●宣戦布告
「はい。実は生徒会を潰そうと思っています」
一瞬、時が止まった。
「ニャハハハハ」
沈黙を破ったのは司の笑い声であった。
大きく開いた口から、尖った八重歯が見える。
「いや~、完璧超人と呼ばれるちゃんリサも冗談を言うんだね」
「冗談ではありませんよ」
ニコニコ笑うリサと司。
二人の間にはバチバチッと火花が散っている。
「自分の言っている言葉の意味がわかっているのかな?」
「もちろんです。神居会長に変わって、わたしが生徒会を運営します」
「それは頼もしい後輩だ。是非とも次回の役員選挙で頑張ってもらいたいものだね」
「お任せください!」
さすが司だ。
これだけ挑発されても余裕の表情を崩さない。
逆に見ているこちらが緊張してしまう。
「ちゃんリサって母親の胎内に欲を忘れて来たんじゃないかと、心配するくらい無欲だと思ってたけど、意外と野心家なんだね」
「わたしは今ある常識や秩序をすべて破壊したい。誰もが自由に自分の欲望をさらけ出せる学校を創りたい。それってすっごく面白いと思いませんか?」
「思わないよ!」
一瞬の迷いもない即答で、表情が強張っている。
「この学校を動物園にすることは許さない」
「動物園? ああっ、それもすっごく楽しそうですね」
「勝手にやればいいさ。話しはそれだけ? 要件が済んだら、帰ってくれないか?」
「大義名分がなくて、学校を破壊するなんて言ったら、それはただのテロリスト、賊軍、反逆者ですよ」
「そのために生徒会を利用するつもりか?」
「さすが会長、話しが早くて助かります。生徒会長と言う大義名分の元、革命を起こします」
「そんな下らないことに生徒会を巻き込まないで欲しいな!」
「ゲームの勇者が村人の家に勝手に上がり込んで、金品を巻き上げていいのも、魔王を倒すという大義名分があるからです。わたしの革命にも生徒会のネームバリューが必要不可欠なんですよ」
「へ~、あれってそんな理由があったのか」
ギロリッと司から睨まれる。なんか俺への風当たり強くない?
「自分で言うのもなんだが、あたしは教師、生徒からの信頼は絶大。次回の選挙も当選確実とまで言われている。そんなあたしに勝負を仕掛けるつもり?」
「難攻不落の要塞を落としてこそ、達成感があるってものじゃないですか」
「ちゃん翌梨は優秀だ。それは認めるよ。だけど選挙ではダークホースであって、本命じゃない。あたしの他にも立候補する生徒がいるかもしれない。あたしを含め、彼らは既に地盤を固めている」
口調は冷静だが、内心穏やかではないご様子だ。
「それに対して、新参者のちゃんリサの味方は少ない。信頼、実績、経験、全ての評価があたしの方が高い。ちゃんリサが当選する余地は限りなく少ない」
「フフフ、自分が有利な条件で負けたとなれば、恥ずかし過ぎますよね」
「それ、本気で言ってんの? あたしがこれまでしてきた改革を知ってのことだよね?」
「それは如月副会長あってのことです。神居会長一人の力じゃない」
「えっ?」
急に話題を振られた繭が慌てる。
「ぜ、全部、司の力で、ボクなんて……」
「いいえ、違います。神居会長が自由に行動できるのは、如月副会長がいるからです!」
「それだと、あたしは繭っちがいないと何もできないような言い方だね」
「そうは断言しませんが、功績の半分以上は如月副会長のおかげでしょうね。神居会長は確かにカリスマ性があって、リーダーに向いている。だけど、その力を最大限発揮できるのは、如月副会長がいるおかげ。副会長は王佐の才を持っています」
「アハハッ、だってさ。良かったじゃないか繭っち!」
「あ……うん……」
再び重々しい空気が部屋を覆う。
「次の役員選挙で、わたしと一対一の勝負をしませんか?」
「勝負?」
「はい。今現在、生徒会役員の役職は、会長、副会長、会計、書記。その他必要に応じて、増やすことができます」
「その通りだ」
「昔とは違い、今は会長だけを選挙で決め、他の役員は推薦か立候補。もしくは会長が一般生徒から選ぶ方法を取っています」
学校合併前は他の役員も選挙で決めていたそうだが、年々立候補者の数が減った。
そのため、合併後は時間の短縮や合理化のため、会長が役員を決めるのが通例となった。
「よく調べているじゃないか。実際、今の役員も……そこのスパッツバカとあたしが一般生徒から選んだ」
「そこで勝負をしましょう。わたしが負けたら、神居会長の下で忠誠を誓います。それこそ、生徒会に骨を埋める覚悟です」
「なるほど、それは面白い!」
司が膝を叩く。
「それで、ちゃんリサが勝ったら?」
「わたしの下で役員として働いて下さい。神居会長が……ああ、その時は会長ではありませんね。神居先輩が生徒会役員なら、わたしの革命も支障なく進めることができるでしょう」
「あたしの過去の実績を利用しようってわけか」
「その通りです」
「ちゃんリサは、女のあたしでもうらやむほどの美肌だけど、その白さの内側はどす黒く淀んでいそうだね」
「フフフ、強欲なだけですよ。褒め言葉として受け取っておきます」
「確かにちゃんリサがあたしの下で働いてくれるのは助かる。それだけ、あたしはちゃんリサの力を高く評価している。いいだろう、勝負をしよう!」
「つ、司!」
「なんだい繭っち? まさか、あたしが負けるとでも?」
「そ、それはないと思うけど……勝負に絶対はないから……」
「それとも、繭っちも選挙に出る? あたしの実績の半分以上は繭っちの力があったからだそうだからね」
「ボ、ボクはそんなつもりは……」
「アハハッ、ウソだよウソ!」
「最終確認ですが、勝負を受けてくれるんですね?」
「ああ、もちろんさ。生意気な後輩を正しい道に戻すことも、先輩の役目だからね」
「わたしの最終目標からすれば、役員選挙での勝利なんて通過点に過ぎません」
「最後まで生意気な後輩だね」
「神居会長には過ぎたるものが二つあります。一つは如月副会長で、もう一つは生徒会長の座です。重荷を下ろして、わたしに譲って下さい」
司の眉がピクリッと動く。
「わたし、年長者は敬いますよ。敬老の精神ですね」




