を抱いたが、すぐにそれを払拭した。時間制限などないものと思った方が良い。4英雄が絶賛していたアステラ。その秘技である調和。ハイロリにとっては偶然成功しただけでまだどういう技なのか確信を持てない状況だから尚更であった。
しかし実際は違う。心を合わせる数が増えるほど難易度はもちろん上昇する。そして消耗すればするほど負担も倍増していく。さらに合わせた心もどんどん乱れてくる。アステラでさえ、この複数との調和は時間無制限というわけにはいかなかった。
習熟度が極まっていればハイロリの予想通り、ノーリスクノーリミットの壊れ技である。しかしアリス達はまだ日が浅い。習熟度は全員が成長することでしか上がらない···アステラができないものをアリス達が一朝一夕で習得しきることは不可能である。
だがそれをハイロリが認識する術はない。このままでは長期戦になりかねないと判断した男は手の内を開示せざるを得なかった。
「ふぅ·········そう殺気立つなよ?その気が無くてもこちらからデートのお誘いをしましょうかね···姫君達···オレと2人きりで楽しみましょう」
「「「「「···っ!!」」」」」
4人の前にはそれぞれハイロリゲンガーで生み出されたハイロリが現れる。舞台上では5対4の構図になっていた。そして会場の驚きが覚めやらぬうちに男はすぐに攻撃へと転じていく。




