●大和先輩引き取ります
「女子生徒からの被害届と直談判か?」
「ちょっと先生、怖いこと言わないで下さいよ。はい、開いてますよ、どうぞ!」
「お前が返事をするな!」
「失礼します」
ドアが開くと、翼の無い天使……翌梨リサが立っていた。
「大和先輩を引き取りに来ました」
時刻は一時限目が終わった頃だ。
「大和、どうやら年貢の納め時のようだな」
「先生、合掌しないで下さいよ」
「勘違いしないで下さい」
リサが机に置いてある反省文を取ると、豪快に破り捨てた。
「な、何をする!」
これにはさすがの先生も驚いた。
「反省なんて無意味です。大和先輩をわたしに一任させていただけませんか?」
「なんだと?」
「このままでは、堂々巡り。先輩は何度も今回のような過ちを繰り返します。その内、本当に犯罪に手を染めるかもしれない……それほどに、先輩のスパッツへの愛情は深い」
「確かにその通りだ」
「いやいや、俺だってさすがにそこまでは……しないと思いますよ」
「そこは断言して欲しい所だ。しかし、翌梨……お前に大和を改心させることができるのか?」
俺を無視して、二人は話を進める。
「わたしにはできる……いえ、わたしにしかできません!」
ツリ上がった目に、強い意志が宿る。
「よし、大和は翌梨に任せる!」
「大岡越前も驚く名裁き。ありがとうございます」
「ええっ! いいんですか?」
「翌梨が言うのだから、間違いはないだろう」
何たる絶大な信頼感。
これまた後で知る情報になるが、リサの成績は学年で単独首位。
入学式では、新入生代表の挨拶も務めた。
運動神経も抜群でありとあらゆるスポーツ、武道に精通している。
そのため、運動部からの勧誘が後を絶たない。
それでいて奢ることなく、誰にでも隔たりなく接する。
一見クールに見えるが、熱い一面も持つ明るい性格。
男子はもちろん、女子からの人気も高い。
さらにはクラス委員長も務め、生徒だけではなく、教員からの信頼も厚かった。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、性格良しと非の打ちどころのない完璧超人である。
もちろん彼女の一番の魅力は、スパッツが似合うことであることを強調しておきたい。
そんな訳で、俺の千の言葉よりも、リサの一言の方が効果抜群なのだ。
「よし!」
パンッと先生が大きく手を鳴らすと同時に、二時限目の予鈴が鳴り響く。
「これにて解決! 二人とも学生の本業である勉学に励め!」
先生は満足そうにパイプ椅子に座ると、三本目の煙草に火をつけた。
「ほらほら、早く行かないと授業に間に合わないぞ!」
俺は無事に生徒指導室から生還することができた。
「いや~、助かったよ。ありが……」
「放課後、歴史資料室に来て下さい。詳しいことはそこで話します」
俺の言葉を遮り、彼女は足早に去って行った。
その後、俺の校内における立場が、前以上に落ちたことは語るまでもない。




