●敵は生徒会にあり
「……どんな過程を経て、そんな過激な結論に至ったのか教えて欲しい」
「今朝のスパッツ布教活動……あの鎮圧には、生徒会の力が大きく関わってきます」
「生徒会が?」
「先輩が行動を起こすや否や、教師への通報、混乱する生徒の避難誘導と安全確保。適切かつ素早い行動には敬意を評します。結果、実行犯の先輩はすぐに取り押さえられました」
「まぁ、俺の後任は優秀な奴らばかりだからな!」
「これからわたしが望む学校を創るためには、今の生徒会は邪魔です。生徒会を潰して、乗っ取りましょう。天に二つの太陽が昇らないように、学校に二人の王は必要ありません。わたしが生徒会長になります」
「なるほど」
「かつての仲間と敵対することに抵抗がありますか?」
「ああ、心が痛むよ」
「嘘ばっかり。何か言いたそうですね」
リサに嘘は通用しない話は本当のようだ。
「翌梨は目的のためなら手段を選ばない暴君みたいだよ」
「素直でよろしい。後学のために教えておいてあげましょう。わたしが正しいことをするのではない。わたしのしたことこそ正しいのです。ゆえにわたしの前に道はない。わたしの後ろに道ができる。わたしが天に背こうとも、天がわたしに背くことは許されない」
生徒会を潰す。
現役役員を知っている俺からすると、かなり大変な戦いになりそうだ。
「副会長はもちろん先輩です。馬車馬の如く働いて下さいね!」
「物理的に翌梨の尻に敷かれたいとは思うけど、役員って柄じゃないよ俺は……」
「わたしなら、スパッツに関する校則を創ることができますよ。全校生徒のスパッツ姿を見てみたいと思いませんか?」
「よしやろう! すぐやろう!」
躊躇のない返事はやる気の証として、とらえてもらいたい。
俺が会社の社長なら、即採用する人材である。
「欲望に忠実な先輩、わたしは好きですよ。今日はもう資料室には戻ってこないので、荷物は持って出て下さいね」
リサはコーヒーカップなどをカバンに仕舞って、部屋のドアに鍵をかけた。
歴史資料室とは違い、特別棟の目立つ場所に生徒会室はある。
ここへ来るのは久しぶりだ。
少し感傷に浸る俺とは違い、リサは躊躇なくノックをする。
「はい」
返事とともに、すぐにドアが開く。
見慣れた長身の女子生徒が出てきた。
「た、大成?」
「お、おう。久しぶり」
彼女は生徒会副会長の如月繭。
身長百八十五センチ。ショートカットの凛とした顔立ち。
わがままボディで、胸は校内ビックセブンの筆頭である。
服の上から大きな二つの山がそびえ立つ。
黒タイツを履いて、スカートは長め。
バレー部のエースで、俺とは幼馴染である。
「お久しぶりです。如月副会長」
「えっと……翌梨リサさんだよね?」
「覚えていてくれたんですか?」
リサが歓喜の声を上げる。
「う、うん」
「生徒会長にご相談したいことがあるのですが、大丈夫でしょうか?」
「今日なら大丈夫だよ。ちょっと待っててね」
繭が生徒会室の中へ消えて行く。
「緊張してるんですか?」
「まぁ、少しな」
「どうぞ」
すぐに繭が戻ってきた。
通された部室は整理整頓がいきわたり、俺がいた時より清潔感に溢れていた。
一般教室の半分くらいの広さで、本棚やパソコン、コピー機などが壁際に並べられている。
数人の役員が仕事をしており、俺に気が付くと驚き、一礼する。
「ほらほら、仕事仕事!」
繭が手を叩くと、役員は再び目の前の仕事に戻る。
運営がうまくいっている証拠である。
「さぁ、こっちに来て。会長もお待ちかねだよ」
奥の個室に連れて行かれた。
「久しぶりだね、ちゃんリサ!」
個室に入ると、生徒会長の神居司が高そうな黒い革製の椅子に座りながら、ヒョコッと顔を出す。
身長百四十センチ。
つるぺた童顔も手伝って、小学生にも見える。
腰まで長く伸びた髪をツーサイドアップさせ、白ニーソを履いている。
胸には生徒会長の証であるバッジが眩しく、光り輝いていた。
「お久しぶりです、神居会長。本日はお忙しい所、ありがとうございます」
「そんなにかしこまらないでよ。立ってないで座るといい」
「よう、司!」
ジロリッと厳しい視線が俺に向けられる。
「……いたんだ」
「おいおい、そんな怖い顔するなよ」
緊張をほぐすために、明るい声を出す。
「一時的だとは言え、こんな男の下で働いていたと思うと我ながら情けなくなる」
俺が一年で生徒会長に就任した時、他の役員に司と繭もいた。
結局、俺は解任され、司が生徒会長、繭が副会長になったのだ。
重い空気が部屋を覆う。
「あ、あぁっ! 今日は何か相談があったんだよね? ボクは席を外そうか?」
耐え切れなくなった繭が大きな声を張り上げる。
三人で生徒会を切り盛りしていた時も、我が強い俺や司の調整役として活躍してくれた。
「何か問題でもあった?」
司は着飾らないフランクさがある。
あだ名で呼ぶフレンドリーな距離感。
それでいて、圧倒的無比な存在感を示す。
生徒会とは、学校のためではなく、生徒のためにある。
『教師ではなく、生徒の味方』……それが司のスタンスだ。
その公約通り、常に生徒のために活動してきた。
時には学校側とトラブルもあったが、それでも自分の主張を曲げずに押し通してきた。
それを面白がった生徒たちが、司を『女帝』と呼び始め、その名が定着した。
今では学校新聞でも使われ、本人も承諾した公認の呼び名である。
容姿をカバーする圧倒的なカリスマ性を司は持っていた。
王者の風格と呼べばいいのか、特別なオーラを纏っている。
当然、生徒からの人気は高い。




