●スパッツを履こう
ああ、どこからか祭囃子が聞こえてくる。
よみがえるスパッツを追い求めた在りし日の記憶。わきあがる万感の想い。
「下着の上から履けばいいんですよね?」
翌梨は中腰気味になり、スパッツに足を通す。
着脱するこの瞬間は何度見てもたまらない。
スカートがめくれ、スパッツをグイグイと上に持ち上げる。
「う~ん……こんな感じでいいんですか?」
何度か調節を繰り返し、履き心地を確認する。
胸の鼓動が高鳴り、体中の細胞が活性化する。
スパッツが似合う美少女だと予想はしていたが、確信に変わった。
「どうですかね?」
ただ、スパッツを履いているだけなのに、なんて神々しい光景なんだろうか。
渇いた砂漠に現れた救いのオアシスである。
体を捻りながら、制服とスパッツの相性を確かめる。
「って……せ、先輩、なんで泣いてるんですか?」
「うぅ……つ、ついに見つけた……」
スパッツに目覚めてから、俺の夢は誰もが笑ってスパッツを履ける世界を創ることになった。それはいつしか、究極のスパッツが似合う美少女を探し出す旅へと変わっていく。
そこから俺の長い長い旅が始まった。
東にスパッツが似合う女子小学生がいると聞けば、行って観察し
西にスパッツが似合う女子中学生がいると聞けば、行って観察し
南にスパッツが似合う女子高校生がいると聞けば、行って観察し
北にスパッツが似合う女子大学生がいると聞けば、行って観察し
みんなにスパッツバカと呼ばれ、蔑まれ、笑われて……
時には犯罪スレスレの修羅場も潜り抜けてきた。
しかしついに、翌梨リサという一人の美少女と出会うことができた。
その出会いは、これまでの苦労や挫折を一瞬で無くす力があった。
俺の旅は一つの終焉を迎えようとしていた。
「ふむ……」
最初は違和感を覚えたようだが、すぐに履き心地に慣れたようだ。
「!」
リサが上履きを脱いで、挑発気味にパイプ椅子に片足を乗せる。
短めの紺色のスカートから、黒いスパッツと白い足が自己主張をする。
「どうですか?」
「最高だよ!」
足を下ろすと、今度は一回転する。
回転した拍子に、フワリと舞うスカート。
そこから見えるスパッツはどんな絶景にも負けはしない。
もうユネスコに直談判して、世界遺産登録決定だね。
「一瞬でスパッツゲージが満タンになったぜ」
想像以上の美しさに恐怖さえ覚える。
「スパッツゲージ?」
「俺のようなスパッツ細胞を持つ人間は、適度にスパッツ成分を取り入れなくてはならない。日々削られたスパッツゲージを回復させる必要があるんだ。朝のモーニングスパッツ、通称朝スパ。昼の休憩、スパッツブレイク。そして、夜はナイトスパッツフィーバー!」
「大変ですね」
「そうなんだよ。スパッツって、履いている子の絶対数が少ない。メディアでもほとんど取り上げられないし、映像化も書籍化もしない」
「スパッツのグラビアなんて見ないですもんね」
「スパッツ成分が足りなくなると、禁断症状が出る。もし、スパッツゲージがゼロになると、自我を失い、欲望のままさまよう生ける屍。スパッツに飢えたスパッツゾンビになっちまう」
「これまではどうしていたんですか?」
俺はカバンから勢いよく雑誌を取り出した。
「月刊スパッツ創刊号と特別付録のDVD! 俺の永遠のバイブルさ!」
「月刊スパッツ……大和先輩以外に買う人はいるんですか?」
「いるよ! いるはずだけど……雑誌は創刊号で終わった……」
「その……ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ。確かに月刊スパッツは不発に終わったかもしれない。だけど、世界に一石を投じたんだ。その熱き魂は俺の中で生き続けている。いつの日か、俺の手で月刊スパッツを……いや、週刊スパッツを作ってみせる!」
「なるほど……わたしにも見せて下さい」
パラパラと月刊スパッツを読む。
これでリサがもっとスパッツに興味を持ってくれればしめたものだ。
少し目を離した瞬間だった。
バキッ! ビリッ! ビリビリビリッ!
嫌な音がした……




