第四章 『誰が為に』 1-2
回想編後編。
どうぞ!
初めてだった。
今まで母さんは自分に手を挙げたことなど一度もなかった。
その頬には大粒の涙がいくつも伝っていた。
――――母さんは、母さんは悲しいよ。
「何で泣いてるの?母さん」
――――母さんは、あなたが死んじゃったらとても悲しい。
「ねぇ、お願い。泣かないで、母さん」
――――だから、ね?そんなこと言わないで、お願いだから。
そう言って母さんは強く、とても強く自分を抱きしめた。
その時、なぜか自分の頬に涙がこぼれているのに気づいた。
ああ、そうか、そうか。やっとわかった。
死のうと思ったのは自分の為なんかじゃないんだ。
自分が楽になりたいからじゃないんだ。
ただ、母さんがこれ以上誰かに傷つけられるのが嫌だったんだ。
ただ、母さんがこれ以上苦しめられることが嫌だったんだ。
ただ、母さんが大好きで、助けてあげたかっただけなんだ。
もうどうしようもなく助けてあげたい気持ちで一杯だったんだ。
自分の事よりも、母さんの事が、自分にとっては大切だったんだ。
あれだけ自分は周りの人から酷い目にあっているというのに、ただ助けたいという想いが、自分の心を埋め尽くしていたんだ。
だから助ける。
助けようとする。
――――いい?母さんの話をよく聞いて。
母さんは真剣な顔になると、静かに口を開いた。
――――たとえ周りの皆があなたをどう言おうが、あなたはあなた。他の何者でもない、母さんの自慢の息子よ。
「母さん、何でいきなりそんなことを言うの?」
――――だから、あなたには人を憎しみ続けるような生き方をして欲しくないの。
「わかったよ母さん。約束する」
――――……良い子ね。母さん鼻が高いわ。
母さんはあの優しい笑顔を自分に向けた。
とても久しぶりだったような気がする。
――――あのね、母さんからね、もう一つお願いがあるの。
「何?母さんのお願いだったら何でも聞くよ」
――――どんなに周りから蔑まれても、罵られても、
人を助けられる強い子になってね。
とても苦しいかもしれないけど、これが 母さんからの最後のお願い。
「わかったよ、母さん。
頑張る。
母さんのお願い、絶対守るから。
だから最後なんて言わないで」
――――……ありがとう……。
その時、母さんの後ろから数人の男達が母さんの腕を掴んでどこかへと引っ張っていった。
――――お願いね、私の大好きな、大切な、とってもとっても優しい子。
「母さん、どこ行くの?」
――――母さんはね、しばらく遠くへ行かなくちゃいけないの。
「行かないで、母さん」
――――大丈夫、きっと戻ってくるから。
だから……それまで母さんの親戚の人のところで待っててね。
「きっとだよ、ずっと待ってるから!
母さんの約束、絶対守るから!」
それを聞いた母さんは安心したように顔をほころばせると、
男達に素直についていった。
――――絶対戻ってくるから、待っててね、
私の、大切な、大事な息子…………雄介。
それからは、
自分の親はしばらくの間母さんの親戚の人に取って代わることになった。
自分のことを何も知らない地に移って。
親戚の人は母さんと同じように自分のことを理解してくれていた。
いつも自分の体のことを気遣ってくれた。学校にも通わせてくれた。
それに答えるように、
自分も母さんの約束を守ろうと家事手伝いを欠かすことなく続けた。
まだ小さな自分にはそれぐらいのことしか出来なかったけれど、
とても喜んでくれた。
なぜか、それがとても嬉しかった。
そして自分の中に一つの決意が生まれた。
「母さん、僕は決めたよ。
もう僕は泣かない、死のうなんて考えたりもしない。
人の為に僕は生きていこうと思う。
誰かが苦しんでいるのを見たら、僕は迷わずその人のことを助けるよ。
母さんの言う通りそれはとても苦しいのかもしれないけど、
母さんがいつか戻ってくるのを、僕は信じてる」
心の中で、そう決心した。
――――この時、雄介はまだわずか8才だった。
第四章1-2段落、いかがでしたでしょうか?
今回は回想編後半を描きました。
が!
後1、2日で執筆が追いついてしまう(涙)
ただいまがんばって書いております。
さて、前回に引き続き今回も回想編でしたが、
このようにして雄介の過去を徐々に明らかにして行こうという魂胆でございます。
その事に関してなどでももし感想を頂けたらうれしいです。
次回、
ついに雄介と捕食者(美夏)との対面が果たされた今、
二人はどう行動していくのか!?
レヴァリエもついにクライマックス(やったよ作者!)!
今後もこの小説を読んで楽しんでいただけると嬉しいです!
(●´∀`●)
では、お楽しみに!




