18:時の交わり
涙が止まらなかった。それでも。言うしかなかった。今のこれが『本当のわたし』なんだから。
「父さん、母さん」
はっとしたように、全員がカイト兄さんを見た。
「リムノの言う通りだと思う。リムノなりの成長を喜ぼうよ。ここまで立派なことを言えるようになったことを。父さんと、対等に話せるようになったことを」
「カイト」
母さんが消えそうに細い声で言った。
「そこまで無情なことを、父は言っておるのかえ? 元の家族にもどるだけだと言うに」
「母さん。それがリムノの手かせ足かせになってるんだよ。――ミクはどう思う?」
ミクは少しだけ首を横に振ると、
「姉さんには、姉さんの人生があると思うの。それを邪魔することは、何人たりとも出来ることじゃないわ。父さん、母さん。これ以上、姉さんに哀しい思いをさせるのは、もう止めましょう。『父さん、母さんの時間』があったように、姉さんには『姉さんの時間』があったんだから。こうして再会出来たこと。それを純粋に喜びましょう」
父さんは大きく息を吐いた。
「そうか。リムノなりに成長したのだな。カイトやミクの言うことも分かった。リムノ」
父さんは、真っすぐわたしを見ていた。わたしも涙を拭い、父さんを見つめる。
「リムノ。今はまだ、素直にその成長を喜ぶことは出来ないが、お前なりの道を歩きたいと言うことは、痛いほどに分かった。愚父の一つだけの願いだ。たまにでいい。旅先から便りをよこしてくれ。何回も言うが、お前は我が子。安否を知りたい。――カイトも当選すれば、活動に忙しくなろう。その時点で家督全てを、カイトに譲ろうと考えている。ミクも大きくなった。以前ならば、政略結婚などを考えただろうが、今は違う。我が子の育つ姿。それを見るのが唯一の楽しみであり、誇りだ。――いつでも立ち寄るがいい。お前のことだ。金の無心などせんだろうが、親としては、してやれることは何でもしてやりたい。わずかだが路銀を用意する。それだけは受け取ってくれ。――頼む」
あの父さんが、深々と頓首した。わたし……。認めてもらえたのね。
「父さん。――ありがとう。喜んで受け取らせてもらうわ。ちゃんと手紙も書く。ハルサの近くに来たら、必ず顔を見せる。これだけは確実に約束するわ。兄さん、ミク。父さんと母さんのこと、宜しく頼むわね。ワガママな娘のワガママな最後のお願い」
カイト兄さんは莞爾と笑った。
「全く。最後までリムノらしいな。任せろ。――さ、父さん。もう一つ言わないと、いけないんじゃないかな?」
「そうだな」
ハンカチで目元を拭いた父さんは、
「ルカス殿。キッポ殿。至らぬ点、多いと思いますが。リムノとの旅、宜しくお願い致します」
「こちらこそ」
「安心してください」
シンプルに、ルカスとキッポが返事を。でもそれを聞いた父さんは、やっと笑顔を見せた。――この笑顔だけは。変わっていなかったのね、父さん。母さんも伏し目がちだったのが、今は暖かな光をたたえて、わたしを見てくれている。
――わたし。娘であることを誇りに思うわ。これは一つの区切り。決して途切れることの無い『時』が、交わり合った証拠。いつの日か……。いつの日かまた、必ず交わる『時の流れ』。本当にありがとう、みんな。




