●変わらない想い
腕を組みながら仁王立ちする姿は、まさに不動明王である。大抵の生徒はその眼光の鋭さで身を縮めてしまう。
「鬼瓦先生がスパッツを履けば、まさに鬼にスパッツ! 結婚どころか、一妻多夫制だって目じゃないですよ!」
「はぁ……残念ながら、大和のご希望には添えない」
呆れた様子で壁に寄りかかりながら、二本目の煙草に火をつけた。
「そうですか。先生にもスパッツの素晴らしさを知ってもらえるチャンスだったのに、非情に残念です。だけど、先生が頬を赤らめながら、恥ずかしげにスパッツを履く日が来ることを願っています」
「無理強いはしないんだな。テロリストの癖して実力行使はしないのか?」
「あれは特例中の特例ですよ。狙った八人の生徒だって、ノリが良かったり、運動でスパッツを履いたことがある子だけです。さすがに俺も嫌がる女性にスパッツを履かせることはしませんよ」
事実、現場では大騒ぎになったが、おびえたり、泣き叫ぶ声は聞こえなかった。
それどころか、知らない間に自分がスパッツを履いていたことに、驚き、楽しんでいる様子さえ見られた。
だから、俺から言わせれば、テロ行為ではなく、一種の路上パフォーマンスだ。
「……何でそんな生徒の内面を知っているんだ?」
「企業秘密と言いたいところですが、常日頃の市場調査と言っておきましょう」
「その情熱、本当に悪用するなよ……なんだか吐き気がしてきた」
「履く気になりました?」
「履かないと言っているだろう!」
「儚い夢に終わりましたね」
先生は先ほどよりも大きなため息を吐いた。
「……お前のその才能は別の分野で活かせよ」
「残念ながら、才能と情熱は一致しないことが多いんですよね」
「熱心に話せば、お前の気持ちを理解して、履いてくれる子だっているかもしれんぞ」
「ちなみに先生がお願いして履いてくれるなら、百夜通いでも何でもしますよ。履かぬなら履くまで待とうホトトギスパッツ! だけど、鬼の尻にもスパッツ……何でもありません」
今は睨まれるだけだが、いつの日か先生にも履いて欲しいな、スパッツ。
ようやく反省文が書き終わり、それに目を通す先生。
数行読んだだけで、俺を睨み付ける。
「最初は怖かったですけど、次第にその睨みつけられる視線が癖になってきますね」
「御託はいい。それよりなんだね、これは? 反省していない反省文のように見えるが?」
「最後までちゃんと読みました? もしかしたら、叙述トリックが使われた、とんでもないどんでん返しが……」
「あるのか?」
「ないです!」
「清々しいほど、ハッキリと言う奴だな」
「大体、今時反省文なんて流行りませんよ。いつの時代も人は変えられない。変えられるのは常に自分だけです」
「ならば、早速自分を変えろ。お前の生き方は生きにくいだけだぞ」
「高校生って、子供でもあり大人でもある微妙な年頃じゃないですか。いつまでも子供のままじゃいられない。だけど、今しかできないことだってあると思うんですよ。先生……間違いや過ちを繰り返しながら、人は成長して大人になっていくんじゃないですか?」
「間違いだと思っているならば、すぐに正せ!」
「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや、と言う言葉があります。実に寂しいものですね」
その時、生徒指導室のドアがノックされた。




