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翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第五章 変わりゆく世界
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●討論会2

 ここからは立候補者、一般生徒を交えた質疑応答の時間になる。

 間髪入れずに、司がマイクを握った。


「まず、訂正しておきたい。生徒会がすべてを決めているわけじゃない。あくまで生徒会は生徒の代表だ。一人一人の意見を取り入れることは素晴らしい。しかし、その案では、結局自己主張の強い生徒だけが有利になってしまうのでは?」


 それに対して、リサは余裕の表情で受け答えをする。

「弱者の救済ですか? 神居先輩はここにいる生徒たちの力を見くびっている。彼らは自ら考え、行動できる生徒たちです。自己主張が苦手なら、メール、電話、手紙だっていい。多くの窓口を作ればいい」


「誰もが強く、器用に生きることはできない。まして、あたしたちはまだ高校生だ。道を用意して、進む先を指し示すことも必要だ」

「指し示す道とは、あいさつ運動や清掃活動ですか? あんなものはしょせんやらされているだけ。そんな受身な姿勢でやることなんて、実社会では何の役にも立たない」


「慈善活動の精神を育むために必要だ。精神教育と実利は切り離して考えるべきだ」

「ならば、生徒に選ばせましょう。受身な活動と違って、自主的な活動は決して忘れません。卒業して、何十年経っても忘れないもの……それこそが真の教育です」

「自由は時に不自由になる。だからこそ、選択肢を絞る必要がある」


「そんなものはまやかしの自由です。真の自由を得るには改革が必要なんです」

「その真の自由を決める……審査できる人間……生徒が存在するのか?」

「わたしがやります……いえ、わたししかできない。わたしならできる!」

 リサと司の高レベルの戦いに、一般生徒が入り込む余地がない。


「神居先輩は仲間を信じると言っていますが、実際、生徒たちの力を信じていませんよね」

「そんなことはない」

 恐れていた事態。それは投票権を持つ生徒を敵に回すことだ。


 別に司は生徒の力を信じていないわけではない。しかし、リサの言葉巧みな話術によって、生徒たちの受ける印象は変わる。

「わたしはみんなを信じます。信じるからこそ、みんなに学校を変える力を与えるのです」

 大きな歓声が上がった。

 一度誤解されると、短時間ではその誤解を解けない。


 ウイルスのように誤解はどんどん広がっていく。

 これから司がどんな正論を言ったとしても、一度疑念を持った生徒たちは、それは言い訳にしか捉えない。

 横目で司を見ると、俺以上に現状を把握しているようだ。


「そんな顔をするな。お前はいつも通り胸を張っていればいいんだ」

 司の肩に手をかけ、小さな声で話しかける。

「ダイダイ……」

「あとは俺に任せろ」


 司からマイクを奪い、大声で話す。

「今回の公約には、大きな弱点がある!」

「弱点? 面白い、是非聞かせていただきましょうか」


 リサが挑発気味にこちらを見てくる。

 よほど自分の公約に自信があるようだ。

 さぁ、先輩の絶望の顔を見せて下さい。

 どんな夢や希望もわたしがすべて阻止してあげます。

 早く絶望して、わたしを楽しませて下さい。と、でも言いたそうな顔だ。


 いいだろう。これからその余裕な表情を青ざめさせてやる!

『今回の公約には一つだけ、大きな弱点がある。

 翌梨リサが在籍する三年間は大丈夫だろうが、それ以降はどうなる?

 ここにいる生徒で、翌梨の代わりを務められる自信がある生徒がいるか?


 少なくとも俺には、そんな自信全くない!

 そうなると、当然、今回の仕組みの維持ができなくなる。存続できないとなると、何が起こるか。答えは簡単、仕組みの破滅だ。

 そして、その被害を受けるのは俺たちじゃない。今ここにいない未来の後輩たちだ。


 負の遺産を残すような公約を俺は認めない。未来永劫続く、伝統こそが必要なんじゃないだろうか?

