●隙あらば、スパッツ布教活動
「うちの生徒は真面目な奴が多いから、本来、生徒を指導するなんてほとんどない……」
「それは違いますよ。生徒の個性を潰して、管理しやすくしているだけです」
「もう御託はいい。さっさと自分の非を認めて、反省文を書け」
「俺には言論の自由すらないないんですか?」
「その饒舌な舌を引っこ抜くぞ」
なんとも嘆かわしく、世も末である。
「それにしてもわからない」
先生がパイプ椅子に深く腰掛けると、ギシギシと音が鳴る。
「お前は頭はいいし、顔も悪くない。これから挽回すれば、多少なりとも、楽しい学園生活が送れる。学業に励むなり、部活動に打ち込むなり、恋愛や友情を育み、青春を謳歌するといい。それともまだ奇行に走って、一生に一度の華の高校生活を棒に振るつもりか?」
「自分を騙して送る人生なんて、そんなの死んでいるのと同じです」
反省文を書く手を止める。
「人は未知で、自分の理解を超えるモノを拒絶します。きっかけなんて、何でもいい。スパッツを実際に履いてみれば、その良さがわかる。今回の件も、俺はスパッツの素晴らしさをみんなに知ってもらいたかっただけなんです。誰もが笑ってスパッツを履ける世界を創る。それが俺の夢です!」
「お前は一体何者なんだ?」
「俺は大和大成。ただのスパッツ愛好家ですよ。ところで先生……」
「どうした?」
「初めて先生を見た時から思っていたんです」
「何がだ?」
「先生は魅力的な太ももをしていると見受けられる。それはズボンの上からでも十分わかります!」
「あ、あんまりジロジロと見るな! 気色悪い!」
「スパッツ履いてみましょう!」
「はぁ?」
「百聞は一見にしかず。否定するのはいつでもできます。まずは履いてみましょう! 俺が一から十までスパッツの魅力を伝えるのは簡単だ。だけど、それでは先生が自分でスパッツの良さに気付かない。それは非常にもったいない!」
先生の冷徹な表情が崩れていく。
「スパッツを履いて下さい。きっとスパッツの魅力に気が付くはずです。あぁ、人に何かを教えるって素晴らしいですね。俺、将来は教員になろうかな」
「お前って奴は……」
大きなため息を吐きながら、頭を抱える。
「ため息は幸せを逃がしますよ。でも、それって逆に考えれば、幸せって無限にあるってことですよね」
「最近はため息がストレスを溜めない方法だと……もういい。考えるだけで頭が痛い」
「ささ、先生。スパッツの準備はできていますよ!」
「お前のような生徒は初めてだよ。ただの大馬鹿なのか、それとも……」
「さぁ、レッツ・エンジョイ・スパッツ・ライフ!」
俺はスパッツを取り出し、テーブルの上に置いた。
先生はテーブルに置かれたスパッツを一瞥する。
「今朝の件は、八人の女子生徒がスパッツを履かされた。そして、今のスパッツ……どこから出した?」
「スパッツ宣教師としては、不測の事態に備え、スパッツは常備しております」
俺は何もない空間にスパッツを出すと、すぐさまスパッツを消した。世にも珍しいスパッツマジシャンとは、俺のことだ。
「本題に戻りましょう! スパッツ履いてくれるんですか?」
「履くわけがないだろ!」
一蹴されてしまった。
「教師たる者、生徒に歩み寄る努力をしましょうよ。なぜ、これほど俺がスパッツに魅了されているのか? それを知りたくば、スパッツを履いてみる。それに尽きます! ノースパッツ・ノーライフ」
「履かない!」
「からの~?」
ギロリッと睨まれた。




