●欲部會(よくぶかい)
「よ、よくぶかい?」
リサが一枚の紙を寄こした。
「欲部會の活動承認通知書?」
生徒会長時代、何度か見たことがある。
そこには欲部會が学校公認の同好会に認められたことが記載されていた。
部室には歴史資料室が登録されており、彼女がこの部屋を好きに使っていた謎が解けた。
「え~、活動内容は……昔から欲に関して、多くの先人たちが様々な視点や学問から研究してきた。その研究内容を調べると共に、自分の欲望と向かい合い、人間として成長することを目的とした同好会である……なんだこれ?」
「フフフ、それはあくまでも表向きの許可申請を通すための活動内容……欲部會の行動理念はただ一つ。己の欲望に忠実であることです!」
「欲望?」
「欲がわたしを呼び、わたしが欲を呼ぶ。先輩の嘘偽りのない欲望。飽くなき探求心と執着心……あぁ、最高です。身体がゾクゾクします」
リサは頬を赤らめ、ゾクゾクと身体を小刻みに震わせる。
「醜悪な善よりも、純粋で淀みのない欲の方が美しい! そう思いませんか?」
顔と顔がくっつくほど、接近され、見つめられる。
思わず、プルンッとしたピンク色の唇に目が奪われる。
「共感覚ってご存知ですか?」
「あ、あ~、聞いたことはある」
唇に目を奪われるなんて、スパッツ原理主義者として失格である……
「確か音や数字に色が見えるんだっけ?」
「そんな感じです。わたしの場合、音……特に肉声に関して色を感じ取ることができるんです。これによって、相手が発した言葉の意味を判断できます」
「つまりどういうことだ?」
「フフフ、わたしにはその言葉が本当か嘘かが見分けられるんです。聞こえる音の色が違うのです」
「そんなバカな……」
「信じるか信じないかは先輩の自由です。でも、この力のおかげで、先輩の欲望と覚悟が真実だとわかりました。これほど純度の高い欲望を持った人間にわたしは今まで会ったことがありません。フフフッ、今日は最高の日になりそうです」
彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「わたしの夢は、全人類が己の欲望を自由に解放できる世界を創ること。現代社会に置いて、自分に正直に生きることがどれほど難しいことか……」
両手を広げ、部屋の中をクルクルと歩き出す。
「他人の目ばかり気にして、自分の内なる声を押し殺す。これでは誰のための人生なのかわかりません。そんな世知辛い世の中、せめて自分の欲を解放できる場所が一つくらいあってもいいと思いませんか?」
「それが欲部會なのか?」
「その通りです。先輩まではいかなくても、この学校にもまだ見ぬ欲深き生徒がいるはず。わたしはそんな人たちと楽しい学園生活を送りたい。自分が知らない欲望を知りたいんです」
「それなら俺と一緒にスパッツ布教活動をして、スパッツで天下を取ろうぜ! 最終目標は人類欲望解放宣言だ!」
彼女がこちらを振り向く。
「利害が一致したようですね」
「それって!」
「共に新しい人類の夜明けを見ましょう」
「つまり?」
「えぇ、契約成立です。わたしは先輩のためにスパッツを履く。先輩はわたしのために馬車馬の如く働いて……そして、わたしに世界が変わる瞬間を見せて下さい」
フフフと満足そうに笑う。
「約束通り、特等席でお願いします」




