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翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第一章 欲部會(よくぶかい)
12/54

●スパッツの女神

「ああっ! な、なんてことを!」

 目の前には無残にも引き裂かれた月刊スパッツと割られたDVDの姿が……

「今じゃオークションでも手に入らない超激レアグッズ……俺の家宝が……」


 宙を舞いながら、床に落ちていく雑誌の残骸。

 俺は這いつくばりながら、必死にかき集める。

 しかし、リサの長い足が妨害をする。


「もうそんなものいらないじゃないですか」

「どういうことだよ?」

「わたしがいるじゃないですか!」


 見上げると、少し不機嫌そうに頬を膨らませたリサの顔が見えた。

 同時にこれ以上ない、絶好のローアングル。

「!」


 夕焼けが差し込み、オレンジ色に照らされた放課後の歴史資料室。

 そこにたたずむ、絶世のスパッツ美少女。

 あまりの美しさに、これ以上直視できない。


「俺の心が囁いている。君がスパッツの女神だと……」

「どうですか? 納得しました?」

「スパッツを履いた君の言葉は、天からのお告げに等しい」


「それではこれは破棄します」

「……その役目は俺にやらせてくれ」

「あとで回収するつもりじゃ……」

「そんな無粋な真似はしないよ。手伝ってくれ」


 二人で紙吹雪のように小さく小さくちぎる。

 ちぎるたびにこれまでの思い出が走馬灯のように浮かび、目に熱いものが込み上げてくる。

 窓を開け、一陣の風と共にかつての相棒を外へ放出する。


 月刊スパッツは風になった。

 俺が無意識にのうちにとっていたのは『敬礼』の姿であった……涙は流さなかったが、無言の男のうたがあった……奇妙な友情があった。

 さよならは言わないよ。ありがとう、月刊スパッツ。君のことは一生忘れない。


「後悔しませんか?」

「別れも愛の形の一つさ。その代り……」

「何でしょう?」


「責任とれよ! 明日から放課後は毎日、スパッツ履けよ!」

「はいはい、わかりましたよ」

 笑みを浮かべ、スカートの端を持ち、お辞儀をする。


「グハッ!」

 両膝をついて、心臓を押さえる。

「ちょっとやだ! 大丈夫ですか?」


「大丈夫。心臓の鼓動スピードが限界を超えただけだから」

「それ大丈夫じゃないですよね?」


「それにここから見上げるローアングルのスパッツも最高だよ」

「ああ、いつも通りの先輩で安心しました」

 リサは意外と嫉妬深いようだ。

 彼女の前で、お宝ファイルを見るのはやめておこう。


「先輩の鼓動も収まったようなので、生徒会室へ行きますか?」

「なぜ?」

「先輩……話すならスパッツではなく、わたしの目を見て下さい」


「これは失礼。あまりにも素晴らしいスパッツ姿だったからさ」

 視線をリサの組んだ足から、上にズラす。

「とりあえず、生徒会を潰しましょう」


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