 もちろん、変化することを否定はしない。大切なのは、過去や今だけを見るのではなく、これからも続いて行く未来を考えることだと俺は思う』


 ほんの少しだけ風向きが変わった。勝負はこれからだ。 


『知らない生徒も多いかもしれないが、現在、銚吠高校は生徒会が各委員会を統括している。便宜上統括はしているが、別に生徒会が頂点ではなく、対等な立場だ。


 各委員会はそれぞれその事柄のスペシャリスト。

 例えば、球技大会では生徒会と体育員会に球技大会実行員会。

 文化祭では生徒会と文化祭実行委員会が、学校側と協力して大事なことを決める。


 これは一見、権力集中型のようでいて、権力分立型でもある。

 少人数で決定するため、迅速に決議が取れ、問題が起こっても対策が早く、早期解決につながる。


 今じゃ当たり前の仕組みだが、これはかつて、一人の天才的な生徒、佐久間勇気によって創り出された画期的なシステムだ。合理的でマニュアル化された仕組みは確立以降、現在も使われている』


 佐久間勇気の名前が出ると、リサの表情に少し変化が見えた。


『この仕組みは、作業効率を上げるだけでなく、ミスを減らすこともできた。これにより、生徒会役員はより多くの学校行事に携わることができるようになったんだ。


 名実ともに学校の……生徒の代表になった。

 しかし、それは決して権力を生徒会に集中させることでも、学校を独裁することでもない。各委員会と協力し、より良い学校運営を果たすことが生徒会の本来の役目だ。


 忘れがちだが、それだけ名誉あり、責任のある役職なんだ。

 先人の優れた仕組みや業績、良い伝統は引き継いで後世に残さなくてはならない。

 それが、今を生きる俺たちにできるだと思う!』


 ちょっとした演出で、『いつもの退屈な選挙』を少しだけ変える。それが重なると、『いつもとは違う楽しい選挙』になる。

 そうなると本来起こりえないイレギュラーが重なり、考えもしないことが起こり出す。


 愚者はそれを奇跡だの偶然だの言うけど、賢者はそれが必然だと知っている。

 ここでとどめの一撃を食らわせる。


「残念だったな、翌梨。念願の佐久間勇気超えはお預けだ」


 その言葉を聞いた瞬間、リサは演台から飛び出し、対峙する俺たちの方へやってくる。

 すぐさま、俺もリサと同じように演台から飛び出す。

 結果、中央付近で激突する。

 激突する……激突と言うか、あっさりとリサの護身術で、倒された後、馬乗り状態だ。


「どうして、どうしてわたしの邪魔ばかりする!」

「止めるって言っただろ! 今のお前は佐久間勇気の幻影に怯える子羊だ。革命だのなんだの偉そうに言ってるけど、他人の迷惑を考えない利己主義者だ! ただ佐久間勇気に直接何も言えないから、間接的に彼が創った仕組みを壊したいだけだ。駄々をこねてるガキと変わらね~んだよ!」


「うるさい! うるさい! うるさい! あんたに何がわかる!」

「わかんね~よ! だから、お前が何に苦しんでいるのか教えろよ!」

 すぐさま司と繭もやってくる。何とかリサを俺から離そうとするが、手間取っている。


「今のお前は反吐が出る欲望の塊だ。もし、まだ美麗な欲望が残っているなら、佐久間勇気を直接超えろ! お前ならそれができる! 奴よりも素晴らしい仕組みを創り出せ!」

 ようやく司と繭に両側を押さえられて、引き離されるリサ。

 二人が少しでも力を抜こうものなら、俺に噛みついてきそうな勢いだ。


「いいか、二人とも……そのまま離すなよ」

 腰を落とし、構える。

「ちょ、ちょっと大成何をするつもり?」

「ぼ、暴力はダメだぞ!」

「ふ~……」

 一呼吸おいて、一気に距離を詰める。


「トリプル・タキオン・スパッツ・フュージョン!」

 一瞬の交差。振り返ると、スパッツを履かされた三人の姿が見えた。

 さぁ、楽しいパーティも佳境に近づいて来た。最後の総仕上げだ。


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