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第十三話 飛鳥と放課後デート?

 火事現場から女の子を助けた、その四日後。


 高校二年生となって初の災厄、五月の中間テストが遂に終わりを迎えた。

 

 テストで全力を出せたか不安だったが、やるべき事はやった。後悔はしていない。たとえ駄目だったとしても、次は奴を──期末テストという災厄を倒すだけだ。


「みなぁ、テストも終わったしさ、贅沢に、開放感に浸ってぇ、お茶でもしない? 聞いてもらいたい話もあるしさあ」と小悪魔フェイスで誘ったのは親友の五藤(ごとう)飛鳥(あすか)だ。

 

 それは、みなにとって渡りに船の提案だった。試験中の三日間、何度隣の席の飛鳥に「実は……」と言いかけたか。「私、変身しちゃったの!」と言いたくて言いたくてウズウズしていたか。


 二人は中学一年で出会ってすぐに意気投合し、学校はもちろん塾でも一緒だった。みなはバスケとバレエを、飛鳥はテニスとダンスを習っていたので、部活と習い事の時間だけは別々だった。どちらからともなく「高校も同じところを狙おう」と計画を立て、無事に県立海南高校へ合格することができた。普通科は四クラス制だったが、一年次、二年次も同じクラス。先生が忖度したのか、二年次の今は席も隣同士だった。

 みなは、飛鳥とは永い時間をかけて交誼を結んできた。揺るぎない友情と信頼感がある。この思いを分かち合えるのは飛鳥しか考えられなかった。


(よし。就寝前にシミュレーションした通り、打ち明けよう)


 目的は違うものの、二人は仲睦まじく藤沢駅近くのカフェに向かっていた。

 普段は気にも留めない裏通りに、その店はあった。看板には小さな筆記体で【Cafe Bookmark】とある。控えめな佇まい。でも、隠れ家的な趣を狙っているなら大成功だ。

 

「お、かわいいお店」


「でしょ、インスタのタイムラインに流れて来たんだ〜。これは、是非ともみなと来てみたいって思って」


「ねえねえ、雑貨もあるよ!」


 店内に入ると、カウンターに数人。店員の女性がサイフォンでコーヒーを淹れていた。軽食もあるようで、ナポリタンの美味しそうな香りが漂ってきた。

 

 幸い、窓際のボックス席が空いていた。周囲に客も居らず、カウンターから距離もある。みなは手書きPOPを見ながら【特製濃厚カフェラテ】を、飛鳥は【今日の紅茶〜アールグレイティー】を注文した。

 カバンを荷物入れ用の籠に納めながら、みなは、来週の三者面談の話を振ってみた。


「うちは、お母さんを呼んだ。お父さんは難しいんだって。最近『連続失踪事件』の捜査でたまにしか家に帰ってこないんだよね。私にも、寄り道しないで帰れって言ってきてさあ」


「前にドラマで見たけど、刑事ってほんと帰れないみたいだね。……いいな、悩めるだけいいよ。あたしんところは母親しか選べないからなあ」


 飛鳥と知り合ったのは中学一年の時だった。その前年にご両親は離婚したということだった。まだ子供だったこともあるが、飛鳥はそのことを隠さなかった。むしろ事あるごとに、半ば自虐的に、明け透けに語ってくれた。


「あたし、お父さんとかれこれ五年くらい会ってないもんな」


「え、そんなに会ってないの?」


 飛鳥は腕組みしながら、斜め上の虚空を見つめ、嘆息して言った。

「けっこう前にドイツからビデオ通話があったけど。それ以来ない……かな」


「ドイツ?」


「研究者としては優秀らしいから、国の仕事でヨーロッパのあちこちで研究してるんだって」


「へえ、それも凄いじゃない?」


 聞いた話では、決して不仲で別れたわけではないという。飛鳥のお父さんはあまりにも研究に没頭するあまり、家に帰ることが減っていった。

 

 そんな中、海外に長期出張という話が出てきた。飛鳥は学校があったし、飛鳥のお母さんも会社勤めだったから、別々に暮らすことになった。それが決定打になったそうだ。


「ところでさ、これ見てよ」


 飛鳥が父親のいないことに負い目を感じていないのは知っているけれど、みなはさりげなく、話題を変えた。

 

 「これがティアハート。可愛くない?」


 スマートフォンの画面には、【カードマスター・ソリティア】深夜アニメの公式サイトが表示されていた。

 そして、この話の流れで、みなは告白するつもりである。()()()()()()()ことを。

 

「ははあ、好きそうだね」


「可愛いんだよー、予告の作画が良くって、空を飛ぶときにクルクル回ってからドンッ! って加速するのがかっこいい。あんな風に飛べたら気持ちいいだろうなあ」


 飛鳥もうん、うん、と頷いている。

「私も子どもの頃は見てたなあ。ニチアサの。途中から味方になるキャラとか好きだったよ〜」


(さあ、ここだ。ここで言ってしまおう)


 飛鳥は続けた。よほどテストで抑圧されていたのか、まるで堰を切ったように。

「そだ、この話の流れで言うけど、実は話したくてたまんなかった話があって。長くなるけどいい? 実はね、さっき学校で言った聞いてもらいたい話っていうのが、この話なんだけど」


 飛鳥は身を乗り出し、両の手をぎゅ、と握りしめた。

 

 「ちょっと信じがたい内容なんでテストの後にしようと思ってたんだ。えーと、まずね、この間の日曜に藤沢で火事があったのね」


(——あの火事のことだ)「え、うん」


「私がバイトしてるペットショップの店長、これは親戚のおじさんだって前に言ったよね? そのおじさんの部屋が、その火事で燃えたのね」

 

(あ!——)

7.19 物語の時系列を改め、一部のエピソード自体を再考しています。すでに読まれていた方にはご迷惑をおかけします。

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