最終章:わたしの帰郷
そしてまた……。
いつものように、わたしたちは実家に行く前に寄った居酒屋にいた。今度は『リムノ帰郷おめでとうパーティ』なんだって。何だかわたしたち、ことあるごとに飲んでるわね。キッポの時も『おめでとうパーティ』だったし。考え直してみたら、父さんのことばなんて、キッポのお父さんのことばと、ほとんど一緒じゃない。笑っていいのか泣くべきなのか。――笑っていいのよね。ルカスもキッポもにこやかに笑ってる。
「飲むぜー。何せ、この前レシートにくっついてた、『リピーターありがとう!半額クーポン』があるからな」
「じゃあ、普段の倍食べられるんだ。リムノ、食べる? ボク、食べたい」
「はいはい、食べますとも。――今回はいろんな意味で、資金は潤沢だしね」
ゾンビーも倒したし(わたしは全くの役立たずだったけど)、路銀ももらった。安心して食べたり飲んだり出来るわ。
「オレは生だが。リムノとキッポはどうする?」
「わたしもそれでいい」
「ボクも」
「よし。おーい!」
「リムノ。食べようよ。ボク、『トリプルアイス』が食べたい」
「えー? それって普通、最後の〆に頼まない? まあいいけど」
「抹茶だよ? お茶だよ? お茶美味しいもん」
――どうにも。キッポの思考回路には、時々、ううん。かなり付いて行けないことがある。お茶が欲しいなら、生じゃなくてお茶を頼めばいいのに。タダなんだから。
「承りまーす!」
「よし。生3つと、何だ? 『トリプルアイス』。あとは焼き鳥を適当に見繕ってくれ。塩で頼む」
「はい! ご新規オーダー入りましたー!」
『喜んでー!』
はあ。わたしもおなかがすいたわ。何かお食事もの頼もうっと。あ。そうだ。
「わたしもいい? この『焼うどんかつをぶしメガ盛り』、一度どんなものか見てみたかったの。食べてみたくてもそんなに食べられないから、『メガ』が怖くて注文出来なかったのよね。でも今は……」
視線をキッポに向ける。
「安心していいよ。ボクが残さずに、全部食べてあげる」
「言ってくれると思った。ルカス。注文お願いね」
「オレも興味あるな。どのくらいの量なのか。おーい!」
『ただいまー!』
あ。店員さん来てくれた。
「こちら、生3つ、『トリプルアイス』です! オーダー承ります!」
「これ。『メガ盛り』っての頼む。そんなにすごいのか?」
店員さんはえっへんとして、
「今までで完食なさったお客様はございません。当店自慢のメニューであります!」
「キッポ?」
にやつきながら、ルカスが声をかけた。
「安心していいよ。ボクが食べてあげる」
「もし全部食べたら、何か特典があるのか?」
「当然です。お食事代金、全てキャッシュバックさせて頂きます! ただし。出来なかった場合は倍のお食事代金を申し受けます! お一人様のみの挑戦で、制限時間は30分であります!」
「『全てキャッシュバック』とは、大きく出たな。キッポ。実力を見せてやれ。今夜はタダメシ、タダ酒だ」
「ホントにボク食べていいの? みんな食べないの? 食べちゃうよ? 分けてあげないよ? あ、ボクだけの挑戦だから、分けてあげられないのか」
自信たっぷりに答えてるキッポに、店員さんはちょっとひるんだ。
「念のため確認させて頂きますが。同業の方々ではありませんよね?」
「見りゃ分かるだろ。流れの冒険者3名だ」
「承りました。『うどんメガ』、オーダー入りましたー!」
『おおおお~!』
わ! お客さんみんなこっち見てる!
