●戦い前の静けさ
その期待通り、一年三組は順調に勝ち進んでいった。
全試合接戦で、見ている生徒たちはシナリオのないドラマを見ている気分だろう。
ちなみに俺が参加したサッカーはトーナメント方式。
一回戦で負け、昼前には暇になった。
こんな大会はクラスのリア充どもが楽しむものだ。
俺のような日陰者はディフェンダーで、彼らの引き立て役になる。
「ヘイヘイ! マイボー、マイボー!」
サッカー経験者にパスが回ると、華麗なドリブルで俺を抜き去る。
同時に女子の黄色い声援が飛ぶ。
運よく止めようものなら、ヤジが飛んでくるレベルだ。
その後も、何度もフェイントに引っかかり、抜かれてしまう。
完璧な引き立て役。名脇役で主演男優賞が貰えるレベルである。
そんなわけで早くもやることがなく、昼食後はブラブラと他の競技を観戦していた。
「先輩……」
「あぁ、日向寺。お疲れ様」
今日は体操着のため、男子生徒要素ゼロである。
「近くで見ないのぉ?」
「……追い出された」
前日からの場所取りで、最高のポディションを確保。
新聞部顔負けのカメラも用意していた。
しかし、実行委員会に見つかり、カメラは没収。
ドッヂボールのエリアから追い出されてしまった。
「翌梨もいつもにも増して、スパッツが似合っていたのに、近くで見られないなんて残念だ!」
「……パスカット」
「何?」
「先輩……一回カットした」
「ああ、よく見てるんだな」
俺も健全な男子高校生。
男だとは言え、可愛い子との会話はテンションが上がるものだ。
「岬はどうだった?」
「まだ勝ってるよぉ~」
隣にチョコンッと座る。
うん、完全に仕草が女だ。
他愛もない会話をしていると、本日の主役が現れた。
「大和先輩なら動画や写真を撮っているかと思いました」
「没収されたよ」
「最近は盗撮だの、何だのうるさいですからね」
「俺をそいつらと同じにしないでもらいたいな。でも、ちゃんと心の中に保存してあるよ。瞼を閉じれば、そこにスパッツが浮かび上がる。それに俺は写真に写らないものを記憶したい」
「写らないもの?」
「目で見えるものだけじゃなくて、気温や匂いや空気、その時の感情をインプットしたい」
「なかなか語りますね」
「ところで、今更ながら、よくみんなにスパッツを履くように説得できたな」
「ああ、それならみんなに他校の男子を紹介するって言ったら一発ですよ! 恋愛に飢えている子が多いから、説得は簡単でした。特訓だって、エサがなければ付き合ってくれませんよ」
「そんなもんなのか」
熱い友情があるのかと思ったが、現実はこんなものなのかもしれない。
「恥ずかしいのは最初だけ。見られて緊張するのも最初だけ。緊張やプレッシャーも一度慣れると、それは快感に変わる。優勝に向けて、いい傾向です」
優勝をかけたトーナメント戦の観戦者は、今よりも多いだろう。
その下準備としても、最初から観客の視線に慣れさせるのは上策だ。
「特訓の成果もあって、素人集団だったわたし達も、かなり戦えるようになった。やっぱり最大の敵は如月先輩ですね」
「俺も見たけど、凄いな」
「鬼神の如き働きです。個々の力だけなら、今大会、二番じゃないですか?」
「ほぇ~、副会長さんよりも強い人がいるのぉ?」
「何言ってるの、わたしに決まってるじゃないですか! 普段の如月先輩って温厚な性格だけど、勝負となると怖いですね」
「だけど、それが面白いんだろ?」
「わかってるじゃないですか!」
昼食休憩も終わった午後一時。
ドッヂボールのリーグ戦が終了し、ここからはトーナメント戦になる。リサ率いる一年三組と繭率いる二年三組はそれぞれリーグ戦を勝ち抜き、トーナメントに残った。
そして、午後三時。ついに決勝戦が始まろうとしていた。




