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翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第五章 変わりゆく世界
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●討論会

 いよいよ討論会が始まる。

 壇上に上に演台が二台用意され、二組が対峙する。


「緊張するな」

「人事を尽くして天命を待つ。やることをやっていれば、焦る必要はない」


 さすがは女帝。

 トリッキーなリサに翻弄されることなく、選挙活動を行ってきた。


 リサは自信満々の表情で、腕を組んで目を瞑っている。

 繭も自信をつけた表情で遠くを見る。

 文化祭以来、繭は黒ニーソを履かなくなった。


 そのため、鍛えられた太ももが強く自己主張している。

 最近では、一部ファンがついて、あの足で締め落とされたいなんて願望を持つ者までいるそうだ。

 そう言えば、司も白ニーソを履くのを辞めた。

 討論会が終わったら聞いてみよう。


「過剰に相手を意識し過ぎるなよ。あたしは必ず勝つから、安心しな」

 大変申し訳ない。

 壮大な勘違いをさせてしまった。

 こんな大事な時に、太もも事情を考えていたなんて言ったら怒られるだろう。


「ちゃんリサには感謝しているんだ」

 司が淡々と小さな声で話す。

「初心に戻ることができた。繭っちは自信をつけて、成長することができた。そして何より……ダイダイと仲直りできた」


「司……」

「さぁ、勝とう! そして、みんなで生徒会室へ帰ろう!」

 全校生徒が見守る前で、ついに討論会が始まった。まずはお互いの公約と熱意が語られる。

 先手は司だ。


『あたしは、みんなを導く生徒会長になる。

 そして、先輩方から引き継いできた伝統を活かしながらも、新たな要素を取り入れ、常に進化し続ける生徒会を目指す。


 去年に引き続き、あたしは常に教師や学校ではなく、生徒の……みなさんの味方だ。

 あたしには一年間の生徒会の経験がある。

 その中には成功もあれば、失敗もあった。


 女帝なんて呼ばれて、天狗にもなっていた。

 周りの助けも、自分の力だと勘違いしていた。

 だけど、仲間のおかげで気づくことができた。


 だからこそ、その経験を糧に、反省を反省で終わらせることなく、次に活かしたい。

 感謝の気持ちを忘れずに、みんなの意見を取り入れる生徒会にするつもりだ。

 必要に応じて、厳しい校則を創るかもしれない。

 空回りして滑稽な姿を晒すかもしれない。


 でも、やるからには全力で空回りし続ける。

 本気で生徒全員が誇りと自覚を持てるようにしたい。

 そして空回りではなく、力が噛み合った時、最大の力を発揮するだろう。


 トップに立つべき人間に必要な要素は、高い理想、強い信念、熱き情熱だと思う。

 この一年、あたしはそれらを持ち続け、学校をまとめ上げてきたつもりだ。生徒全員の手本となる生徒会長になる努力もしてきた自負もある。


 地図も目標もない状態で、目的地へ全員がたどり着くことは困難だ。

 しかし、目標となる人物がいれば話は別になる。

 その目標とする人は誰でもいい。その一人になれるように、あたしは努力する。


 自分も頑張ろうと思えるような生徒会長になりたい。

 道なき道を進むのは大変だ。

 あたしが率先して、道を切り開き、導く。

 だけど、それはあたし一人の力じゃ無理だ。

 生徒会の仲間、そしてみんなの協力があって、初めて実現する。


 一年前のあたしなら、考えられなかった。

 仲間の力を頼ることを恥だと思っていた。

 だけど、今ならハッキリ言える。成長したから、素直に力を借りることができるんだ。

 あたしは全力で頑張る。

 あたしと共に成長したいと思った方は、是非あたしに一票をお願いします!』


 体育館中に響き渡るハッキリとした声。

 相手がリサでなければ、充分な演説である。

 元生徒会長だけあって、支持者は多い。

 無難に選ぶのならば、司だろう。


 司らしいリーダーシップを押し出した演説だった。

 さらに共に成長するスタンスは共感を得る。

 先手の優位性。演説が成功すれば、これから演説をするリサは不利になる。

 しかし、そう簡単にリサが主導権を渡すはずがない。


 キィィィーン!

