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翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第五章 変わりゆく世界
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●スパッツ演説のその先へ

 壇上から飛び降りると、生徒たちが体育座りしている中に入って行く。

「諸君、実に素晴らしい光景だと思わないかね。三者三様、三人全員にスパッツ・オブ・ザ・イヤー最高賞を与えたい気分だよ」


 唖然とした顔で俺を見上げる生徒たち。俺を止めようと、数人の教師が駆け寄る。

「先生たちはズルいっ!」

 その声に教師たちの動きが止まる。


「先生たちの時代はブルマがあった。プールも男女合同だったはず。それが今ではどうですか。ブルマは廃止され、ハーフパンツ。ああ、俺はハーフパンツも好きですけどね。でも許せないのはプールだけではなく、体育の授業が男女別。これはおかしいです!」


「それは生徒への配慮や時代の流れで……」

 一人の教師が答える。こうなると俺のペースだ。


「何が時代の流れですか。都合のいい時だけ、男女平等を掲げる大人は大嫌いだ! 校則で掲げられている『高校生として常識ある身だしなみ』とは一体なんですか? 学生の本業でもある勉学をおろそかにして、髪を染めたり、ピアスをつけたり、タトゥーを入れるのは、確かに高校生としてあるまじき姿だと思います。だけど、スパッツは違うでしょう」


「な、何が違うんだ?」

「スパッツひいてはタイツ、レギンスなどは、運動時の疲労軽減、関節のサポート、骨盤矯正、UVカットにも効果があるんです!」

 再び生徒の列の間を歩き出す。


「女性諸君。今やスパッツは日進月歩進化しており、医療の視点から履いて痩せる圧着スパッツが出ているんだ。他にも美肌効果や足痩せ、ウエストのくびれ作り、骨盤矯正などなど、様々な効果があるスパッツを複数のメーカーが開発する群雄割拠の時代。無理なダイエットで体を壊すなんてバカバカしい。そもそも、みんな痩せる必要なんてない。少しくらいムッチリしている方が、絶対男子ウケする。どうしてもダイエットが必要なら、スパッツを履いて運動して、健康的なダイエットをしよう!」


 半信半疑だった生徒たちの表情の変化を見逃さない。


「パンツが見られて恥ずかしいから、短パンを履く? 古い、古いよ、その考え方! もし、スパッツを履いていれば、見られても恥ずかしくないよね?」


「世界に目を向けようか。海外では、下は下着とスパッツだけが常識だ。日本のようにズボンやスカートは履かない。体のラインが丸わかりで恥ずかしい? ノンノン! 彼女たちから言わせれば、お尻の形がハッキリわかるのがオシャレポイントなんだってさ!」


 教師たちの動きに目を配りながら、話を続ける。

「恥ずかしがらずに、むしろ見せつける気持ちでいこうよ! 堂々としていれば、それは可愛いオシャレなんだから! スパッツの色もカラフルでとってもキュートだよ! 気になる男子にダイレクトアタックならぬ、ヒップアタック!」


 拳を高くつきあげる。

「次に男性諸君。男からすれば、目のやり場に困るよね? だけど、そんな時は堂々と見よう! エロいと思うから、エロいんだ。ファッションの一種だと思えばいい。似合っていれば、素直に褒めてあげよう! 堅物ぶって、健全な男子高校生の持て余している性欲を束縛してはいけない。なぜなら、束縛された性欲は、必ず歪んだ性癖を産む。正しい性教育のためにも男女合同で体育をするべきだ!」


 教師たちが隊列する方へ体を向ける。

「これだけ利点があるんだから、学校に導入すべきでしょう! 先生の言った時代の流れならば、まさにこれこそ時代の流れです」

「し、しかし……」


「我が校は自由な校風を謳っております。そんな我が校こそ、他の高校よりも先にスパッツを導入すべきです。先んずれば人を制す。スパッツ界のパイオニアになるんですよ!」

「じょ、常識的に考えて……」


「何、悠長なこと言っているんですか。常識なんて、時代と共に変わるのが常識でしょう。昔は正しいとされていたものが、間違っていたなんてよくある話だ。俺はそんな水掛け論やいたちごっこがしたい訳じゃありません」

「そ、それは……」


「ジーンズだって、元々は労働者の作業服。それが今では、立派なファッションだ。こんな例、いくらでもあります。だから、スパッツが普段着になってもおかしくないですよ!」

 ふぅ……と大きな息をついた。


「忠言耳に逆らう。俺は良いと思ったことを、学校のために進言しているだけです。女性の下着だって、明治時代から普及したって言うじゃないですか。温故知新、古きを大切にし、さらに新しいチャレンジをする。それが大事なのです!」

「だが、生徒たちの気持ちはどうする?」


「指定の制服を着用が義務なくせに、今更それを言いますか? 生徒の気持ちを考えるなら、制服の義務化なんて辞めて、今すぐ全部自由にすべきです。男子も女子もみんな幸せになれる。そう、スパッツならね!」

 ああ、何とか終わった。ホッと一安心したのもつかの間、すぐに次の行動を起こす。


「皆さん、どうたったでしょうか? これが翌梨の掲げる生徒が創る学校です。しかし、それだけでは、俺のような欲望まみれの生徒に利用されてしまう。だからこそ、司の掲げる厳格な校則が必要なんだ。大切なのは両者の短所を指摘し合うのではなく、長所を認め合うこと。それこそ、俺たちが今回みんなに伝えたかったこと」


 再び壇上の三人に目を向ける。

「三人とも、お疲れ様。これにて、神居、翌梨の両立候補者共同の学校改革ショーを終わりにしたいと思います!」

 その言葉を聞いた瞬間、生徒たちは安堵の息を吐き、大きな拍手が鳴り響く。


「何だよ、ショーだったのかよ」

「おかしいと思ったんだよね」

「リサちゃん、演技うますぎ。一瞬、本気で信じちゃったよ」

「俺は最初からわかってたけどね」

「今年の選挙はいつもと違って、楽しかったな」


 みんなリサの豹変が、演技だと勘違いしてくれた。

 一時はどうなるかと思ったが、なんとか討論会を終わらせることができた。

 いつまでも鳴りやまない拍手を見かねて、教師たちが生徒たちを誘導する。そのまま生徒たちは各教室へ戻って行った。


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