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終わりと起動と絶望を



とある街の廃工場。


普段は静かで人気もなく、よく裏の組織が暗躍したり会合をしたりする所。



普段なら音すらしないような場所。


しかし、その日は違った。


周囲は常に血特有の酸化した鉄の匂いがし、タンパク質が燃えている時に発するあの悪臭が工場内に充満していた。


時折、聞こえる破裂音は銃声だろうか?


それと同時に人間が争う音が聞こえる。


ああ、僕はこの音をかつて聞いたことがある。

、、、、、

戦争の音だ。

人が殺し合いをする時にする音だ。


それは力強く、荘厳で、何処か物寂しい。

人のいのちが散っていく、戦場で奏でられる音だ。



人のいのちを奪う、その時人が声をあげずとも発せられる音だ。



そして、僕は今更戦争の音を思い出した自分に腹がたった。


こんなもの、外国に行けばほぼ毎日聴けるというのに。


理想郷ユートピア』という隠されたシステムができてから、この国は平和になりすぎた。


戦争は良くないこと、それは誰もが知っている事だ。

でも、そういったものを学んでおかないと命の尊さをいつまで経っても理解することができない。



影を消したところで光があれば影は再び現れる。


戦争と平和も同じだ。




きっと我々人類は、滅びるまでこの矛盾を孕んだまま生きてゆくのだろう。


きっとそれは人間に代わる次の生命体達も同じ矛盾を孕むだろう。





歴史は繰り返す、



何処かで終わらせない限り。


















土蜘蛛は失敗を悟った。

土蜘蛛のリロードを狙ってアキラが懐に飛び込んできたのである。


顔と顔がぶつかりそうな程、二人は接近する。

この距離だと水平二連ソードオフを当てようにも近すぎて構えることができない。


アキラは土蜘蛛の腹に思いっきり掌底を叩き込んだ。

くの字になった彼の顔に膝蹴りを加え、無理やり常体を起こさせる。


「お前はよく頑張ったほうだよ」

意識が朦朧としている土蜘蛛の左肩に属鏤の刃を乗せる。


「だから、」

柄に力が加わる。

アキラは不敵な笑みを浮かべた。


「すぐに楽にしてやるよ」

土蜘蛛の身体から大量の血が噴き出してくる。

土蜘蛛の体には左肩から右腰にかけて深い切り傷があった。

袈裟斬りだ、社は呟いた。


属鏤のような短剣であれ程深い傷が負わせられるなどもはや人間業ではない。


どんなに切れ味の優れた剣であっても深く袈裟斬りをしようとしたら必ず骨でつかえてしまう。





「...なぁ、社」

社は顔を上げ、誠良の方を見る。


彼の顔や身体は返り血で塗れて、鬼の様だった。

「あの日も、こんな感じだったよな?」


あの日、社にとっても誠良にとってもそれは忘れられない日。

社は少しずつあの日の詳細を思い出そうとした。


そう、あの日も雨だった――。







冬獅郎は一気に自分の兄――誠良に無音で飛びかかった。

先程は(既に死んでいるが)土蜘蛛の妨害で少しの間気を失っていたが、土蜘蛛がやられたほぼ直後に彼は目覚めていた。


飛んだときの勢いを活かして誠良の首目掛けて回し蹴りを繰り出す。

誠良は社のほうに気が向いており、こちらに気づいてなかったのか直撃した。


ばちんっ!!


ゴムが千切れた時の音を数倍にしたかのような鋭い音が響く。


誠良は奥の廃材の塊に頭から突っ込んでいった。

冬獅郎は再び魔術礼装を装備し、誠良がいる場所を見つめた。



案の定、誠良また蘇生して起き上がってきた。

首も元通りになっている。

近くにあった土嚢が破けたのだろうか、彼の体や周囲には細かい粉末が舞っていた。

冬獅郎は満足そうな笑みを浮かべた。


「兄さん、知ってる?」

ボッ、と彼の礼装から火が噴き出す。

誠良の顔がピクッと動いた。



「死体ってさ、燃えやすいんだよ」

「!!」

直後、誠良の立っていた場所がいきなり爆発した。



「うわっ!?」

勿論、近くにいた社達はまたもや吹き飛ばされた。


「くそっ!」

社は急いで符を出し、自分達の周りを消化するため上から水を降らせた。





「...勝った気になってんじゃねーぞ?愚弟」

地の唸りのような声だった。

ゆらり、とぼろきれのようになった体を起こして呆れたような目をして冬獅郎を見つめ失笑した。


「言ったろ?俺は死のうにも死ねないって」

「ああ、でも属鏤はもう“使えない”」

何? 、社は思わず属鏤を握っていた誠良の右手を見る。


鉄だった。

それは最早原型を留めてない程溶けて、彼の右手と完全に同化していた。


突然、躊躇うことなく誠良は自らの右手の肘から先を引きちぎった。


恋詠が軽く悲鳴をあげたのがわかった。

それ程ショッキングな光景だった。



「俺にとっては体なんてパーツに過ぎない」

血が流れなくなった右手を見て誠良が呟く。


「死ねば勝手に再生するしな」

ぐちゃ、彼は自らの右手を踏み潰した。



すると、また誠良は遥か後方に吹き飛ばされた。

ついさっきまで誠良がいた場所には正拳突きの構えの冬獅郎が立っていた。


「そうかい、なら」

誠良に向かって彼は宣言した。



「再生不可能な程バラバラにしてやる」


















明日が来るかどうか不安だというのなら、



自分で考えて動いたり、発言したりできないのなら、



生きる理由が見つからないのなら、




『理想郷』に住みなさい。


そこは何も考える必要もなく、何も動く必要もなく、何も言う必要もなく、何も意識する必要もない。

全てAIが管理してくれる、首相が決めてくれる。



何もしなくても明日生きることができる世界、それが理想郷。












未だかつて誰も見たことがない、世迷言ユートピア






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