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翌梨リサは欲深い  作者: 夏蹴礼
第三章 闘球祭(とうきゅうさい)
27/54

●いざ尋常に勝負

 空に高々と放り投げられた黄色のボール。

 ジャンプボールは長身の繭が勝ち、ボールは二年の陣地に転がる。

 両者の準備が整うと、激しく鳴り響くホイッスル。

 闘いの火ぶたは切って落とされた。


 観客と化した大勢の生徒たちが、選手たちの一挙一動を見守った。

 一年チームはコートの中心に横一列になり、腰を低く落とす。

「見ろよ、あの突き出たスパッツヒップ! 体のラインがハッキリとわかる! ポリエステル繊維の光沢感がたまらないぜ!」

「やっぱり大和は追い出した方が正解だったか……」


 繭は軽く助走をつけ、リサに向かってボールを投げる。

 ギュオォォーーーン!

 そんな音が鳴りそうな、空気を裂く剛速球。

 繭のボールがリサに襲いかかる。


 いきなりのリーダー対決。

 リサは足を肩幅に開いて、膝を軽く曲げる前傾姿勢。

 顎を少し引いて、上目で相手と迫りくるボールを冷静に見据える。


 飛び込んでくるボールを両腕で下からすくい上げるように、胸でがっちりと抱え込んだ。

 ボールの勢いを殺した完璧なキャッチである。

 どよめく観客の生徒たち。

 剛の如月繭に、柔の翌梨リサと言ったところだろう。


「こんなボールじゃ、私は倒せませんよ」

「開会式のお返しさ」

「なるほど。それでは改めて勝負を始めましょう!」

 ボールを繭の足元に転がす。

 かかって来いとばかりに、片手をクイクイ動かし、余裕の表情で挑発する。


「カモォ~ン!」

 そのパフォーマンスに盛り上がる生徒たち。

 ボールを拾い上げた繭。

 平静を装っているが、この挑発にはかなり頭にきている様子だ。

 ボールを何度も地面に弾ませる。


 そして、今度は大きく助走をつけ、勢いよくジャンプをする。

「その余裕の表情がいつまで続くかな!」

 バレーボールで鍛えられた跳躍力と体幹は、長い滞空時間と空中でのボディバランスを可能にした。

 まるでハンドボール選手がゴールを狙うかのように、相手選手を狙う。


 大きな体から繰り出されるオーバースロー気味にボールを叩きつける投法。

 それはまるで隕石を彷彿とさせ、地面が揺れた錯覚を起こす。

 まるで地球全体が震えているようだ。


「すげ~、揺れてるな!」

「あぁ、何がとは言わないが、揺れてるな。あれは反則だろ!」

「実にけしからん! もっと揺れろ!」

「イッツ・アメイジングッ!」

 男子生徒たちの歓喜の声が上がる。


 そのボールを辛うじて避ける一年チーム。

 ボールは地面に叩きつけられ、大きく跳ね上がり、外野まで飛んで行く。

「すごいボールだな」


「すごいだろう。繭っちはああ見えて、かなり負けず嫌いなんだよ。今日はいつも以上に激しいね。どこかの命知らずが繭っちを煽ったからね。こんな大観衆の面前で挑発されたら、そりゃ頭に血が上るよね」

「怒るだけで、泣かなくて良かったよ」

 司が俺を見上げる。


「な、何だよ?」

「別に……それに繭っちはそんなに弱くないよ! ただし、冷静さを失っている。早くもちゃんリサの策がハマったようだね」

 繭は一見して大人しそうなタイプだが、その胸の奥には熱い想いを秘めている。


「繭っちは攻めよりも守りの方が強い。だけど本人の好みで言えば、守る戦いよりも攻める戦いの方が好きなんだ。攻撃こそ最大の攻撃って感じ。戦略なんて関係ない武力でなぎ倒すタイプ。見た目とは違って切り込み隊長なんだ」


 プライドが高く、負けず嫌い。

 それが如月繭と言う人間だ。

 リサはそんな繭の自尊心を攻撃したのだ。


 最大火力を持つ繭を中心に外野と先輩の直線的攻撃。

 一気に仕留める短期決戦型。

 それが学年優勝に導いた、二年三組の戦略である。


「オッケ~! 良く見て!」

「無理しないで避ける! 避けれるよ!」

 一方、一年二組は声を掛け合い、腰を落とし、少しでも面積を小さくする。


 常にボールを持つ選手を見据えて、コートの中心に陣取る。

 そのまま、無駄のないステップでボールを避ける。

 一人一人の力は強くないが、リサの統率力が二年三組と対等に戦うことを可能にする。


 しかし、徐々に実力差が出始める。

 ドゴンッと鈍い音が鳴ると同時に、ホイッスルが鳴った。

 最初に均衡を崩したのは繭の主砲であった。


 アウトになった一年の選手は尻餅をつき、味方の選手が素早くボールを拾う。

 一人の犠牲により、ようやく一年にボールが回った。

「先輩のボール、想像以上に手元で伸びる。それに速くて重いから、注意して!」


 アウトになった選手が足を擦りながら、外野に出て行く。

 よほど痛かったのだろう。

 それを平然と見送る繭。

 これが勝負の場での繭の本当の姿なのだろう。


 普段の温厚な性格の繭からは想像できない凶暴さと無慈悲さがあった。

 試合が動き出したことで、観戦する生徒たちの声援がヒートアップする。

「あんなの男子でも避けられないぜ」

「顔に当たったら、トラウマものだな」


 攻守交代とばかりに、今度は一年の素早いパス回しが始まった。

 一年チームはリサを主軸とし、コート全体を使った早いパス回しが得意なチームである。

 無理はしないで、相手のミスを誘うスタイルである。


「これはまた、二年とは真逆の戦法だな」

「だけど、このパスも簡単には捕れないぜ」

 早いパスで二年生を混乱させ、体制を崩した相手を狙い撃つ。


「今だ!」

 リサの鋭いボールが二年チームの選手の足に当たりアウト。

 すぐさま繭がボールを拾う。

 守備体制の整わない一年チームに野球部顔負けの弾丸ボールを投げる。


「ああっ!」

 二人目のアウト。ボールは大きく跳ね上がり、二年の外野に渡る。

「そりゃ!」

 そこからさらにもう一人がアウトになった。

「ごめん、リサ!」


「大丈夫。気にしない、気にしない!」

 二年チームから初のアウトを取ってから、ほんの一瞬の出来事であった。

 あっという間に、二人のアウトで一年はリサだけになってしまった。

 リサがボールを拾うと、最初に外野だった三人の選手が内野に移動した。

 時間はまだ二分も経っていない。


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