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file05 『君が待つ場所、ぼくが還る場所』





あの時のことを書けと言われても、

沢山の事が起こりすぎて果たしてどれから書けば良いのだろう。

ぼくはすっかり困り果ててしまった。


あの時のことと言えば、勿論思い出すのは彼女の事。

ぼくに夢を与え、知識を与え、愛を教え、生きる術を教えてくれた彼女。


ぼくは敢えて、彼女の名を聞かなかった。

きっとこれは彼女に対する未練を残さない為の幼いぼくにできた唯一の対処だったのだろう。


――結局、殆ど意味はなかったのだが、


さて、何から書こうか、



そうだね。まずは...











『楽園の崩壊』





ぼくは一瞬、何が起きたのかわからなかった。


気がつくと身体が宙を舞っていたのだ。

勿論、受け身などとれるはずもなく地面に叩きつけられる。


「かはっ...!」

肺から息が搾り出される。


身体中が酸素を求めていた。

周りは紅く燃え上がっており、あちらこちらから施設の人間の阿鼻叫喚が聞こえてくる。


―クソッ...!


いくら最_だとしても、酸欠に陥ったらまともに体を動かすことなんて出来るわけがない。


酸欠の影響で頭はぼんやりとしているがこれだけはわかった。


、、、、、、

始まったのだ。


能力者達による叛逆が。




「...止めないと...。」


彼は――否、皆わかっていた。


この争いに意味は無いと。



例え施設から解放されても、待ち受けているのは理不尽な現実だ。

社会からしてみれば能力者などただの異物に過ぎないのだ。



それでも、彼らは闘う事を選んだ。


我々は人間だ、と叫ばずにはいられなかったのだろう。



少年は“逆”だった。


少年はまだ若かったからだろうか、意味が無いとわかった時点で今回の叛逆に参加するつもりは無かった。


自分達を見世物としか思っていない社会に出るよりもここでずっと管理されていた方が安全だと少年は判断したのだ。




故に、少年は孤独になった。




彼女もこの叛逆に参加しているらしい。

止めなければ、と彼は思った。


彼女は行動力ある少女だ。

放っておくと取り返しのつかないことをしかねない。


だから、―



彼は走った。


血飛沫が飛び散っている渡り廊下を、



紅蓮の炎に包まれた病室を、



弾丸飛び交うロビーを、





彼は走った。


ただ走った。


真っ直ぐ、彼女の元へ。




すると、開けた部屋に出た。


天井まで10mはあるだろう。





そして、




彼女ナナシが居た。






「何で来たの?」

彼女は哀しそうな目でこちらを見つめていた。

その声は震えていた。


彼女の目は語る。


―何で来たの?


―二度と会わないって言ったじゃない。


―闘いたくないんじゃないの?


―逃げたいんじゃないの?


と、



彼は、大きく息を吸った。

このままだと声が震えてしまう気がしたからだ。


「君が...全て仕組んだのか?」

「...えぇ」


彼女は少し間をおいて答えた。

わかってたでしょ?とでも言いたげだった。


だから―


「これが君の言う、理想郷ユートピアなのか?」

「残念、これは理想郷ユートピアを作る為の闘いよ」



理想郷ユートピアを作る為の闘い、彼女はそう言った。


確かに、理想郷とは自由を勝ち取った人々が作るものだ。


だが、



「それは違う!一方的な暴力で作られた理想郷なんて理想郷とは言えない!」


彼女は目を細めて呆れたように言った。



「そんなのじゃないよ」



そして、


彼女は微笑んだ。





「終わらせるんだ。暴力によって全てを。そしたら、誰も居なくなるでしょ?そうなったら理想郷ヌルは出来たも同然。善も悪も、罪も罰も、悦びや痛みも...人々を惑わせるものが何一つない完璧な世界ができあがる」





「それが、私にとっての理想郷ファントム







馬鹿げていた。


そんなことがあってはならない。


そんなことを彼女にさせてしまってはいけない。


怒りで拳が軋むのがわかった。



溢れる怒気を抑えながら尋ねた。


「本当に終わらせるつもりか...?」


「勿論」

「だったら!!」



一歩前に出る。


「君が世界に絶望し、ぼくと共に理想郷を作るという約束を破ってまで、未来を閉ざし、1人で抱え込もうとするのなら!!」


更に一歩前に出る。



「自分を騙してまで自らの理想ユメを叶えようとするのなら...!」





「ぼくが未来をこじ開けよう...!

ぼくは―君の敵となろう。君が教えてくれたこの世界を終わらせないために...!」



「...そう。残念」


彼女が消えた。


代わりに下から駆動音が聞こえる。



「!?」


「君が敵となるのなら私も本気を出さないとね」



現れしは、巨大な直立二足歩行のロボット。


『名をUAS-type ll。対能力者用の駆逐用駆動装甲よ。』






無駄だとわかりつつも彼は装甲に拳を叩きつけた。


少し凹んだ程度で殆どダメージが与えられていない。


嫌な予感がして横っ飛びに飛んだ。


直後、彼の居た場所に五十口径の弾が突き刺さる。


(一撃でも当たれば即死する!どうすれば...!)


そもそも接近自体が難しい。


ミサイルは雨霰のように降ってくるし、

機銃の掃射は避けることが非常に難しい。


それでも尚、軽傷でいられるのは彼の持ち前の直感のお陰だろう。


勘が良くなければ今頃粉々にされていただろう。



さてどうしたものか、悩んでいると自分の端末デバイスが何やら表示しているのが目に付いた。




〖ATTENTION〗


You develope the new ability!


MAGIC


Please recite the magic.





―魔法?


柱に隠れて表示を見ていると右手に光の線がはしっていた。



右手に英語で文字が書かれている。


『DAWN OF ORIGIN』


恐らく、自分が使える魔法名だろうが、如何せん発動の仕方が分からない。


彼女は容赦なく追撃を続けている。


―名無し...。



彼女のことを考えていると、何故か頭の中にこの魔法のイメージが出来上がった。


そして自然と口が動いた。



『我、臥シ時。汝、我ニ夢ヲ語ラン。』


『我、辛キ時。汝、我ニ寄リ添イシ。』


『我、哀シム時。汝、共に哀シム。』


『我、君ヲ想フ時。我、君ト共ニ夜明ケヲ向カフル事ヲ望ム。』


『我、ソノ夜明ケヲコウ名付ケル。』


『原初ノ夜明ケ(DAWN OF ORIGIN)』











「これで、

、、、、

終わりだ。」



「そうね。

、、、、

終わりね。」




「ねえ...、少し..いいかしら?」


「...何だ?」




「私のユートピアを...お願いできる...?」


「......」






「......」


「...あぁ、任せろ。」







「必ず叶えて、また......会いに来るよ。だからさ...それまで、待っててくれないか?」



「!! ......そう、...わかった。」






「だから、先に行って待っててくれ」


「ええ、先に逝って貴方を待ってる。貴方が理想郷を作って還って来てくれるまで...ずっと。」







彼女はもう動かない。





「ああ、誓うよ。君のユートピアを必ず叶えてここに帰ってくる!」






それでも、誓わずにはいられなかった。








必ず還ってくるさ





...必ず



















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