rainy days
「おい、坊主。そんなところで何してんだ?風邪ひくぜ?」
坊主と呼ばれた少年はやや疲れたような顔で声の主を見た。
細身の高身長で、顔は少しやさぐれてはいるがかなりの美形だった。
少年は坊主と言われたことが気に触ったらしく少し気分が悪かった。
「何だよお巡りさん。別に坊主が雨宿りしてるだけじゃないか。警察が関わる事じゃないと思うぜ」
すると、ハハハと若い警官は笑った。
「雨宿りってお前、“屋根がない”所で雨宿りが出来るわけないだろう?」
少年は上を見上げた。
......確かに何もない。
無性に腹が立ったので何か言い返してやらないと気が済まないな、と思い何を言おうか考えていると、警官がタオルを押し付けてきた。
「ほら、これで体を拭け。じゃないとほんとに風邪ひいちまうぞ?」
いちいち世話を焼くのが好きな奴のようだ。
こんな子供に恩を売って何がしたいのだろうか。
「俺の親切を余計なお世話とか思っているお前に一つ言いたい。よく考えてみろ、警官が雨でずぶ濡れになっている少年をスルーしたなんて噂が流れたら仕事に影響するだろ?」
成程、一理ある。
「だから有難く受け取っておけ」
「......そうさせてもらうよ、お巡りさん」
とある街のとある裏路地。
少年と若者はこうして出会った。
2人は互いを似ていると思っていた。
少年は幼馴染みを謀略で1度失い、
若者は能力者が絡んだ事件で妻を失っていた。
故に2人は年の離れた唯一無二の親友になった。
周りからして見ればさぞ奇妙な組み合わせだっただろうが、
彼らにとってはそんなことはどうでも良かった。
ただ理解してくれる誰かがそばにいれば、彼らは良かったのだ。
そして、数年経ったある日。
どちらか片方が、2人が初めて出会った日を記念日にしようと提案した。
“再出発”の記念日として、
記念日では2人で外食をすると2人は決めていた。
しかし、それは去年までしか行われなかった。
何故なら、
この少年こそ後の“断罪人”、海藤 社(当時14歳)であり、
若き警官こそ後の“転生者 伍子胥”、西山 誠良(当時26歳)だったからだ。
冬獅郎が魔術装甲を展開したことで戦局がひっくり返ったかと言えばそうでもなかった。
戦局は更に泥沼化していった。
傷つかぬ2人が争っているのだ、当たり前の結果だろう。
だが、
「!?」
冬獅郎は何かに気づき、後退した。
直後、パチンと誠良の頭が弾け飛んだ。
否、首を吹き飛ばした。
頭を失った体は呆気なくパタンと倒れてしまった。
「おや?呆気ないなぁ、アキラ。頭は砕けても首は吹き飛ばないと思ったんだけどなぁ」
クツクツと咬み殺すような笑い声と現れたのはフードを深くかぶった如何にも不健康そうな男だった。
そして、彼の右手にはまるでSF映画に出てきそうな変な形をした銃を抱えていた。
冬獅郎はあの銃を知っていた。
「ブレイザーR93 LRS1か...!」
ブレイザーはボルトアクション式の狩猟用狙撃銃だが、ストレートプル方式で動作が少なく、セミオートに近い連射性能を持つ強力な狙撃銃だ。
彼の使用しているのは競技用モデルだが恐らく実弾で戦闘ができるように改造が施してあるだろう。
だが、いくら連射性能が良かったとしても接近さえしてしまえば勝機はいくらでもある。
手始めに音速で彼の手前に移動する
「何か勘違いしてるみたいだけど、俺は君の敵になったつもりはないんだけどね、首相」
が、
目の前に水平二連の銃口が見えた。
こいつ―!?
近遠両方とも高火力の武器を装備してやがる!
「うーん、効かないと思うけど取り敢えず吹っ飛んどいてくれ」
ズドン!!
冬獅郎は漫画みたいに吹き飛ばされた。
その頃、誠良はむくり、と起き上がっていた。
勿論吹き飛ばされたはずの頭も元通りに修復されており、本当に直撃したのか疑わしいくらい綺麗だった。
まだ何処か痛むのか顔をしかませながら襲撃者の顔を見た。
「いてて...、ん?あぁ、何だお前―土蜘蛛か」
ピクッと土蜘蛛と呼ばれた男の肩が揺れる。
「アァァァァァァァァキィィィィィラァァァァァァァァァァァァァァアッッ!!!」
まるで地獄の怨嗟のような声だった。
「さっきのでくたばったかと思ったが、お前みたいな糞野郎はその程度じゃ死なないんだったなァ!!じゃあ、二度と戻れないように全身吹っ飛ばしてやるよ!!」
耳を澄ますと遠くから虫の羽音のような音が近づいてくるのがわかる。
誠良はそれに気づいていないのかやれやれ、と言って立ち上がった。
「やれるもんならやってみろ。この陰険野郎」
「そうかい......なら遠慮なく死にやがれ!!このクソポリ公がァァ!!」
彼が手元のスマホを操作すると、羽音の正体――大量の武装自立小型飛行機が誠良の周囲を囲み始めた。
「死ね!!アキラァァァ!!」
『標準補足。発射』
激しいマズルフラッシュが辺りを明るく照らす。
削岩機のような音が鳴り、まるで本当に削岩機に削られたかのように地面や壁が流れ弾で抉られていく。
弾痕を見た感じ、全て五十口径の機銃のようだ。生身の人間が直撃したら肉片すら残らないだろう。
「まだまだァ!!こんなもんじゃ終わんねーぞォ!!」
『自爆シーケンス、起動申請を確認』
起爆準備を始めたドローン達が次々と赤く点滅を始める。
そして次の瞬間、
ドッ!!!!!!!!!!!!!!
辺り一帯が消し飛んだ。
勿論、近くにいた社達は5m程吹き飛ばされる。
流石にこれだけ喰らえば誠良とてすぐには立ち直れないだろうと、誰もが思った。
「おいおい、そんなもんか?」
「「!!??」」
が、
彼は健在だった。
「土蜘蛛、お前腕が落ちたんじゃねーの?」
「ッ――!!馬鹿にしやがってェェー!!」
そして、更に戦闘は激しさを増していく――
――『お巡りさん、あんたも濡れちまうぞ』
『構うもんか。お前さえ濡れてなきゃいいんだよ。クシュっ!』
『...あんたが風邪ひいてどうすんだよ。しっかりしてくれよ...』
『ハハ。わりーわりー』――
外は生憎の雨だった。