『喜んでー!』
気のせいか、店員さんたちの返事に、殺気がこもってる。ここから遠い厨房の方でも、ざわめき立ったのが分かった。何だか、とんでもないことをしちゃった気がする。酔っ払ってる他の客席から、
「頑張れよー」
とか、
「食うところを見学に行くぜー」
なんて声が飛んで来た。
「キッポ。今さらだけど、本当に大丈夫?」
「うん。うどん好きだもん。焼きそばの方がもっと好きだけど」
論点ズレまくってる。
「オレも少しは食べてみたいが、今回ばかりは、キッポの食いっぷりを見させてもらうとしよう」
ルカスも気楽なことを言ってる。わたしなんてもう、どきどきしちゃってビールの味が分からなくなってるって言うのに。
再びざわめきが起こった。見やると、信じられないくらいの大皿に盛られている焼うどんが、店員さん3人がかりで運ばれて来た。かつをぶしが湯気に踊ってる。
「こちら、『うどんメガ』になります!」
わたしは、こんなメニューを考え出した人の神経を、疑いたくなった。ぶっちゃけ言わせてもらえば、『バカ』なんじゃないの?
「これ、何人前の換算なんですか?」
思わず訊いてしまった。
「こちら15人前になります!」
「たったの15人分なの?」
キッポ。――あなたには、常識、と言うものが無いんですか? 心中で問う。でも、そうよね。それでこそキッポだわ。おっと。酔客たちが集まって来た。
「しっかり食えよー!」
「カラになった皿を見てみたいぜ」
「キツネの坊や。頑張れ!」
そんな声を受けつつ、キッポが律儀にも、居酒屋中の注目を浴びながら『いただきます』をした。店員さんが、同時に運んで来た、時間を計る砂時計を引っくり返す。
――これはもう。『食べる』ってレベルじゃ無い。ひたすら胃に流し込んでる、って表現が正しいかも。無心に食べ続けるキッポ。わたしとルカスも少し食べてみたいけど、その食べ方を見ているだけで、食欲が無くなって来るわ。
キッポは呆れ果てるようなスピードで、どんどん食べていった。お皿の空白部分が徐々に広くなって行く。途中でビールも飲む余裕を見せながら、ほとんどを食べ尽くした。スピードは衰えない。店員さんたちが蒼白になって行く。キッポは最後に、ずずずっとすすると、キチンと手を合わせて、
「ごちそうさまでした」
と言った。砂時計にはまだまだ余裕が。店内がどよめきに満ちる。
「すげーぜ!」
「やったな!」
言われながら、キッポは平然としている。わたしはもう、食欲を失った。キッポが酔客たちにもみくちゃにされてる。
「――どう、だったの?」
「これ? 焼きたてだから美味しかった」
「――はあ」
そう言うのがやっとだった。あれ? 誰か近付いて来た。
「店長です。お客様、降参致します。お好きなだけどんなメニューも、どうかお召し上がりください。それと、この色紙にサインを」
『おおおお~!』
大きな拍手が起こった。キッポは何事でも無かったように、平然としてフォクスリング文字でサインをした。そこで、ふと気が付いた表情になり、
「あ、ダメだ」
「どうしたの?」
「アイス溶けちゃった」
キッポらしい。ルカスも苦笑してる。
「今一度、ご注文くださいませ。本当に感服致しました」
そんなことを、店長さんが言ってくれる。
「じゃあ、アイス。もう一度ください。リムノ、食べる? ボク、食べたい」
「いりません」
こんな仲間と旅をすること。もう今ではわたしの自然体になってる。一緒に帰郷出来たこと。両親とのわだかまりも解けたこと。本当にありがとう。ルカスとキッポがいなければ、わたしは死ぬまで両親を許せなかったことだろう。
でも今は、キッポが故郷に帰ったように、『わたしの故郷』に帰った。独りでは決して出来なかっただろうな。家族以上の家族。暖かな仲間。
これからも。
これからも、いつまでも一緒に旅をしましょう? 世界は広い。もっともっと遠くまで旅すること。わたしたちなら出来る。絶対に出来る。だから。
――改めて宜しくね。ルカス、キッポ。
了
こんな感じでお届けしました、
『キッポと一緒!2 ~リムノの帰郷~』
ですが、いかがでしたでしょうか?
今回も、戸惑うことの連続でした。
ではあれ無事に完結出来て、胸を撫で下ろしています。
こんな拙作にご感想を頂けたこと。
とても大きな力となりました。
この場を借りまして、御礼申し上げます。
今後ともこの作品に、ご評価・ご感想頂けましたら、と思います。
それでは。
これからも、ろくべえ共々、拙作を宜しくお願い致します。
お付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。