 耳を裂くような、マイクを使った不快なハウリング。

 その一手で状況を簡単に変えた。

 それまで司の演説に浸っていた生徒たちの意識を根こそぎ奪い取る。


「大変、失礼しました」

 一礼した後、リサが口を開いた。


『わたしの公約は欲望を全面に掲げます。

 楽しく、面白い学校。それがわたしの目指すビジョンです。

 欲望と自制心。本能と理性。そのすべてが自分自身。

 だから自分の欲望を嫌わないで、否定しないで下さい。


 欲こそが心を満たし、活力を与え、自己を成長させ、人と人を繋ぎ、命を育む。

 欲こそが人を創るのです。

 欲は人間の本能。欲無くして、人は生きていけない。

 欲望は人を成長させる原動力になります。


 用意され、舗装された道を歩くほど退屈なものはない。

 道を切り開くのは、あくまであなたたち自身。あなたたちにはその力がある。

 わたしの生徒会では、そんなあなたたちをほんの少しだけ支え、背中を押す手助けをします。

 ならば、わたしが生徒会長になったら、何がしたいか?


 生徒の自主性を一番に尊重します。

 だから、生徒会を潰します。

 秩序は脆く壊れやすい。そんなものに頼るつもりはありません。

 今現在、生徒会に集中している権力を無くします。


 生徒の生徒による生徒のための学校。

 欲望解放宣言、それこそがわたしの目指す学校です。

 本来、学校とは生徒が創るべき場所です。

 それがいつの間にか、用意されたものに従うだけになってしまった。今こそ、本来の学校のあるべき姿を取り戻すべきです。


 一部の生徒……生徒会が特権を持つ時代は終わった。

 これからの主役は……学校を創るのはあなた方、生徒一人一人です。

 わき役なんていない、誰もが主人公になれるんです!


 伝統? 業績? 昨日のことを話して、何になるんですか?

 わたしたちに必要なのは今です。

 現状維持を始めた時点でそれは既に後退し始めている。

 前に進む努力をして、初めて現状維持ができ、成長することができる。


 成長とは変化。変化とは成長。だから変化を恐れてはいけない。

 人は常に良くも悪くも変化し続ける生き物。

 どうせ変化するのなら、わたしと共に良い方向へ変化しませんか?

 一人一人が校則案を出す。その校則案を審議して、どうするか決める。

 こんなこと、今の生徒会にできません。だから一度、生徒会を潰します。


 そして、新たなる生徒会と仕組みを創る。

 破壊と創造。改革と踏襲とうしゅう。それらは表裏一体……

 みなさん、伝説の立会人になる、伝説を創る準備はいいですか?

 私たちの限界はここじゃない!

 立ち止まる必要なんて一切ない!


 自らの限界を決めつけ、進む道を狭める必要はない!

 限界を超えて行け!

 さらなる高みへ!

 己の信じた道を突き通せる者は、誰だって輝ける!

 さぁ、わたしについてこい! 

 四の五の言わずに、わたしに投票しなさい! 以上!』


 リサは周りを、その気にさせる不思議な力がある。

 彼女の声色、動作は相手を心地よくさせ、人を……人の心を動かす。


『生徒会を破壊する』なんて過激な言葉を使って、生徒たちの興味関心を惹きつける。

 さらに後手の優位性でもある、前者の発言を踏まえた比較。直接の否定はしないものの、間接的に司の法案の弱点を伝える。


 演説中も絶え間なく、グルリッと大きく生徒たちを見渡す。

 見渡すことで、生徒たち一人一人と目が合う。

 これにより、自分に語りかけているように感じさせる。


 抑揚の付け方、間の取り方、すべてが完璧だ。

 一方的に話すのではなく、生徒たちと一体感を高め、巻き込む。

 日本語がわからない外国人が聞いても、リサの演説に引き込まれるに違いない。

 司も立派演説だったが、リサと比べると差が大きい。


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