●天下分け目の戦い
「よくここまで残ったね」
「えぇ、運に恵まれました。朝九時開始で、今は午後三時。如月先輩は関ケ原の戦いが何時間で終わったか知っていますか?」
「確か六時間ぐらいだったはず……今のボクらと同じだね」
「約束、覚えていますか?」
「もちろんさ。そっちこそ忘れていないよね」
「大丈夫ですよ」
「お互い正々堂々、勝負しよう」
「それは約束いたしかねますね」
多少の操作はあったかもしれないが、本当に決勝戦で戦うことになるとは想像しなかった。
「いや~、どうよ今年の闘球祭は?」
「面白いことになってきたな。新聞部も気合いの入り方が違うよ」
「どっちが勝つと思う?」
「頭一つ飛びぬけているのは、二年の如月繭。あの長身から投げるボールから逃れるのは、男子でも難しい」
「じゃあ、順当に二年が優勝か?」
「いやいや、話はそう単純じゃない。一年……チーム・ザ・スパッツ。開会式でのパフォーマンスで生徒たちを一気に味方につけた。会場中の生徒たちが彼女たちの勝利を期待している。実力の方もリーダーの翌梨リサを中心に高いよ」
「おいおい、結局はどっちが勝つかわからないってことかよ」
「ああ。だけど、すんなり終わる戦いだとは思わないぜ」
好き勝手に盛り上がる生徒たち。
想像以上に混んでおり、俺もようやく場所を確保できた。
「ヘヘヘッ、これなら俺が紛れ込んでもバレはしない」
「バレバレだよ。盗撮魔君」
「つ、司? いつの間に? まさか俺を再び追放するつもりか!」
俺のすぐ横に司がいた。
「こんな舞台でそんな無粋な真似はしないよ。せいぜい見つからないように気をつけな」
周りも選手たちに注目していて、誰も俺や司に気づいていない。
「いよいよ始まる。大和はもちろん、ちゃんリサを応援するんだろ」
「そうなるのかな?」
「ハッキリしないな!」
「う~ん、どちらも応援したい感じだからな」
そんなことを話していると、両チームがコートに入ってきた。
ここで銚吠高校闘球祭のドッヂボールのルールを説明しよう。
人数は一チーム七人で、最初にコート内に内野を四人、コート外に外野を三人置く。
試合時間は五分間。延長戦は三分間。
外野の復活ルールはなく、アウトになるとコートへ戻ることができない。
ジャンプボールで最初のボールの所有権を決める。
お互いの準備が整うと、勝負スタート!
ワンバウンドしたボールに当たったり、顔面に当たったりした場合はセーフ。
アウトになった内野は外野へ向かう。内野が残り一人になった時点で、最初の外野が内野に入る。
簡略化するため、その他の細かいルールは決められていない。
そのため露骨な時間稼ぎや無意味なパス回しなど、審判が臨機応変に対応する。
選手たちが白線内に入る。
「さぁて、巨人退治でも始めますか!」
「「!!」」
「……巨人って誰の事?」
「あれっ? 如月先輩、もしかしてまた身長伸びました? 羨ましいな~」
繭の体からどす黒いオーラが放出される。空気が張り詰めて、緊張感が高まる。
「周りは翌梨たちの勝利を希望のようだけど、ボクは空気を読むのが苦手なんだ……」
繭から発せられる圧迫感、纏う威圧感が急激に増した。
「真っ先に潰してあげるよ!」
それに一歩もひるまず、繭の敵意を真っ向から受け止めるリサ。
「確かにこのままじゃ、すぐにやられちゃいますね」
両手の黒いリストバンドを外し、観客の方へ投げる。
次に靴を脱いで、それも投げ捨て、裸足になる。
「おい、これなんだよ!」
「なんだなんだ?」
「このリストバンド重いぞ!」
「こ、こっちの靴だって!」
「い、一体何キロあるんだよ!」
ざわめき出す観衆。
「つ、つまり翌梨リサは、これまでこんなハンデを背負って勝負していたってことなのか!」
「ウ、ウソだろっ!」
格闘漫画にありがちな重りを外す演出。これが受けないはずがない。
「さぁ~て、体が軽くなりました」
その場で軽くジャンプをする。もちろん、今までの試合は普通のリストバンドに靴を使用して、決勝戦直前に付け替えただけだ。
「さぁ、最高のショーをお見せしましょう!」
観客に向かって挨拶をする。
完全に空間を支配したリサ。ヒール化した繭。
対極する二人の勝負が今、始まろうとしていた。




