10:帰郷して
馬車から降りた。揺れがキツかったせいか、ちょっとくらくらする。でも、陰っていた雲が晴れて、オヒサマが顔を覗かせた。少し肌寒いけど、もう秋も終わりに近いんだもんね。当然かなあ。
「大きな街だねえ。人間がたくさんだ」
キッポが感心してる。そうね。改めて帰ってみると、わたしでさえ大きいって思う。自分が生まれ育った街なのにね。
「何か、やたらとポスターが貼られてるな」
商店の壁や建物の塀に、ルカスの言う通りポスターが貼られている。そっか。
「ちょうど議会の選挙が近いのね。それで貼られているんだと思うわ」
わたしの故郷、ハルサでは、議会制の政治が行われていて、任期は3年。秋の終わりには選挙戦で、大騒ぎになる。街の中央部へ進んで行ったら、立候補者が大声で演説していた。聞きたくも無いけど。
「ルカス、リムノ。ボク、おなか減った」
「そうだな。遅い昼メシだけど、食ってからにするか。いいか? リムノ?」
「ん? うん」
歯切れの悪いわたし。だって……。
「どうした?」
わたしは1枚のポスターをゆっくり指差した。
「――あれ。わたしの兄さんなの」
信じられない。いくらなんでも、立候補させられていたとは。わたしは、両親に限り無い嫌悪感を抱いた。恥をかかせるのもいい加減にして欲しい。立候補するなら、父がすればいいのに。それを、こともあろうに兄さんを使うなんて……。
「『差別を撤廃し、新たな風を吹かせます』、か。キャッチはいいな。カッコいい顔立ちに似合ってる」
「わたし……。かわいそうよ、兄さんが」
「リムノ。それでも会いたいんでしょ? お兄さんと妹さんに」
「――うん、うん」
キッポの言う通り。どんなであれ、帰郷したんだもの。会いたい気持ちは計り知れないほどにある。
「とりあえず。食ってからにしようぜ? その方がワンクッションあって、気持ちの整理も出来るだろ」
「ありがとう。そうね……。そうしましょっか。キッポも、おなかすいてるみたいだしね。行きつけだったお店があるの。そこでもいい?」
わたしは、ちょっとだけ細い声で訊いた。
「任せた」
簡潔なルカスの返事。ありがとう。気遣ってくれてるのね。
わたしたちは人混みの中、さらに街の中央部へ向かった。でも……。目指した店はシャッターが下りていた。
「閉店しちゃったんだ……」
その事実が、長い間故郷を離れていたわたしを打ちのめした。
「ここのパスタ、美味しかったんだけど」
「そうなんだ。食べてみたかったなあ」
こんな時、気軽なキッポのことばが身に沁みる。ルカスも、
「じゃあ、オススメの店が他にもあれば教えてくれ。どこでも構わないぜ?」
落ち込みかけてるわたしの気持ちを察したように、明るく言ってくれた。ホントに仲間の存在がありがたい。
「じゃあね? ちょっと早いけど居酒屋でもいい? 兄さんによく、連れて行ってもらったお店なんだけど」
「酒があるなら、オレは大賛成だ」
「おなか減ってるから、どこでも大丈夫だよ」
「ありがとう。そこにしましょうか。安くて美味しいの」
ショックは大きいけど、ルカスとキッポがいてくれる。わたし。それだけでも幸せだって思わなきゃね。




