●スパッツの世界平和
「いくつか質問してもいいですか?」
コーヒーブレイクも終わると、リサが話しかけてきた。
「もちろんさ! ドンと来い!」
「どうしてスパッツにそこまでこだわるんですか?」
「愚問だよ。スパッツを愛しているからさ」
「愛している?」
「そう! 遺伝子レベルで俺はスパッツを求めている!」
「スパッツを否定するつもりはありませんが、他の衣類じゃダメなんですか?」
「衣類や下着……身に着けるモノって性別や年齢で変わるのが一般的だよな?」
「そうですね」
「だけど、スパッツは違うんだよ!」
「何が違うんですか?」
「どんな年齢、性別、体型、場面で履いても違和感がない。そんな衣類、他にあるか? いや、断じてない! スパッツこそが、すべてを網羅する究極の衣類なのだ! スパッツは誰も差別しないで、皆平等に包み込んでくれる!」
「それはさすがに言い過ぎでは?」
「言いすぎなもんか! スパッツを履けば、国籍も人種も性別も年齢もすべて関係ない。みんながファミリー! スパッツが世界を平和にし、人々をハッピーにする象徴になるんだ!」
「なるほと、わかりました。わたしがスパッツを履けば、先輩はわたしが想像すらできないような世界を見せてくれると言いました。あれは本当ですか?」
「ああ、本当だよ。スパッツを履く気になってくれた?」
「そんなこと本気でできると思っているんですか?」
リサが冷たい目で見てくる。
「もちろん! なんなら、特等席で世界が変わる瞬間を見せてやるよ!」
「先輩の夢……今朝のスパッツテロは確かに驚きました。でも、所詮はその程度。世界を変えるなんてとても……」
俺は彼女の言葉を止める。
「翌梨のスパッツ姿は、愛でる対象ではなく、崇める対象だ。みんなを率いて、スパッツの魅力を伝えるんだ。スパッツ界のジャンヌダルク! スパッツファッションリーダー、スパッツ伝道師、スパッツ大使、スパッツ教祖! うん、格好いいじゃないか!」
「わたしに先輩の夢を手伝えと?」
「話が早くて助かるよ! 俺と一緒に世界を変えようぜ!」
リサは下を向きながら、プルプル震えている。
ヤバい……興奮して、調子に乗り過ぎた。
「先輩っ!」
彼女は立ち上がると、白い綺麗な手で俺の両手を掴む。
触れたら汚れてしまうのではないかと心配してしまう光り輝く指が、しっかりと俺の手を包み込む。
なんと柔らかく、温かいのだろうか。
「先輩こそ、わたしが探し求めていた人物です! 是非、欲部會に入って下さい!」
俺の青春は王道から大きくズレて動き始めた。




