第251話 ハーフパーティー戦決勝
この日、星中の人々の注目がコロシアムへと集まっていた。その要因となったのはハイロリの存在である。連日勝利を重ねたこの男ならばきっと圧巻の試合を見せてくれるだろうという期待からくるものであった。決勝戦の開始時刻が迫る。コロシアム内は超満員。未だにコロシアムへと向かう人の流れは止まらない。
「ん〜···今日もいい天気だねぇ···それでは選手入場といこうか♪
闇の門からはお馴染みハイロリの登場だ!やはり今日はフル装備。おや···心無しか先日の決勝より気合が入っているように見えるね」
門が開くと、ゆったりした足取りでハイロリが現れる。その瞬間コロシアムからは雷のような声援が上がっていた。その一方で日本支部の幹部達、観客席にいる嫁達だけは固唾を飲んでその様子を見守っている。歩く男の様子が鬼気迫るようであったからだ。殺気が漏れるほどの真剣な姿に言葉を失っている。
男は中心で止まると目を閉じた。軽く息を吐く。目を開けるとその表情はなぜか優しげなものへと変わっていた。相対する光の門をあたたかく見守っている。それは知らないはずの対戦相手がまるでわかっているかのようであった。
「光の門からはこちらもまた完勝し続けた強者達···先日の準決勝での熱戦は未だに心に残っている者も多いであろう···言うまでもなく彼女達は強い。ソロ部門のアヤネ同様に初優勝から連覇を継続してきた···グランドチャンピオンに挑もうとするハイロリに待ったをかけることができるのであろうか···さぁ···最愛の者達よ···
存分に殺し合えっ!」
ハイロリは静かに笑った。ゆっくりと歩いてくる4人の女。殺気とともに会場に足りない香りがそこから香ってくる。
「···キング···今日は思う存分愛し合おうじゃないかっ!!」
「今日のご飯はカラス鍋〜?」
「あら···みんな張り切ってるじゃない?そういう私も張り切ってるんだけどね?ふふっ···」
「···ご主人様···カジノで出会った時のように殺し合いましょう···」
「···みんな殺意が高いな···オレは楽しもうとしてたんだけどな?
ふぅ〜············まぁデートじゃなくて命の獲り合いをご所望とあらば·········お相手させていただきましょうかね?お姫様方」
4人の殺気に呼応したかのようにハイロリもまた殺気を放つ。その瞬間に4人の表情は恍惚なものへと変わる。開始の合図を待たずしてバトルフィールドが形成されていく。
「ちょっとぉぉぉっ!まだ始まってないんだけどぉぉぉぉぉはじめぇぇぇぇ!」
デキウスの声と共にハイロリはチャーリーの懐へと転移し斬りかかっていった。その瞬間視線が交差する2人。女の表情が笑顔に変わる。
「っ!!!」
鈍い音が舞台上に響く。ハイロリは血を吐きながら吹き飛ばされていた。レナの拳が男の体にクリーンヒットしていたからである。空中で即座に体勢を立て直そうとした時、ハイロリの体を色とりどりのマナの弾丸が貫く。しかし体は霧散していく。ハイロリの体が現れると、その腹にはレイピアが突き刺さっていた。
「ご主人様?死んでください」
そのままアリスがレイピアで斬り上げる。ハイロリの体は肩まで斬り裂かれ、血飛沫が舞う。
「へぇ〜···やるじゃない···さすがマイラブ···転移してくれたらそのままハメ殺せたのに···まだ痛みが欲しいのかしら?とんだドMね?」
ハイロリの選択は離脱。転移したらその瞬間に拘束されると判断したからである。あえて斬られることで相手の思惑から外れることに成功していた。ゆっくりと男の体の傷が治っていく。
「···どうした?攻めてこないのか?」
「ふっ···奇襲は失敗した···だから今度は真正面からぶつからさせてもらうぞキングよ!」
「カラスさんが読まれてることに気づいちゃったから仕切り直しだよ〜」
「読まれるのはわかっていた···その上で潰すならば頭から···あそこまでドンピシャで突かれるとは思ってもいなかった···さすがだな」
「もう〜···どれだけ私達がご主人様と体を重ねていると思っているんですか?そんなのできて当然ですよ?まっ···1人だったら無理ですけどね?」
表情は穏やかながらも互いに目は笑っていない。水面下では相手の次の一手を探り合っている。ハイロリとしてはひとりずつ潰していきたいが、そのためには4人全員がカバーしあうことのできない状況に追い込むしかない。ハイロリファントムの着地点が読まれる以上、それは些か難儀なことであった。
対抗策はある程度考えついていたが、男の選択は待ち。嫁達がどう攻めてくるのか···そして自身の成長のために追い込まれることを期待していてのことだった。またできることなら手の内はできるだけ隠しておきたいというも思惑もある。グランドチャンピオン戦が想定通りの相手であれば苦戦は免れないであろうと既に先を見ていた。
そこに嫁達が付け入る隙は存在している。ハイロリの想定以上の動きでそのまま倒してしまえばいい。
「参源命唱陸の理」
「参源命唱陸の理」
レナが命唱を重ねるのに呼応し、ハイロリも重ねていた。
「集え···元素達よ···古の盟約に従い我に力を授けよ」
「···!」
レナの体に刻まれたタトゥーが光り輝く。そして体が蒼く燃え上がる。それと同時にレナの存在感いっそう強くなっていった。
「さぁ···キングよ···共に踊ってもらおうか···第1369代目継承者···アドラシオン・レイナ・サンタマリア・ドゥアルテ···いざ参るっ!!」
狂気じみた表情でレナがハイロリへと襲いかかった。迫り来る中、男の体からばちばちと音を立てながら稲妻が走る。頭の中では光速で思考の渦が展開されていた。
あの炎に触れて良いのか···触れた時の最悪の想定···格段に上がっているスピード···どこが狙われているのか···他の3人は何をしているのか···レナは元素と言った···炎と限定するのはまだ早い···考えられる形態変化は何か···体がいつもより重い···チャーリーはデバフを撒くと同時に何かをしている···カーチャの遠距離攻撃のタイミングがどこにくるのか···アリスは必ずどこかで息の根を止めにくるはず···。
男の思考は止まらない。しかし正解も導けずにいた。残りの3人も命唱は既に重ね終わっている···その中で男は次の選択を決定し、即座に動く。
鈍い音が響く。共鳴するかのように音はどんどん鳴り響いていく。ハイロリが選んだのは真正面から撃ち合うことであった。ハイロリシールドとレナの拳が激しく衝突し合っている。男の体は徐々に炎に蝕まれ灼かれていくが、瞬時に治っていく。炎と治療のいたちごっこが体の表面上で起こっていた。次の展開図を思い浮かべていると2人を囲むように蒼いマナの壁が全方より迫り来る。
カーチャによるものだと瞬時に気づく男。しかしこれではレナを巻き込むのは必然。この壁が火属性であると仮定し、レナが透過できるのであれば取り込まれるのは自分だけ···男は心の中で静かに命唱を切り替える。プラズマの力で超高温になってしまえば灼かれない。灼かれるならばさらに燃え上がればよい。
やはり弟子は師匠に似ていくものである。強引に力業で乗り切るのが清十郎流。むろん師匠も弟子も神技ともいえる絶技ありきの脳筋だから余計にタチが悪い。




