表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/13

第十二話 スーパーヒロイン、エゴサする

 夜九時近くになって、みなは自宅に戻った。


 まだピチピチの女の子、華のセブンティーンなのに……泥のように疲れていた。脳を働かせ過ぎたのかもしれない。だから、思考のスイッチをオフにして、簡単に空腹を(やわ)らげられそうな春雨スープとサラダチキン、おまけでチョコレートを選んだ。

 ストイックに栄養だけ補給するように食べ終えると、シャワーを浴びた。お湯に触れ体が温まると、急に眠くなり、髪を乾かしただけで下着姿でベッドに潜り込んだ。


 深夜二時ごろ、ふと目が覚めた。

 そして、昨晩の出来事を思い返してみた。


 変身方法や変身後に得られる超能力について実験し、基本的なスペック——人体に対してどのような能力拡張をもたらすのか、おぼろげながら見えてきた。原理は全くの謎であっても。そして、全くの偶然からだが、火事の現場で一つの生命(いのち)を救うことができた。


 みなは、それがとても嬉しくて、自分を褒めてあげたくなった。


 (あの女の子、ちっちゃくて可愛かったな。抱っこしたらしがみついてきた。私が助けたんだ)

 みなは、思わず顔が(ほころ)んだ。


 (そして、お母さんに渡して、私は写真を撮られて——きっと撮られてたな……うん……うわ、やばい。よくよく考えたら非常にまずいっっっ)


 火事現場にいた住民、消防士、母親、そして、あの記者らしき美人とカメラマン。全員がみなを見ていた。飛行中も、下に降りた時も、写真や動画に撮られているだろう。


(……あの時は、救助に夢中で自分のことを(かえり)みる余裕が無かった。後はどうなってもいいから、女の子をお母さんに届けなきゃと思って……それに、あの美人さんは話しかけてくれたのに、慌てて無視するように逃げてしまった。相当、心象悪いよね、これ)


 救いなのは、夜だったことと、ギャラリーと距離があったことだ。おそらく顔が判別できるほどの撮影は不可能だったのではないだろうか。


 ここで、みなは閃いた。


 「おお! SNSだ!」


 そうだ。エゴサをすればいい。


 スマートフォンで検索をかけた。「火事」「藤沢」、まずはこのキーワードで試してみた。

 結果が出た。関係ない投稿や古いものも多いけれど、それらしいものがいくつかある。みなは画像を開いた。


「え」


 想像していたものと、全然違った。


 写っていたのは丸い光だった。空中に浮かぶ球体。輪郭はボケて、立体感はほとんどなく、炎や消防車の投光器の明かりが反射してかろうじて丸い形とわかるけれど、それ自体が発光しているようにも見える。


 知っている限りのSNSを片っ端から調べた。どれも同じだった。センサーのバグとも受け取れる様な、白飛びした光の塊。眩しい照明を写したようにも見える。中には、縦長で、人間と言われればそうも見える程度のものもあったが。


 動画も確認したが、遠距離からで手ブレも酷く、大きな風船が浮かんでいるようにしか見えない。

 そして、コメントはすべて「確かに人が飛んでいた」派と「映ってませんが」派の間で意見が交わされていた。


 湘南新聞社と全国紙のサイトも見たが、これも同じだった。


 みなはスマートフォンを胸に抱き、「はあぁぁぁ〜っ……」と息を吐いた。


(よかった。理由はわからないけれど、撮影されるとこうなるんだ)

 まだ本人がきちんと理解していないのに、顔がばれてバズるわけにはいかない。


 安心して、みなは二度寝した。




 朝になった。眩しい光がカーテンの隙間から差し込む。いやいやながら目を開け、枕元のスマートフォンを見やった。六時五十分。


 「ご飯だぞー」

 階下から父、高原(けん)の声がした。しまった。朝ごはんの用意をしなければいけなかったのに。


 リビングに降りると、珍しい。最近多忙で不在がちだった父が新聞を見ながら朝食を食べていた。お母さんに渡された漬物も、小さな豆皿に盛られていた。

 

「ずいぶんと疲れてるみたいだな……」


「え、いや、そうでもないけど」


 ご飯をよそっていると、父が顔を上げずに、「不思議なこともあるもんだ。これを見ろ」


 新聞の一部を指でトントンと叩いて言った。

 みなは近づいて、指の示す先に目を落とした。


 大きくはないが、昨夜の火事の記事が載っていた。画像は空中に浮かぶ丸い光——SNSで見たのと同じものだ。キャプションには「現場近くで撮影された正体不明の飛翔体」とある。


「へ、へえ〜……何これ」


 平静を装って、みなは目玉焼きとウインナーを焼き始めた。


「良くわからん。火事現場の近くを風船でも飛んだんだろう。似たのを見たことがある」


「それってどんなの!?」声に思わず力が入った。


「……えーっと。ラジオゾンデって言って、気象観測に使われる風船だ」


 それは知っていた。確か直径1メートルくらいで、風船の下の方に計測機器がぶら下がっている。人間の半分くらいの大きさだが、空中で対比物がなければ、存外人間と同じサイズに見えるかもしれない。


「そうか、そうかもしんないね」

 世間の人も同じように思っているかも。みなは、そうであることを祈った。

7.19 物語の時系列を改め、一部のエピソード自体を再考しています。すでに読まれていた方にはご迷惑をおかけします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